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第60話 Cランク昇格戦

 翌日、アイリは昨日のクエストのことで運営にバグ報告した後、再びマーサの家を訪ねる。


「マーサさん、今日はいますか!」


「なんじゃい、大声を出して。わしの耳はまだボケておらん」


「よかった。あっ、そうだ、昨日、ヴィヴィさんが来ていました」


「それくらい、わかっとるわい。そもそも、ここに来たということは何か教えてもらいたいものがあるんじゃろ?」


「はい、200ポイントくらいあるから新しい魔法かスキル教えてもらおうと思って」


「ふむ。どういった魔法が欲しいんじゃ?」


「ん~、昨日の集団戦闘でも思ったけど、シャドーダイブだと影がないと使えないし、クールタイムの増加も少し痛いから、昼夜問わず使える小回りが利いた防御系魔法が欲しいかな」


「あまり弱すぎるとこれからの戦いにはついてこれぬ、覚え損になる。となれば、【カースバリア】(120ポイント消費)じゃな」


「残り230くらいだから、十分に払えます」


 魔法:カースバリア(消費MP64:周囲にバリアを張り、一部の攻撃を呪いを付与して跳ね返す)を覚えた


「呪うことができる魔法も少し充実してきたかな」


「ふぇふぇふぇ、そろそろCランクに挑戦してもいい頃合いじゃな」


「あっ……」


 マーサが言うまですっかり忘れていたギルドランクのことを思い出す。Eランク昇格後はいつでもDランクへの昇格するための試験を受けることができ、昇格直後に試験を受けたプレイヤーもいたそうだ。だが、当時の彼らではDランクの壁は厚いこともあり昇格戦は放置され、数多くのマップが実装されたこともあり、多くのプレイヤーからしばらくの間忘れ去られることとなった。

 とはいえ、この2か月間で大半のプレイヤーはすでにDランクに昇格しており、今は一部のプレイヤーを除けばCランクの壁にぶち当たっているのが現状だ。


「Dランクの昇格もしてないんだけど……」


「それならわしが一筆書いてやるわい」


「う~ん、Cランクか。受けたことないけど……頑張ろう!」


 さっそく、アイリははじまりの街に戻ってミューイにCランク昇格戦の受講を伝える。すると、あきれたような表情をしながら、昇格戦の手続きをしていく。


「それではCランク昇格戦の説明をさせていただきます。今回の昇格戦ではこちらが用意したボスモンスターたちと戦ってもらい、勝てば昇格することができます」


「簡単そうだね」


「ふふ、そう簡単にはいかないわよ。飛び級制度を使う場合、戦ってもらうボスモンスターは通常よりも格上なんだから」


「格上のモンスター……」


「そんな怖がらなくてもいいわよ。負けてもデメリットはなし。さすがに今度はDランクの昇格を経てからの挑戦にはなるけどね」


「はい、頑張ります!」


 ギルド職員にコロセウムへ来るようにと案内され、テレポーターで移動する。闘技場で行われていた試合が一時中断され、Cランク昇格戦のアナウンスが町中に鳴り響く。久しぶりに聞いたCランクへの昇格戦イベント、しかも挑戦者がEFOで有名なプレイヤーとなっているアイリであるならば、その目で見てみたいというのが心情。

 NPCが座るはずだった席が次から次へとプレイヤーの席へと変わっていき、その中にはたまたま訪れていたライチョウをはじめ有名なプレイヤーも見かける。


「さあ、始まりましたCランク昇格戦。実況はこの私、マイクが送らせていただきます。久しぶりの挑戦者はなんと可愛らしい女の子だあああ!」


「ただの女の子じゃねえぞ、魔王様だぞ!」


「だれ!? 私のこと、魔王って呼んだの!?」


「魔女っ子でもいいぞ。魔法少女じゃなくて魔王少女だけどな!」


 観客席から笑い声が聞こえる中、アイリが闘技場のステージへと立つ。そして、反対の出入り口から出てきたのはドスンドスンと地面を揺らすほどの巨体、牛の頭を持つミノタウロスだ。手には巨大な斧を持っており、当たればただでは済まないだろう。


「挑戦者に向けられたのはギルド職員のヤマちゃんに育てられたミノタウロス。Bランクであっても攻略手段を間違えれば、やられるほどの強力なモンスターに挑戦者はどう立ち向かうのか。今、試合開始のコングが鳴り響く!」


 試合開始と同時にフンフンと息を鳴らしたミノタウロスが角をこちらに向けて突進を仕掛けてくる。それをシャドーダイブでかわし、すかさず分身する。


「ヒュドラブレス!」


 3体の毒竜がミノタウロスに襲い掛かるも巨大な斧をふんと一回りさせ、それらの首をすべて切り落とす。だが、ミノタウロスがその場でとどまり攻撃をしたことで、アイリにケルベロスを召喚させる隙も生じる。

