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第58話 クリスマスイベント

 12月といえばクリスマス。現実でもクリスマスツリーやイルミネーションによって彩られ、クリスマスケーキやフライドチキンが予約を受け付けている。ゲーム業界でも年末商戦に向けて、新しいゲームソフトを出したり、クリスマスイベントを出したりしている。それらはEFOにおいても例外ではない。


「クリスマスイベントは戦闘職と生産職でイベント内容が変わるみたいだね」


 クリスマスイベントのあらすじを読むと、太陽王が民たちにクリスマスプレゼントを贈ろうとしていたところ、ロマニアにある工場の機械が故障してしまいプレゼントを作ることができなくなってしまった。そこで、プレイヤーたちにプレゼントの生産と配送をお願いしたのが今回のイベント内容だ。


「生産職は剣でも薬品でもなんでもいいから納付するとイベントポイントがもらえる。もちろん、上級のアイテムの方がポイントが多いわ」


「戦闘職はプレゼントをロマニアからそれぞれの街に届けばいいけど、プレゼントを持っている間はテレポーターの使用は不可。一度にもらえるポイントは多いけど、時間がかかるのと輸送中にプレゼントを狙う盗賊やモンスターとの戦闘を挟むのが難点」


「これは生産職有利かしら。ただ……スキル上げの副産物でたまっている装備品納付したら、しばらくログインしないわ。仕事が忙しくって」


「リアルが優先や。しゃーない」


「そういうウチらも今年受験あるさかい、年明けからはゲームできへんけどな」


「みんなの分まで頑張ります」


「今のうちに遊びつくしましょ!目指せ、プレゼント全交換!」


「う~ん……私はスキル書狙いだから早く終わるかも」


 以前のカタツムリイベントと違って、全体的に交換ポイントが低めに設定されているあたり、初心者でも容易にスキルやアイテムを手に入れられるようにしているのかもしれない。他は生産用アイテムやゴールドになるが、分身による荒稼ぎができるアイリにとって喉から手が出るほど欲しいものはない。


「スキル書といえば、上のスキル書使いました? かなり強いスキルもらえますよ」


「うん。使ったよ。あのときもらったスキル書からは……」


【黄泉がえり】(死亡時、相手に呪いをかける。呪いの付与に成功した場合、HP1で復活する。1日1回)


【反撃の心得】(カウンター成功時に与えるダメージをアップする)


「カウンター技がないから【反撃の心得】は意味がないけど、上から出た【黄泉がえり】は強いと思う」


「相手が耐性持ちだと発動しない代わりに、Arthurさんの持っている【不屈】よりも発動しやすいのはさすが上のスキル書ってところだね」


「それにスキルポイントが400超えたから、マーサさんのところに行くつもり。すごい魔法覚えられるかも」


「ファフニールやリヴァイアサンよりも強い魔法は考えたくないかな」


 人魔大戦イベントで上位プレイヤーを根こそぎ死に追いやった2頭の龍はプレイヤーたちに広まっており、動画を見ながらその対策をしているクランもいるそうだ。ただ、それらの龍は片や時間制限つき、片や莫大な資金が必要になっており、おいそれと呼び出すことはできない。


「さっさとイベント終わらしてクリスマスはリアルの方を充実させようや」


「せや、今年のクリスマスプレゼントはちゃんと用意しとるんやろうな」


「アホぬかせ。去年のたこ焼きのリベンジや」


「それはたっちゃ……リュウがお金なかったからやった奴やろ。リベンジしてどないすんねん」


「もちろん、それ以外にも……おっと、これ以上は当日にならへんとな」


「そこで切るのずるいわ」


「……二人って付き合っているの?」


「「違うで、ただの幼馴染(腐れ縁)や」」


 ユーリの言葉にきょとんとした様子で互いに指をさして違うと言い張る。ただ、普段の様子や先ほどの会話からしても相当深い関係に見える。


「クリスマスか。私たちは一緒に遊ぶとして……Chrisちゃんも来ない?」


「同じ関東にいるならオフ会できるかも」


「面白そうです。でも、私、リアルだとカタコトですよ」


「大丈夫。こういうのは実際に会ってみると、案外通じたりするから」


「それならお願いします。住んでいる市までおくりますね」


「番地までは知る必要ないからね。おっと、さっそく届いた。同じ県に住んでいたんだ、これなら……」


「私も若い頃はああやって友達と遊んでいたわ」


「LIZお姉さんは友達がいないんですか?」


「いるわよ。でも、年を取るとみんな結婚しだして、私だけ婚期を逃した感じ。独身貴族もこれはこれで満足しているのよ」


「それなら今年のクリスマスはミミが一緒に過ごしてあげます。クリスマスプレゼントです」


「あらあら、可愛らしいサンタクロースね。どうせ一人で過ごすくらいなら、ミミちゃんと一緒に過ごすのもいいわね」


「はい。今年は楽しいクリスマスです」


 リアルのクリスマスのイベントが決まったところで、クエストの受注をしていく【桜花】メンバーたち。クリスマスらしいラッピングされたプレゼント箱を受けると、自動的にアイテム欄に入る。わざわざ手で持つ必要はないようだ。


