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第65話 大晦日と新MAP

 大晦日。愛理は年越しそばを食べ終えた後、TheyTubeでEFOについての生放送が来るのを待っていた。そして、このゲームの広告担当者さんやNPCの声優をしているゲストの方々を迎えて、これまでのイベントやメインストーリーを振り返りながら、そのときの裏話を話していく。

 そして、攻略情報のコーナーが終わった後、愛理は皆が待っているゲームの世界へとログインする。クランホームにいくと、受験勉強でゲームを離れていたリュウやケイも、年末年始くらいはとゲームの中へと入り、久しぶりに【桜花】メンバーが勢ぞろい。また、Chrisが招待した赤い衣装をまとった青髪の女の子も来ている。


「初めまして、元【Begin the GAME!】のギルマス……クランリーダーで今は【リベリオン】所属のAoiと言います。この度はChrisちゃんのことで【桜花】に迷惑をかけてしまい、申し訳ございません!」


「いや、別に気にしなくてもいいよ」


「そうです。ここの人たちも面白い人が多くて楽しいです。Aoiも来たらどうですか?」


「メンバーの引継ぎもあったから【リベリオン】にいたけど、Chrisちゃんの一件もあるし、もう抜けても問題ないかな」


「こっちはいつでも大歓迎!」


「ありがとうございます、アイリさん。今のリーダーと話してからにはなりますけど、よろしくお願いします。種族は人間。職業は赤魔導士……魔法戦士といった方がわかりやすいかもしれません」


「魔導士じゃないってことはレア職業?」


「はい。転職条件は技と魔法を均等に覚えることと言われています」


「攻撃依存の技に知力依存の魔法、どっちも上げるとかステ振りがめん……難しそう」


「ははは、その通りなんですけどね。魔法使いなのにスキルポイントをバランスよく振っちゃって、高いステでも200届いていないんですよね。でも、そのおかげもあってこの職業になれました」


「赤魔導士と組んだことないから、一緒にパーティー組みたいところやな」


「なら、新年と同時に実装される魔王城のMAPに行こうや」


「生放送でいろいろな情報があったもんね」


 先ほどの生放送では闇魔法が一部のプレイヤーしか使用していないことへの批判もあったこともあり、習得条件の大部分を開示した。また、三が日にログインするとランダムスキル書・上等の貴重なアイテムがもらえ、さらには新MAP魔王城が追加、レベル50までのレベルキャップの解放が追加され、3月にPVPイベント『第2回人魔大戦』の実施が発表された。


「年明けたらお年玉のスキル書を開けてから、魔王城に行こう!」


 年が明けるまでもうすぐ。自分たちの私生活を含めた雑談をしていくと、刻々と時間が過ぎていき、ゲーム内に除夜の鐘の音が鳴り響く。


「あけましておめでとう!」


【桜花】メンバーがプレゼントに届けられたスキル書・上を選んで一斉に使用する中、アイリはクリスマスイベントで手に入れたスキル書も併せて使用する。


【上級魔法知識】(魔法及び関連するスキルの成功率・命中率を大幅に上昇させる)


【射出】(道具や武器を猛スピードで飛ばすことができる)


(ん? このスキルなら強力な方の精霊魔法のデメリットを緩和できるかも)


「なーに、スキル欄まじまじ見ているの? 良いの、当たった?」


「うん。ユーリちゃんは?」


「私もいい感じのスキルもらったよ。じゃあ、さっそく――」


「その前に、アイリちゃんの装備を強化したいのだけど。Lv2になったのと、【上級鍛冶知識】を得たから、派生できる武器が増えたのよ。ただレア素材を使うから、断っても構わないわ。Lv3になったらより強力な武器を作るかもしれないもの」


「倉庫にある分、全部使ってください。なんだったら邪龍のなんとかも」


「よし来た!ちょっと待ってね」


 倉庫にある生産素材がごっそりとなくなり、LIZがトンテンカンと槌をたたいていく。すると、1本の短剣が生まれる。出来上がった短剣を光に照らすと、刃が薄紫色に怪しく光り、絵にはヒュドラの頭部をデフォルメしたような文様が描かれている。


