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第57話 キャンプ

 紅葉が色つく中、アイリたちは山中で開けた場所にテントを張り始める。初心者ガイダンスの案内付きなので、キャンプ初心者でも楽しめるようにしてある。

 テントを張ったところで、アイリは背筋を伸ばして、深く息を吸い込む。


「ん~、いい空気」


「バカンスイベントと同じく経験値は自動入手。マップに採取場所があるから素材採り放題のイベントだね」


「工房もあるから武器とかの生産もできるわね」


「さらに出現するモンスターもレベル低くして、初心者でも装備が揃えられる。年末レイドもあるみたいやから、それに向けてのイベントってところやな」


 このイベント自体は強制ではなく、キャンプ場に来た時点でイベント参加分のスキルポイント50ポイントが配布されている。レベルキャップを迎えた既存プレイヤーの多くは無駄な時間を過ごす前にすぐさまUターンし、ここで手に入らない素材集めやクエストの消化等に勤しんでいた。

 といっても、【桜花】でレベルキャップに達しているのはアイリとミミの2名。イベントを楽しもうとする彼女たちにとっては無駄な時間ではない。


「食材は自分らで調達……といっても、調達しにくい米や小麦、調味料は運営から渡されたキャンプセットに入っているわ」


「至れり尽くせりだね。よし、食材探しだ!」


「できれば素材集めもしておきたいね」


「それなら、二手に分かれるのはどない? ウチは魚釣りしてくる。リュウ、行くで」


「確か川が近くにあったはずやな。LIZはんに作ってもらった釣り竿とバケツを持って……」


「わたしもいきます」


「リュウくんが川なら、こっちはキノコ狩りとかでもする?」


「いいね。魚だけってのも寂しいもの。Chrisも行こう?」


「はい。こう見えても私、日本に来るまでは、秋になると森に入ってキノコを摘んでいました」


「スウェーデンにもキノコ狩りの文化あるんだ」


「すごく頼もしいね。LIZさんは?」


「私はお留守番。荷物とかを盗まれないようにしないと。待っている間は工房で生産スキルの経験値稼ぎしておくわ」


 それぞれ別のルートで山の中へと入っていく。アイリたちがキノコを拾っていくと、胞子を待ち散らして去っていくキノコ型のモンスターとエンカウントする。胞子の種類によって麻痺や毒などの状態異常にしてくるが、ダメージ自体はない。他のモンスターといることでその真価を発揮するタイプだが、今のところ、出くわしたモンスターはその一体だけだ。よほどのことがない限りは初心者パーティーでも全滅することはないだろう。


「う~ん、出てくる薬草系の素材もあまり目新しいものはなし。これは上位陣のプレイヤーがさっさと離れるわけだ」


「ユーリちゃん、素材集めもいいけど、食材集めも忘れないでね」


「わかっているって。一応、前の爆発玉みたいに素材を要求するクエストがあるかもしれないからないから集めるだけ集めたいかな。それに……」


 頭上を見渡せば木の実がたわわに実り、地面にはあちらこちらに色んなキノコが生えている。だが、どれが食用向けなのかさっぱりわからないのがユーリの感想だ。


「Chris、ぽいぽいと採っているけど毒キノコとか混ざったりとかしてない?」


「大丈夫です。薬師のスキルに【薬草の知識】などの薬の原料に関するものが多いので、毒をもつかどうか判断できます」


「私はマーサさんのところで植物図鑑とか読んでいたから大体は」


「勉強が苦手な身としては耳が痛い話。私が採ると毒系が混じりそうだから、素材集めに専念するね」


「もう、風情がないなあ~」


「ゲームにしかないキノコもありますが、現実にあるものも混じっていて面白いです」


「ベニテングタケっぽいのが食用になっているのは少し驚いたけど」


「塩漬けにして食べる地域もあるみたいです。あとカエンタケが火炎タケとかあります。ゲームの方は薬の材料なので集める必要があります」


「そうそう。毒草も薬の材料になるって書いてあった」


「……ごめん、名前だけは聞いたことあるけど、どんな見た目かよくわからない」


「ゲームばかりしていたらダメってことだよ」


「うっ……」


 痛いところをつかれたユーリは近所の図書館で勉強でもしようかと思い始める。それはそれとして、他のプレイヤーたちのことも考えて、採りすぎないように必要な分だけ収穫する。といっても、7人分の食材を集めれば背負ってきた籠がいっぱいになっていた。


