第81話 ティアマト胎動
魔王城の地下へと向かったアイリがティアマトに向けて魔王の指輪Rをかざすとティアマトを拘束していた鎖が外れ、封印が解除される。
「でかしたぞ、小娘。我が力の一端をくれてやろう」
スキル【ティアマトの権能(弱)】(召喚獣の攻撃に『低確率で毒状態を付与する』状態を追加)を手に入れました
そして、アイテム欄にあった魔王の指輪Rが役目を終えたことで装備可能状態になり、アイリはさっそく指輪を装備する。
アイリ Lv46
種族:ハイエルフ
職業:黒魔導士
HP333/165(+185)
MP925/395(+530)
攻撃:106(+158)
防御:56(+286)
知力:162(+254)
敏捷:108(+286)
運:58(+54)
残りスキルポイント:70
装備品
メイン武器:邪龍の杖(最大MP+200、知力+200、召喚獣の攻撃力アップ)
サブ武器:ヒュドラダガー(最大MP+100、攻撃+100、魔法扱いで毒攻撃)
頭:黒魔導士の帽子(最大MP+20、HPを最大MPの1/5の数値分アップ)
服:黒魔導士のローブ(最大MP+20、防御を最大MPの1/4の数値分アップ)
脚:黒魔導士の靴(最大MP+20、敏捷を最大MPの1/4の数値分アップ)
首:魔力の首輪(最大MP+20)
右手:魔王の指輪R(最大MP+100、防御・敏捷・運を魔法の数×2の数値分アップ)
左手:魔王の指輪L(最大MP+100、攻撃・知力を魔法の数×2の数値分アップ)
「惜しい!敏捷、あと6足りたら分身の数が増えていたのに!」
アイリが悔しがっていると、シークレットクエストの案内が届く。どうやらここでクエストを終わらせるか、このままシナリオを続けるか選べるようだ。当然、あれだけ苦労したのだから、受けない理由はなく「はい」を選ぶ。
「私を封印したアイツは相当弱っているようだ。封印されている間に何があったかは知らんが、やり返すには好都合」
「ダメだよ、やり返したら」
「何をぬかす。これは正当なる復讐だ」
空中に浮かび上がる11個の魔法陣とティアマトの足元から広がる巨大な魔法陣が光り輝き、地上へと戻っていく。それと同時に全プレイヤーに対して緊急レイドが勃発される。その様子をソロモンは自身のスキル【千里眼】で監視していた。
「やはりこうなったか」
「いかがいたしましょう」
「余は結界を破るのであれば地下のものを好きなだけ持っていけと命じた。それはすなわち、ティアマトの封印を解いた際の責務も背負うということ」
「では、傍観すると」
「だが、ガウェインとの盟約もある。アモン、フォルネウスをつれて眷属の半数を討伐せよ」
「畏まりました」
「さて、ティアマトを討伐できるほどの力があるのであれば、余も異邦人に対し態度を改める必要がある。余の期待を裏切らないでもらいたいところだ」
ソロモンがふん反りながら、千里眼で地上の様子をうかがうのであった。
緊急レイドの集合場所は魔界と地上をつなぐゲート前。そこにはティアマト本人だけでなく、11の怪物のうちの5体――大蛇のバシュム、キメラのムシュフシュ、獅子の獣人で戦士のウガルル、巨大なケンタウロスであるクサリク、7つの首を持つ竜ムシュマッヘがそろっていた。
「ソロモンめ。転移の際に余計な真似を……まあいい、地上を制圧するには十分すぎる戦力だ。我が子たちよ、今度こそ、世界を産みつくそうぞ」
「そうはさせないよ!」
アイリが啖呵を切ると同時に、たまたま近くにいたプレイヤーたちがティアマトとその眷属に対し剣や杖を向けていた。
「よくわかんねえけど、面白そうなのやっているじゃねえか!」
「あとで掲示板にクエストのやり方教えてくれよな」
「クリアしたらね!」
「約束だぜ!」
見知らないプレイヤー男性プレイヤーと一緒にティアマトを守るように展開している眷属たちへと向かっていく。空を飛べるアイリは、空中から地上に向かって毒や炎の玉を吐き出すムシュマッヘと向かっていく。
「そっちが7つ首ならこっちは9つ首だよ。ヒュドラブレス!」
9つの首から毒を吐き出すヒュドラとそれに負けじと応戦するムシュマッヘ。本来ならば、女神であるティアマトから生み出されたムシュマッヘがイチプレイヤーの攻撃に拮抗されることなどありえない。だが、その出生がゆえに神性を持っているムシュマッヘたちに対して、ヘラクレスさえ死に追いやったことで付けられた神性特攻をもつヒュドラブレスは相性が悪い。つまり、この場においてアイリは最大のティアマトキラーとなっていた。
