第61話 太陽王からの依頼
Cランクに昇格したことで、後日改めて張り出されている依頼を眺めるアイリ。すると、そこには太陽王からの依頼もあり、中に入れなかったキャメロット城に入れるかもと思い、そのクエストを受けることにした。
「門番さん、こんにちは」
「やあ、いらっしゃい。この前の情報は役立ったかな」
「はい、ものすごく役立っています!」
「それはよかった。前にも言ったけど、ここを通るには太陽王からの許可が必要だ。何か証はあるかな?」
「クエストを受けに来ました」
ギルドカードを見せるとすんなりと門番が扉を開けて、中へと招き入れる。城内には高そうな大理石の彫像、いかにも強そうな剣や盾が飾られている中、ひときわ目立つのは剣を地面に突きさしている男性の絵画だ。
「この人は誰だろう?」
「――アーサー・ペンドラゴン。この地にいるモンスターを薙ぎ払い、人々に安寧の場所を与えた開拓者であり、我らの王です」
「太陽王さん、じゃなかった陛下」
「畏まらなくても構いませんよ」
「それではお言葉に甘えて。今日は太陽王さんの依頼を見つけてここに来ました。内容は書かれていなかったんですけど……」
「ええ、実は魔王ソロモンの使役する72柱の悪魔の1柱アスタロトが荒野で確認されたと情報がありました。人魔大戦以降、行方をくらましていた彼女が何をしているのかわかりませんが、被害が出る前に取り押さえてほしいのです」
「そのアスタロトさんってどんな人なんですか?」
「中身はともかく外見だけで言うのであれば、可愛らしい天使がドラゴンライダーの真似をしているといった感じでしょうか。もし、戦闘になるようであれば手加減は不要。殺すつもりで戦わないと捕らえることは不可能です。最悪、逃げても構いません」
「天使さんか……わかりました。頑張って探します」
太陽王の話を聞いたアイリが恐竜が蹂躙跋扈する荒野へと向かっていく。この広大な荒野を行く当ても分からず、さまようわけにもいかず、このあたりの地形に詳しそうなユーリに話をした。
『荒野で潜伏できそうな場所? いくつか候補はあるけど……今度は何をしでかしたの?』
「悪魔退治。Cランクになったら受けられるみたい」
『私もぼちぼちXランクの昇格しようかな。まあ、恐竜退治していたときに見つけた怪しげな場所、送っておく』
「ありがとう、ユーリちゃん」
添付された地図を見ながら、候補地へと向かっていく。ストーンヘッジのような場所、無数の小さな洞窟がずらりと並んでいる場所、そしていくつか回ったのち、最後の候補地である無数の窪地がある場所に向かうと、そこには白い羽をはやした女性が何かを探しているようであった。
「アイツ、どこに行ったのよ」
「あの~、何かお探しですか?」
「ああん? アンタ誰よ」
「アイリと言います」
「アタシはソロモン72柱の美少女アスタロト。アイリ、アタシのドラゴン見かけなかった?」
「すれ違った覚えはないけど……」
「そう……」
(取り押さえろと言われたけど、アスタロトさん、困っているみたいだしどうしようか?)
ドラゴンがいなくて弱体化している彼女を倒してもクエストクリアになるかもしれない。だが、そんな後味のやり方は嫌だし、困っている人間をほったらかしにするのもいやであった。
「そのドラゴンの好きなものを置いておびき寄せるとか?」
「……何もしないよりかはマシか。アタシのドラゴンは毒竜の一種。つまり、毒が好物よ。それもただの毒じゃなくて最上級の毒。アンタにそれが用意できるのかしら?」
「最上級の毒といえば、ヒュドラブレス!」
あたり一面に広がる神殺しの毒。その匂いにでも惹きつけられたのか、上空からバサバサと紫色のドラゴンが飛来してくる。そして、一息で充満していたはずの毒を吸い込むと小さくゲップし、満足そうにしている。
「この馬鹿!主人を置いてどこに行っていたのよ!」
「まあまあ、落ち着いて」
「これが落ち着けるものですか!あの戦いの後、コイツを探しにどれだけの時間を費やしたと思っているのよ!」
「はははは、でも、ほら、あのドラゴンさんも反省して……」
「Zzz……」
「寝るな!」
アスタロトが蹴りを入れてドラゴンの目を覚まさせる。このドタバタっぷりに悪者じゃないんだろうなぁと思っていると、アスタロトがこちらににらめつけてくる。
「さてと、みっともないところ見られたし、証拠隠滅しないとね」
「理不尽!?」
「だって、私、悪魔ですもの」
「いやそうだけど。もう少し義理堅いところとか無いの?」
「別に契約したわけでもないし、恩着せがましい奴は嫌いなのよね」
「そんなつもりまったくないんだけど」
「というわけで殺すわ」
「人の話、聞いてない!もう!シャドーミラージュからのカース!」
