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第79話 ニブルヘイム

 2月上旬。バレンタインイベントの最中、アイリたちは相も変わらずフランやほかのドラゴンとともに空中戦の特訓をしていた。


「くらいな、ドラゴニックチャージ!」


「スキル【高速飛行】!」


 覚えたばかりのスキルで上空へとかわし、体をひねらせすぐさま攻撃態勢に移る。すでに【竜化】しているフランが空を飛び、アイリの攻撃をかわす。彼女の攻撃に気を取られているすきにと殴りかかろうとしているキッド。それを狙うドラゴンをマサトとChrisが頭上と足元から攻撃することでけん制し、邪魔させないようにする。


「そのてい……ぐっ」


「太陽バックにすればいいって漫画で見たことがあるぜ!」


 沈みゆく太陽を背にしたキッドがフランにようやく一発入れたところで、特訓が終了する。この1週間の訓練でアイリたちは


【高速飛行】(一定時間早く飛行できる)

【熟練飛行】(飛行時間の強化、スムーズな飛行が可能になる)

【航続距離強化】(飛行時間が大幅に延びる)

【空戦の知識】(飛行中に戦闘をした場合、攻撃・敏捷小アップ)


 を習得した。これでユグドラシルの最深部までたどり着けるかはわからないが、現状、アイリたちがやれるだけのことはやった。あとは深淵へとダイブするだけだが、すでに夕暮れ。本格的な調査は明日(現実世界では夜)に行うこととなった。


「ドラゴンステーキ……普通ならば喜ばしいのですが、こうもドラゴンに囲まれている中で食べるのは気が引けます」


「でも、ステータスアップの効果がついているのは大きいですよ」


「+3でもHP・MP除く全ステ上がるからありがてえよな」


「うん、なんだかみなぎってくる感じがする。ユグドラシルの葉で巻いて食べるとおいしいし」


「しっぽなんてすぐに生え変わるからのう」


「ついでにいうとドラゴンの血肉を食らうと不老不死とまではいかないが長寿にはなれる。かくいう私も幼少期からじっちゃんたちに育てられたおかげで、百年以上はこの姿だ」


「ひゃ、百年!? ってことはババアかよ!」


「あ~ん!地獄のフルコースでもう一度特訓したいだあ?」


「いいえ、滅相もございません」


「今回だけは聞かなかったことにしてやるよ。長く食べ続ければ【竜化】もできるようになる」


「マジ!? だったら、俺、今日からドラゴンステーキばっか食べる」


「だったら料理できるようにならないとね」


「うげー、俺、食べるの専門なんだよ……」


 アイリの言葉にいやな顔をするキッド。一応、ゲーム内に料理スキルはあるものの、わざわざ戦闘に使うスキルを捨ててまで習得しようとするプレイヤーはかなり稀である。となれば、現実の腕を磨くしかないが、それこそ面倒なものである。


「今日はあなたたちに料理を作ってもらいましたからね。片づけは私たち男性2人に任せて、裏の温泉でゆっくりと疲れをいやしてください」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


「行きましょう!」


 アイリとChrisがユグドラシルの大樹をぐるりと回り、裏の泉へと向かう。そこには多くのドラゴンに混じって数えられる程度しかいないが人間の女性もいた。彼女たちは大昔に災害や飢饉を収めるために人身御供として差し出された人たちだ。

 宝を大切にするドラゴンにとって、たとえそれが取るに足らない(モノ)だとしても、村で大切にしているモノであれば他の財宝と同じく手厚く保護するらしい。

 そして、ドラゴンの血肉に適応した者はフランと同じくドラゴンに近い存在となっている。そんな彼女たちと一緒に入ると、真っ赤な髪のスレンダーな女性から話しかけられる。外見はアイリたちとさほど変わらないように見える。


