第6話 サービス初日後
ZONYの会議室で複数の運営スタッフがソーシャルディスタンスを取りながら座り、互いの資料に目を通していた。同じ大学出身ということもあり、畏まったものではなくかなりフランクだ。
「サービス初日は順調な滑り出しだね」
「ええ、クレームはいくつかあるけど、ゲームが途中で止まるような深刻なバグは報告なし。これも加藤さんのデバッカーチームのおかげですよ」
「それほどでも。確か、クレーム内容が……ランダムスキルの習得をキャラクリ前にしろ。スキルとキャラの特性がちぐはぐになる」
「キャラクリしてもらわないと、カバンとかの機能が使えないんだよね」
「やれる範囲と言えば、ステフリの前くらいか」
「でも、急に仕様を変えるとバグの温床になりかねない」
「どうします?」
「プレイヤーからすればそうなるのが良いかもしれん。だが、サッカー選手の息子がサッカーの才能を必ず受け継ぐとも限らず、卓球の才能があったりするが現実だ。ゲームでもそのちぐはぐ感を楽しんでもらったほうが良いんじゃないか」
「でも、不満持っているプレイヤーが少なからずいるのは問題だな。確かスキル進化(仮)があったはずだが?」
「ありますけど、バランス調整もあってまだ実装は当分先です」
「プレイヤーの行動次第でスキルが決まるシステムが実装されれば、スキルで不満を持っている者も多少は緩和されるかもしれんのだが……」
「それはそれで不満言うやつはいますよ。同じ進化先が出ないとか」
「むむむ……」
「他のクレームは魔法が覚えられないから、スキルポイントが貯まりません。最初に1つくらい覚えとけよ」
「そういうな。ちょっと不親切だったかもしれん。アプデ補填でスキルポイント20くらい配布しておいた方が良いかもしれん」
「ですね。次のクレーム。NPCからシカトされるのはやめてほしい。ちょっと魔族の悪度を上げすぎましたかね」
「かもしれないな。次のアプデで緩和しておこう」
「でも、やりすぎると魔族ゲーになるからバランスが……」
「だよな。スキル次第でタンクにも後衛にもなれるから、とりま安定になっちまう」
「今はそのポジションが人間ですね」
「そういうポジションとして作ったから、むしろ健全」
「今、掲示板見ていますけど、善になれば良いとか特定の人物とパテ組んだら緩和されるって情報が出ています」
「前者はそういう風に作ったけど、後者はそんなNPCいたっけ?」
「いや居ない。スキルや称号じゃないの?」
「その系統は入手条件が厳しいはずなんだけど……プレイヤー情報みても良い?」
「気になるしな、見ようぜ」
「該当スキル・称号もちは……いたわ、1人」
アイリの顔写真とパラメーターが全員のPCに映し出される。彼女のデータを見たスタッフは頭を抱え始める。
「なんでこの娘、レベル20以上で受けるクエスト受けているの?」
「ありえねえだろ。チーターならBANだぜ」
「待って。行動ログ確認する」
アイリのゲーム内で2日間の行動を早送りで見始めるスタッフたち。
「ちゃんと受けているね」
「本来の手順じゃないけどな。本当は戦闘で勝ってほしいのにギャンブルで勝っているよ」
「万が一もあるから、絶対勝てないようにイカサマゲームにしていたのになんで勝てているんだよ」
手元の資料によれば、レベル20以上でごろつきを倒してほしいという依頼が発生
→レベル20程度の取り巻きとレベル23のオカシラと戦闘
→逃走したオカシラを捕まえて、湖のほとりの魔女の弟子だったことを聞く
→魔女の試練に打ち勝つことで職業クエスト発生
「でも、このスキル構成であの試験をクリアできるはずが……」
「ああああああああああああああ!!」
「どうした?」
「この娘のスキル挙動をデバッカーに確認してもらったら全状態異常耐性に精神耐性の効果も含まれているバグが……」
「それくらいなら大丈夫じゃないの?社内版から上方修正したみたいにすれば」
「いやいや、PVPイベが控えている中でそれはダメだろ。対戦に関わるようなスキルのバグ放置したら何言われるかわからん。幸いこのスキル持っているのこの娘だけだから、今すぐ修正して、ランダムスキル書1個補填すればいいだろう」
「でも、このスキルの習得条件って各耐性の大を揃えないと行けないから、実質大のスキルなんだよね」
「ランダムスキルだと中までしか出ないけど、コイツは名前に中がはいっているから、唯一出る大相当のスキルなんだよなぁ」
「つまり、割にあわないと?」
「1個だと不満あるかも。本来消費する分の60ポイント返すか、もう1個くらいあげないと」
「あまり補填しすぎると贔屓って言われるかもしれない」
「今回はアプデ補填で全プレイヤーにGと消費アイテム、スキル修正で全プレイヤーにスキルポイント20配布、その該当プレイヤーにスキル書1個とお詫びポイント30配布。それで文句無いだろ」
「異議なし」
こうして、着々と連休明けのアプデの準備が整えられていくのであった。