「ムシュマッヘさん、貴方の相手はこっちだよ」
「GYAOOOOOOO!!」
「なんだありゃあ!? 大怪獣戦争が始まるかと思ったらロボットアニメの高速戦闘じゃねえか」
「あそこまで引き離されたらいっそのことすがすがしいよね」
「まあな。トップはトップ。俺たちは俺たちなりに頑張りますか」
ビュンビュンと高速で動き回るアイリとムシュマッヘと戦いに追いつけないプレイヤーたちは地上に残った眷属たちとの戦いに対し、雑念を入れることなく専念する。クサリクが斧を振り回しながら迫りくるのに対し、魔導士たちが遠距離攻撃で足止めをする。それを見たウガルルが剣をもって後方にいる魔導士を狙おうと突貫してくるのをタンク職が必死に食い止める。
「ぐっ……一気に半分持っていかれたぞ」
「やべえ、回り込まれた!」
隠密スキルをもったバシュムと機動性の高いムシュフシュが回り込んでプレイヤーたちを分断させようとしたとき、突如動きの止まったバシュムに水の剣がきらめき、ムシュフシュに轟音の拳がめり込む。
「遅れてすまない。ArthurはMerlinに起こしてもらいに行っているが、【Noble Knights】これより参戦する」
「リア充爆発しろ!」
「【桜花】もログインしている分だけ参戦」
「魔王の保護者、ちゃんとしろ!」
「おっと【サンダーバード】も忘れたら困るぜ」
「一部クエスト攻略できないのどんな気持ち?」
一部あおるような言葉もあるが、有名どころのクランが続々とティアマト戦に集まってくる。全プレイヤーの総力戦となっている中、空中戦をしているアイリのもとにマサトたちもやってくる。
「私たちがムシュマッヘを……」
「といっても、結構ダメージが入っているようだぜ、おっさん」
「おっさんではない。どうやら毒のスリップダメージで削れているようですね」
「マジかよ。こういうのって毒無効とかがデフォルトじゃねえの」
「本体はそうかもしれませんが、周りの雑魚まで同じ耐性だと強すぎると判断されたのかもしれません」
「そういうわけか。まあ、俺のやることは一つ、とりま殴るだ!」
「わかりやすい馬鹿がいるぞ。よ~し、【アルカナジョーカーズ】死神部隊、行くぞ!」
「「「「おおー!!」」」」
【飛行】の下位互換とはいえ【飛翔】スキルをもつ死神をそろえている【アルカナジョーカーズ】はジョーカーを筆頭に、ムシュマッヘの懐に飛び込んでいく。死神の専用スキルで連続発生するクリティカル攻撃、アイリの毒攻撃、キッドの単発火力が襲い掛かり、精霊魔法も使われることなくムシュマッヘはほどなくして撃沈した。
「オレたちは長時間飛べねえから一度、地上の支援に回るぞ」
「私たちも行くよ」
ムシュマッヘを討伐したことで制空権を得たアイリたちは角からの雷撃で後方の魔導士に甚大な被害を出しているクサリクへと向かっていく。アイリたちに気が付いたクサリクが雷を操り、網のような雷撃が彼女たちを襲う。
「ガードアップⅡ!」
避けられないと悟ったキッドが防御アップの魔法を唱えて、身構えてその攻撃に耐えるも、周りの死神部隊が次から次へと落ちる。
「ちっ、オレは運よく避けられたが、壊滅か。この落とし前、つけさせてもらうぜ!デスソウルチャージ!」
直近で倒された敵・味方のプレイヤーの数だけ能力を上げるスキルを使い、ジョーカーが猛攻を仕掛けていく!それに負けじとキッドが連打を叩き込む。
「よし、魔王たちにヘイトが向かっているうちに叩き込むぞ!フレイムボルケーノ!」
「このまえ覚えたばかりの魔法使うぞ、テラサンダー!」
「私たちは弱いけど」
「バフで応援するぜ。インテリジェンスアップ」
上位プレイヤーだけに目立った活躍をさせまいと意地になる中堅プレイヤーたちややれることをやる初心者プレイヤーたち。チート行為では得られない楽しさがそこにはあった。
そして、クサリクが倒れるのとほぼ同時に、主力2人が欠けながらも【Noble Knights】がバシュムを、【サンダーバード】がムシュフシュとウガルルを倒し、残すはティアマト1人となっていた。