初手からの分身による多重攻撃。当たればひとたまりもないというわけではないが、相手の出方を見るには最適な一手だ。
「その程度の攻撃がアタシに聞くと思って!」
アスタロトのドラゴンが毒の息を吐くだけで、呪いそのものが朽ち果てていく。でたらめ的な強さではあるが、アイリはまだあきらめずに次の一手を考えるために攻撃を続ける。
「毒は多分効かないだろうから……電気は!ダークサンダー!」
「そんな半端な攻撃、片手で受け止められるわ」
黒い電撃がバリバリとアスタロトの手を焼いていくも、焦げ跡すら一切見られない。そんなとき、アスタロトの足元からツタが襲い掛かる。
「この程度の植物、アタシの吐息で充分よ」
アスタロトが毒混じりの息を吐くだけで、【急成長】で出したツタがあっという間に枯れていく。ミノタウロス戦とは違い、息を吐くだけでこちらの攻撃を防いでくるため、仮に動きを封じるハイグラビティやシャドーロックによる拘束が通用したとしてもダメージが通らない以上、ほぼ意味をなさない。
「まだ攻撃魔法は残っているよ。カースインフェルノ!」
「へえ、少しはマシな攻撃を持っているじゃない。アスタロン、ドラゴンブレス!」
アスタロトのドラゴンが待っていたと言わんばかりに極太の熱線が黒い炎を打ち消しながらアイリのHPを吹き飛ばす。だが、スキル【黄泉がえり】により、アスタロンに呪い状態がつき、アイリがHP1の状態でよみがえる。
「あら、まだ起き上がれるだけの力があったの?」
「拮抗すらできないなんて……これが悪魔の力…………」
「ようやくアタシとの実力差を思い知ったの? アイリ、アンタがどんな手を使おうとアタシはそのすべてを上回ることができるわ!!」
本来ならば、アスタロト戦は顔見せだけの負けイベントであり、『見つけたけど逃げられた』『片割れを探していた』ことを伝えるだけの簡単なイベントとして用意されていた。だが、そんなことを知らないアイリは勝つために奥の手を使うことを決めた。
「だったら、ダーク師匠!」
『真打ちは遅れてくるものってな!』
「へえ~、精霊を使役できるエルフ。もう失われたものだと思っていたけど、まだ残っていたのね。でも、いかに精霊魔法といえども私に勝てるなんて百万年早いわ!」
『そう言われたなら仕方がねえ。強い方の精霊魔法、使うぜ』
「いくよ、もう一つの精霊魔法――」
『魔力リソース、全開放――!!死ぬんじゃねえぞ!』
「この魔法は――!? アスタロン、元に戻るわよ!」
アイリが放とうとしている膨大な魔力。そして放とうとしているもの正体がわかった瞬間、アスタロトがアスタロンと一体化。真の姿の状態になったうえでの一撃を放っていく。そこには一切の手加減もなく、生存するために今持てるリソースを注ぎ込んでいる1柱の悪魔の姿があった。
膨大な魔力同士がぶつかり合い、数種運後に爆発と爆風が広がっていき巨大なクレーターを成型する。まばゆいばかりの閃光がおさまると、そこには大の字で倒れているアスタロトとうつぶせで倒れているアイリがいた。
「麻痺状態ついているし、MPも1になっちゃったけど……私の勝ちだよ、アスタロトさん」
「あんなのただの自爆じゃない!いい、その攻撃はよほどのことがない限り、守るべきものを守らなければならないときに使いなさい」
「はーい!」
「それにこの状況ならドローよ、ドロー!ったく、このアスタロト様に一矢報いたその度胸に免じて1つくらい言うことを聞いてやってもいいわ」
「じゃあ、太陽王さんのところに来てもらってもいい?」
「太陽王?」
「キャメロット城ならわかるかな?」
「別に構わないわよ。アスタロン、アンタは上空で待機」
無用な混乱を避けるため、ドラゴンが上空へと飛翔していく。しばらくしたのち、二人はキャメロット城へと向かっていく。アスタロトを連れてキャメロット城内に入ると、太陽王が出迎えてくれた。
「太陽王ってアンタだったのね、太陽の騎士」
「その称号は捨てましたよ。なぜソロモン王から行方をくらませたのです」
「人魔大戦のときは前魔王へのクーデターで協力してやったけど、その後に人間同士で潰しあいしていたから見捨てた。まあ、半身のアスタロンがどっかいったってのもあるけど」
「バエルとバルバトスのことは?」
「知らない」
「そうですか。行方をくらました柱の情報が得られると思ったのですが……」
「まあ、現存する柱たちで頑張ってもらうしかないんじゃない。アタシは自由にさせてもらうけど、構わないわよね」
「ここでことを構えるつもりはありません。さよなら、レディ・アスタロト」
上空へと飛び去っていくアスタロトたちを見送ったことでクエストクリアのアナウンスが流れ、アイリにスキルポイントが加算されるのであった。