第67話 対策と検証
「なんじゃい、雁首をそろえた割には情けない奴らばかり!」
「いや、マーサ、いくらなんでもレベル上げすぎだろ。合格したの1割も満たしてないじゃねえか」
「そもそもお前がふるいにかけていれば、こっちの負担は少なくて済むんじゃ。この馬鹿弟子が!」
「Dランクの俺がレベル40オーバー相手は無理だろうが!」
「ならレベルあげんかい!」
「ぽんぽん上がれば苦労しねえよ!」
罵っているマーサとオカシラが、アイリが来たことに気づき、言い争いを止める。立ち話もなんなので、愛理を家の中に招き入れて話をする。
「闇魔法の習得希望者が多くて困ったもんじゃ」
「マッスルさんみたいに教えればいいのに」
「そんな安請け合いするものか」
「ギルドから頼まれて適正レベルの振り分けをしているこっちの身にもなってくれ」
それからしばらく続いた二人の説得により、マーサがようやく折れて習得難易度のレベルを下げることを受け入れるようだ。そして、アイリはマーサにアスタロトのような格上相手の対処法について相談する。
「ふむ。ソロモン72柱、また厄介な連中に目をつけられたのう」
「うん。アスタロトさんみたいに毒が効かなくて、精霊魔法以外の魔法が通じない相手かもしれないから、新しい攻撃を覚えようと思って……」
「魔法が通用しにくいだけなら、呪い・毒でもカースブレードやポイズンブレードみたいに魔法が効きづらい相手用の技もあるが……」
アイリはマーサが提示してくれる魔法や技、スキルの一覧をゆっくりと眺める。名前だけでわかるものも多いが、内容を聞かないと不明なものも少なからずある。
「う~ん、これとこれとこれならどう?」
「構わんが、スキルポイントは返還されぬぞ」
「うまくいけば御の字」
魔法【ダークウェポン】(40ポイント消費:一定時間、影や闇から武器を作り出す)、
魔法【パワードレイン】(120ポイント消費:相手の攻撃値の一部を自分の攻撃値に加える)
魔法【マジックドレイン】(120ポイント消費:相手の知力値の一部を自分の知力値に加える)
を覚えた
「スキルポイントもだいぶ使っちゃった。さっそく試し撃ちだ!」
アイリは覚えたてほやほやのダークウェポンを使うと、アイリの足元からカラーリング以外はサブ武器のヒュドラダガーと瓜二つの短剣が現れる。
「スキル【射出】!」
複製された短剣がまっすぐ湖へと向かい、バシャリと落ちる。それを見た後、横に歩いていっても2本目、3本目とコピーされたヒュドラダガーも真っすぐ飛んでいく。
「武器の複製だから、ダークウェポンの効果が適用されている間は自動的に武器が飛んでいく。近づく必要もないし、手が空くのは良いね」
アイリは緊急回避手段として袖口に仕込んである種+【急成長】コンボを用意しているが、杖と短剣で両手が防がれていては、それができなくなる。
「ポイズンショット、【急成長】」
射出と同時に魔法と急成長でツタを伸ばしていく。同時に攻撃ができることを確認し、分身すれば分身体からもダークウェポンが飛び出し、手数をさらに増やすことができる。この攻撃方法はアイリからすれば普段の攻撃を阻害しない便利な技となっている。
だが、手数を増やしたとはいえ一番の問題は単純な火力勝負。ステータスに1ポイントも振っていないアイリだが、オカシラに頼んでパワードレインの実験台になってもらい、その効力を確認する。
「格下だからって遠慮するんじゃねえぞ。どこからでもかかってこい!」
「わかりました。パワードレイン!」
「ぬおっっと!? 剣が急に重くなったみたいだ。振るえなくはないが、いつもよりもキレはない。この状態で戦うのは正直な話つらいところだな」
「鈍らせることはできると。さっきと同じく射出コンボを使って……」
ダークウェポンでコピーしたヒュドラダガーが湖へと向かっていき、先よりも飛距離が伸びて湖へと落ちる。どうやら攻撃が上昇した効果が表れたようだ。
「1.2倍くらいは飛んでいるから、速度も1.2倍。つまり、威力は1.4倍くらいの上昇? 攻撃値がそのまま火力に直結するかはわからないけど、今の攻撃値が装備込みで153だから、単純に考えたら60くらい奪ったことになるのかな」
NPCであるオカシラのステータスはわからないが、一般プレイヤーが300程度。彼らを格上扱いしているとなると高くても200~250くらいだと考える。つまり、1/4近く奪った計算だ。
「オカシラさん、どれくらい力を失ったかわかります? 1/4くらい?」
「25%も失っちゃあいねえよ。だるさからすると1割くらいか」
「1割ってことは速度の上昇値で概算すれば大体のつじつまは合うかな」
マジックドレインも同じような倍率なのか等、まだまだ検証することはあるが、ひとまずテストは切り上げた際、まだあの挨拶をしていなかったことを思い出す。
「マーサさん、オカシラさん」
「ん? なんだ」
「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「なんだそりゃあ」
「いわれなくても、お前さんらの面倒は見てやるわい」
一番世話になった二人に新年のあいさつをしたところで、アイリはゲームをログアウトするのであった。
その後、一般プレイヤーでも闇魔法の習得が進んでいき、毒や呪いの状態異常がスキルによる補助がないとつきにくいことや、黒魔導士の転職条件の一つが『習得した魔法の大半を闇魔法で占める』ことが判明してすでに多数の魔法を覚えている一般魔導士が悲鳴を上げたりするなどしばらくの間、盛り上がりを見せるのであった。