 ヒュドラダガー:MP+100、攻撃+100、魔法扱いで毒攻撃を行う(ダメージ計算は攻撃値参照。消費MP2)。


「えっ~と、魔法扱いってことは通常攻撃に魔法に関するスキルが上乗せされるってことかな」


「だとしたら、見た目よりも威力があるかもしれないね」


 ふむふむとユーリと一緒に武器の詳細について読みながら、装備を入れ替えていく。


 アイリ Lv45

 種族:ハイエルフ

 職業:黒魔導士

 HP309/160(+149)

 MP745/385(+360)

 攻撃:103(+50)

 防御:53(+187)

 知力:159(+200)

 敏捷:105(+16)

 運:55

 残りスキルポイント:360


 装備品

 メイン武器:邪龍の杖(最大MP+200、知力+200、召喚獣の攻撃力アップ)

 サブ武器:ヒュドラダガー(最大MP+100、攻撃+100、魔法扱いで毒攻撃)

 頭:黒魔導士の帽子(最大MP+20、HPを最大MPの1/5アップ)

 服:黒魔導士のローブ(最大MP+20、最大MPの1/4の数値だけ防御アップ)

 脚:ポイズンシューズ(敏捷+16、回避時にごく低確率で毒状態付与)

 首:魔力の首輪(最大MP+20)

 右手:魔法石の腕輪(最大MP+25)

 左手:魔法石の腕輪(最大MP+25)


 貰ったヒュドラダガーを早速装備して自分のステータスを確認していくと、11月以降はろくにクエストをこなしていなかったにも関わらず、スキルポイントが再び300超えていた。ここ最近のイベント報酬や正月ログインボーナス、さらにはクエストバグのお詫びでもらう機会が多かったからだ。


(魔王城のテレポーター登録したら、マーサさんに魔法教えてもらおうかな)


 そんなことを考えながら、みんなで新MAPである魔王城のある魔界へと向かっていく。荒野にあったストーンヘッジのような場所に現れた黒い靄の中へと飛び込んでいくと、真っ暗な空が広がり、蝙蝠や小さな悪魔が上空を行きかう魔界に到着する。


「これが魔王城とその周辺MAPか~」


「いかにもラスダンっていう雰囲気やな」


「あの大きな城が魔王城かな」


「太陽王さんのお城によく似ています」


「せやろか?」


「う~ん、色を黒く塗ればそう見えなくは……」


「遠くからじゃあどんな城も似たり寄ったりよ。城下町まで行ってみましょう」


「とりあえず2パーティーに分かれるで。ワイはAoiと組みたいから、同じパテ。同じクランだったChrisもこっちにいた方がええやろ」


「あともう一人はウチやな」


「ってことは私はアイリとLIZさん、ミミちゃんのパーティーだね」


 4人ずつバランスよく分かれたところで、【桜花】のメンバーたちが城下町へと歩いていくと、棍棒を持った巨人と小さな悪魔の群れと遭遇する。


「ここはワイらに任せてな。【挑発】、プロテクションシールド!」


 まずはリュウがモンスターたちのヘイトを奪う。とはいえ、数が数だけにまともに食らえば盾職とはいえそれなりには痛い。同じパーティーにミミがいれば、防御アップの支援バフをもらえたかもしれないし、アイリなら容易に葬っていたかもしれないが、今回はあえて別パテになるように誘導していた。

 ケイに手を出すなとアイコンタクトを取ったリュウはAoiの様子をじっくりと見る。


(これくらいならすぐには死なへんけど、どう支援するかいな? お手並み拝見やで)


「敵を一か所に惹きつけてくれたのであれば問題ありません。レッドエンチャントマジック!メガサンダー!」


 杖を握ったAoiが雷撃で一気に小悪魔たちを薙ぎ払っていく。その様子に目を見開くリュウ。いくらエンチャントで火力を上げているといっても、その威力は明らかに中堅~下位クラスが出す火力ではなかったからだ。