 再び突進攻撃をかますミノタウロスであったが、今度はケルベロスが軽い身のこなしでかわす。単調な攻撃であればあたることはまずないだろう。


「アクアプレッシャー!」


「アイリ選手の攻撃がミノタウロスに直撃!これは痛いぞ」


「でも、毒にはなっていない。毒がきかないなら【花の祝福】!」


 一面にスミレのような薄紫色の花が咲き乱れ、幻覚作用のある花粉を飛ばしていく。人よりも巨体な分、効き目が出てくるまで時間はかかるだろうが、今はできることを試そうとミノタウロスにカースをぶつけようとしたとき、手に持っていた斧でカースを防ぐ。


「あの斧が厄介だね。だったら、ハイグラビティ」


 ミノタウロスに思わず膝をついてしまうほどの高重力が襲い掛かる。だが、重荷となる斧を手放しながらも高重力の中をゆっくりと歩いてくるあたり、その巨体に秘められた怪力はまさしく化け物といえよう。


「重力でも抑えきれないならシャドーロックで動きを封じ込めて、今度こそ当てる、カース!」


「ミノタウロス、またしても被弾!ですが、所詮は最下級の魔法。まるでダメージがありません」


「ダメージが無くても、状態異常になれば!」


 1発で足りないなら2発、3発と回数を重ねていく。残りのMPが300を切ったところでようやくミノタウロスに呪いがつく。徐々に減っていくHP。だが、状態異常がついたことでミノタウロスが発狂モードへと移行し、角にはバチバチと電撃が迸り、皮膚は真っ赤に燃え上がり、もともとあった筋肉をさらに膨張させたような姿へと変貌していく。

 そして、ミノタウロスが電撃を放ちアイリたちを狙っていく。ダークストームで初手は回避したものの、2度目はたまらずアイリが避けたことにより、ミノタウロスのロックも解除される。体の自由を取り戻したミノタウロスが近くに突きさしていた斧を握りしめたとき、黒い電撃が迸る。だが、電撃を操る彼にとってその程度の電撃はドアノブに触った時の静電気程度の痛みしか感じない。


(ダークサンダーも効かない。残りMPは約150。相手は呪い状態がついているとはいえ、HPが尽きる前にやられる)


「おっと、ミノタウロスの炎のブレスがアイリ選手を襲う!」


「ケルベロス、ごめん!【飛行】」


 ケルベロスを乗り捨て、炎で燃え盛る地面から脱出し、空高く飛翔するアイリ。だが、飛行時間という制限がある以上、いずれは炎まみれの地面に降りなければならない。炎に焼かれるか、ミノタウロスがチャージしている電撃に焼かれるか、その2択が迫られている中、アイリはダークを呼び出す。


『あいよ。これくらいのデカブツなら弱い方で充分だろ。それにこれだけの大観衆だ。どうせなら詠唱の真似事しようぜ』


「あれやるの?」


『何のために練習やってきたんだ。そっちの方が盛り上がるだろ』


「もう、しょうがないな。こほん。我が契約せしダークの名のもと、闇を持って天地創造の理を粉砕する。闇の精霊魔法、起動!ダークカタストロフ!!」


 ちょっと恥ずかしい厨二めいた無意味な詠唱を唱えたアイリ。だが、精霊魔法を使ったことで地面に無数のひびが入り、黒いマグマがあちこちから噴出する。それを避けようと巨体に見合わぬ速さで回避しつつも、地面がその巨体を支えきれず、足を取られ、下半身が埋まってしまう。


 ミノタウロスが放った赤い炎を自身の黒いマグマに置き換えたことで、自身へのダメージは0となる。安全に着地したアイリが黒いマグマを突っ切って身動きができないミノタウロスに向かっていく姿はまるで悪魔だ。

 ダークカタストロフの黒いマグマとアイリが放ったカースインフェルノの黒い炎で焼かれていくミノタウロスに呪いとやけど状態がさらに蓄積されていく。それでもミノタウロスは最後の力を振り絞り、電撃をアイリに向かって放っていく。


「私の電撃がきかないなら、自分の電撃ならどう? カースバリア!」


 黒いバリアにはじき返され電撃を浴びたミノタウロス。呪いまみれのその体で自身で強化した電撃を耐えきることができずに倒れるのであった。


「コングラチュレーション!長年、実況をしていますが昇格戦で発狂したミノタウロスを倒したプレイヤーを見たのは初めてです。素晴らしい戦いをありがとう。盛大なる拍手で彼女を迎えてください」


 観客席から湧き上がる拍手を受けながら、アイリは闘技場を後にするのであった。そして、アイリはCランクに昇格したことで、受講できるクエストも大幅に増えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 恥ずなしいと言いつつ ノリノリで詠唱するアイリちゃん [気になる点] 弱い方で充分だろ まてまてあれで弱いのか 本気はレイドボス戦かな
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