「ポイントはログレスまでいけば高ポイントになるけど、はじまりの街でもそれなりにポイントあるね」


「移動時間考えたらはじまりの街シャトルランしたほうが楽ちゃうか」


「低ポイントの報酬ならそれでもいいけど、最後まで報酬を取ろうとするとさすがに差は出てくるかな」


「とりあえず、はじまりの街から配ってみよう!」


 というわけで【桜花】がはじまりの街まで歩いていくと、道路のわきから盗賊たちが現れる。普段なら怖い風貌をしている彼らだが、クリスマス仕様でサンタのコスプレをしているのはなかなかにシュールだ。


「へへ、痛い目にあいたくないならプレゼントを置いていきな!」


「俺たちは悪い子だからよぉ、サンタさんからプレゼントをもらえないんだ」


「だから力づくで奪ってやるぜ。クリスマスプレゼントをだなあああああ!!」


 盗賊たちが短剣を抜いて襲い掛かるも、彼らのレベルは10程度。レベル40を超えている【桜花】のメンバーに勝てる道理もなく、あえなく撃沈する。


「くそお、覚えてやがれ!」


「リア充爆発しろ!」


「カップルのいちゃつくところなんて見たくねえんだよ、バーカ!」


 捨て台詞まで専用の者が用意されているあたり、中々にこだわっているイベントだと感心しながら、さらに歩いていくと今度はサンタ帽をかぶったスライムたちがぞろぞろと現れる。


「かわええ!テイムしたらこの恰好になるか、試してもええ?」


「スライムでやられることないから試しても大丈夫や」


「よ~し、いくで!モンスターテイム!」


 魔法の手が出てスライムを捕獲する。さっそく、ステータス画面をみるとそこには【スライム(クリスマス)】と表示されていた。能力的には普通のスライムとは大差がないようだ。


「よっしゃー!クリスマス仕様のスラ次郎ゲットや!!」


「よかったな」


「この調子でクリスマス仕様の子、集めるで」


 あまり乗り気でなかったケイがこのイベントに対して気合を入れ始める。はじまりの街にたどり着くまで出てくる道中、ほとんどの敵がクリスマス仕様に変わっており、ケイがはしゃぎながらテイムしていた。街にあるプレゼント集積所にプレゼント箱を置いて任務達成だ。


 これらを何回か繰り返すもさすがに飽きも来る。イベント期間も長く、ある程度周回すれば他のクエストと同時並行でやっても全交換に必要なポイントはたまりそうということもあり、イベント初日の今日はゲーム内の夜に解散となった。



 せっかく、はじまりの街に来たということもあって、アイリはマーサに会おうと森の中を進んでいく。慣れた足取りで真っ暗な森を進み、明かりのついてあるマーサの家に着く。扉を開けようとすると、ダークがアイリの目の前に飛び出してくる。


『ちょっと待った!なんでアイツがこんなところにいるんだよ!』


「どうしたの、ダーク師匠?」


『気づいてねえのか。おいら、急用思い出したからちょっと抜けるわ』


ダークがどこかへと飛び去り、スキル欄の【精霊魔法(闇)】の表示が暗くなり、使用不可状態になっていた。特に戦闘するわけでもないので、まあいいかと思ったアイリはマーサの家の中へと入っていく。


「よかった、マーサさんまだ起きて……」


「!?」


 アイリの目に飛び込んできたのは、モデルや女優のように背が高く、多少目つきが悪いところ以外欠点が見当たらないほどの銀髪の美女。アイリにとってマーサやオカシラ以外の人がこの家にいるのは初めてであった。


「えっ~と、どちら様ですか?」


「……ヴィヴィだ」


「ヴィヴィさん。私は――」


「アイリと聞いている」


 ヴィヴィがゆっくりと顔を近づけ、その美しさにアイリは思わずどきりとする。自分が男だったら恋慕の一つや二つ抱いていたかもしれない妖艶さだ。そんな彼女がなぜか、アイリを見てほんのりと赤づいている。ヴィヴィがいったい何者か、アイリは話を聞くことにした。

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