「さすがに巨人は耐久力ありますね。【ウェポンチェンジ(剣)】、レッドエンチャントスピード!」


 今度は杖から剣に装備を素早く変えたAoiが敏捷振りのユーリと同等のスピードで詰め寄っていく。その素早い動きにのろのろとした動きの巨人の棍棒は空振りに終わる。そして、その攻撃の隙をついて巨人の腕に飛び移ったAoiが首元まで駆け寄っていく。


「レッドエンチャントパワー、サンダーブレード!」


 電撃をまとった剣で巨人の首を切りつけたAoiだったが、ヘイトを稼ぎすぎたせいで今度は別の巨人に狙われてしまう。


「【ウェポンチェンジ(盾)】、レッドエンチャントガード!」


 剣を盾に切り替えて、巨人の棍棒に耐えつつも地面にたたきつけられる。本来ならば、盾職以外は一撃でリスポーンすること間違いなしの渾身の一撃だったが、彼女は何事もなく立ち上がる。


「Aoi、下がってください!閃光玉!」


 強烈な光が放たれ、巨人の目をくらませた隙に後方に下がり、Chrisからポーションを受けとって飲み干していく。その間、巨人のヘイトを奪ったリュウが相手の攻撃を受け流して、ダメージ量を減らす。


「スキル【流水】、これはええ感じや」


「ウチもAoiに負けへんで!ちび太郎、攻撃や!!」


 ケイのアクアドラゴンが水のブレスで巨人へと対抗する。ポーションのMP回復とエンチャント系のクールタイムが終わったAoiが再び前線に出て敵部隊を駆逐していく。新エリア早々の戦闘はリュウたちの圧勝で終わった。



「本当にステータス200以下なんか? 上位プレイヤーと組んだ時くらいにヘイト奪われそうになったんやけど」


「はい。赤魔導士のレッドエンチャントは短時間だけステを2倍に引き上げます」


「倍!? だったら、赤魔導士になった後に知力とかに全振りすれば……」


「ユーリさん、それはできません。私とは違うプレイヤーがそれをやったら、破門されて二度と赤魔導士になれなくなりました。つまり、赤魔導士になったら、運を除くステータスは均等にふらないといけないデメリットが生じます」


「たいていのプレイヤーは2つのステを伸ばすけど、赤魔導士は4つのステを伸ばさないといけないから許されているってわけね」


「その通りです。専用スキル【ウェポンチェンジ】で状況に応じた武器を入れ替えながら、エンチャントで強化しながら戦うのが基本的な立ち回りです。ただヘイトを奪いやすいうえに、MP消費も激しいから、戦闘中にポーションを飲まないとすぐ戦えなくなります」


「そこで薬師の私の番です。私が閃光玉や煙玉で後方に下がれるように支援、ポーションでMPを回復させます」


「今のクランはパーティーに薬師を入れてくれないから困っています。ヘイトを稼いだ私が後方に下がると、魔導士や司祭の人たちが巻き添えになってしまいます。かといって前線で長くいるとエンチャントが切れた私なんて紙ですから……」


「ちなみに閃光玉や煙玉を使えば、視界が塞がっている間だけヘイトがリセットされます」


「その間にタンクさんにヘイトを奪ってもらっていたんだけどねぇ……」


今のクランには不満が多そうな顔をしているAoiに対して、ユーリがなぜクランを合併したのかと尋ねる。


「【桜花】みたいな小さなクランだったから、大きなクランと合併すれば遊びの幅も増えると思ったんだけど……」


 MMOでありがちな合併先のクランリーダーとの経営方針の違いから、Chrisは追放され、Aoi自身もその力を十二分に生かせぬまま時間だけが過ぎてしまったそうだ。


「そうか……ごめんね、思い出したくないことを聞いちゃって」


「だ、大丈夫です。それにクランが違っていても、ときどき一緒にパーティーを組んでいましたから」


「早く一緒のクランになりましょう!」


「そうだね。テレポーター登録したら、すぐにでも脱退の手続きするよ」


新年早々、【桜花】に新たなメンバーが入ることを喜ばしく思いながら、リュウたちは魔王城へと向かっていくのであった。

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