「アンタが噂のエルフたちか。どーせ、あたしらみたいに村に捨てられた者だろ。帰るところもないし、仲良くしようぜ!」


「それは違うかな」


「違うのかよ。ちぇっ。じゃあ、冒険者か何かか」


「そうです」


「へえ~、だったら面白い冒険談教えてくれよ。つえーやつとの戦いでもいいぜ」


「じゃあ、ファフニールさんとの話から……」


 赤髪の女性にこれまでの戦いを話し、もうじき1年になるこのゲームの思い出を振り返っていくのであった。



 翌朝、前回はあまりの深さに引き返すしかなかったユグドラシルの縦穴。今回はパーティーにNPCの竜化フランも入っている。羽を広げて降下していく中、盲目のワイバーンがアイリたちに向かって襲い掛かってくる。


「気をつけろ。バットワイバーンは音に敏感だからな。羽ばたいているだけで位置が聞こえるぜ」


「だったら音響玉でかく乱します!」


 Chrisがモンスターにしか聞こえない巨大な音が鳴り響き、バットワイバーンの繊細なセンサーが一気に狂う。あちこちに頭をぶつけているバットワイバーンに攻撃を加えていくアイリたち。


「さすがに一撃ってわけにはいかないけど」


「これくらいなら楽勝だな。パワーナックル!」


「むっ、遠方より風切り音。援軍ですか。ならばレインアロー!」


 無数に分かれた光の矢が暗い穴底へと向かっていくと、モンスターの悲鳴が鳴り響いていく。先制攻撃でヘイトを稼いだマサトに向かってバットワイバーンが超音波のレーザーを放った時、黒いバリアに阻まれる。


「カースバリアなら空中でも使えるよ!」


 お返しと言わんばかりに反射したレーザーによって貫かれ、落ちていくバットワイバーンたち。遠距離攻撃をあきらめ、肉弾戦に切り替えようとしたバットワイバーンの数体がマサトに向かっていくと、ドーピング薬を飲んだキッドが間に割り込む。


「へへっ、男なら拳で語るよな。パワーアップⅡも使って一気に決めるぜ!シューティングナックル!」


 流星のように高速で打ち出された拳がバットワイバーンに襲い掛かり、背後にいたバットワイバーンごと吹き飛ばしていく。薬師ゆえに大量に用意できる各種のドーピング薬とエルフの豊富なMPを利用した肉体強化魔法によるインファイト、それがキッドの基本戦術だ。


「どんどんかかってきやがれ!」


「かかってこられても困りますがね」


「飛行時間にはまだ余裕があるけど、早く降りよう」


「鉄は熱いうちに打て、善は急げです」


 アイリたちが襲い掛かるバットワイバーンを退けながら、飛行時間ギリギリで地底にたどり着く。そこには一面、氷で覆われた幻想的な世界が広がっており、近くには独の川が流れている。


「みなさん、メニュー画面を見てください」


「マサトさん、なにかありましたか?」


「現在地の欄をみればわかります」


 マサトの指示に従い、メニュー画面を見開くとそこには『ニブルヘイム』と表記されていた。ゲームや北欧神話に疎いアイリにはピンとこないようだ。


「死者の国ニブルヘイムにはフヴェルゲルミルの泉と呼ばれる死者の血と猛毒が流れる熱泉が流れています。そして、そこに住む竜はゲームでも有名なニーズヘッグ」


「名前だけなら知っているぜ。すげー強い闇タイプのドラゴン」


「ええ、ですからこのクエストのボスキャラはネームバリューからしてニーズヘッグで間違いないかと」


「近くに猛毒があるってことは、耐毒装備に切り替えた方がいいな」


「ええ、私も装備を……」


 マサトとキッドがプリセットしていた装備に付け替えて、自分らのアイテムを声掛けして確認する。心もとないのであれば、キッドにこの場で作ってもらい、準備を万全にするのが彼らのお決まりだそうだ。


「ええ、お待たせしました。ではニブルヘイム攻略に進みましょう」


 5人は氷の大地の最奥にいるであろうニーズヘッグとの戦いに挑んでいくのであった。

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