「これだけあれば十分だね」


「うん、私もこれだけあれば十分かな」


「では戻って夕食の準備に取り掛かりましょう」


「まだ早くない? 夕方にもなってない」


「電子機器がないから早めの行動。暗くなってから食材を切るなんてできないもの」


「そうです。火起こしするのに1時間はかかりますよ」


「マジ?」


「お父さんと一緒にキャンプいったとき、手間取ったから食材があるのになかなか焼けないってあったなあ」


「ママが熟練者だったので、そういうことはありません」


「……今回ばかりはキャンプ経験者に任せる」


「ユーリちゃんにも手伝ってもらうよ」


「足引っ張らないようには頑張る」


「食材切るくらいなら大丈夫だって。ソニックスラッシュとかでスパスパ切れる!」


「私の短剣は通販の包丁とかじゃないんだけど……」


 アイリたちが談笑しつつキャンプ場までおりて、夕ご飯の支度をし始める。周りにいる他のクランに関してはキャンプ経験者がいるのか火起こしを済ませているところもあったり、何の準備もしていないところもあったりと対応はばらばらだ。


「炭ってマッチで簡単につかないの?」


「そうだよ。それにこの組み方も悪くて……」


「空気の通り道を考えておかないといけません」


「……ガスコンロって偉大」


「カセットコンロは貸出してないんだから。それに炭の方が風情あるよ」


「自然と向き合っている感じがします」


「おーい、戻ったで」


「大漁や」


「おさかなさん、いっぱいです」


 バケツの中を覗き込むと、1匹2匹どころではない魚がうようよと泳いでいる。1匹1匹の大きさもそれなりにあり食べ応えはありそうだ。


「10匹くらいは釣れたんちゃうか」


「1人1匹、おかわりほしい人は言ってな」


「川魚はやっぱり塩焼きかしらね」


「それが一番やろ」


「こっちはキノコ入りカレーかな。キャンプセットの中にカレー粉あったし」


「せっかくなのでアケビも入れましょう」


「カレーにマンゴー入れる感じになりそうかな」


「きっとあいます」


「まずは食べやすい大きさに切らないとね。ユーリちゃんも手伝って」


「わかった。LIZさん、包丁とかある?」


「もちろんよ。みんながいない間に食器や調理器具も人数分作っておいたわ。生産系スキル、軒並みLv2!」


 LIZがVサインをして喜んでいるのを【桜花】メンバーは拍手で迎える。レベルが上がったことで、より上位の武器の生産も可能になったそうだ。


「LIZはんに負けへんようにこっちはおいしいご飯の支度しようか。飯盒なんて林間学習以来や」


「どう使うんやったっけ? ウチ、忘れたわ」


「確か中ブタでコメを計ると2合分だったはず。あとはこのツッパリの位置まで水をいれてしばらく待ってから火にかける。1人1合とみて7合。まあ、8合分作ったらいい感じや」


「ミミちゃん、やってみる?」


「はい、がんばります!」


 飯盒に米と水を入れて30分ほど待ってから、火にかけ始める。すぐに火をかけてしまうと、芯が残ってしまいおいしくない。キャンプ初心者がやりがちなミスの一つだ。

 ご飯を炊いている間、カレー班も食材を炒め終わり、鍋の中でぐつぐつとカレーができ始める。そして、火からおろしてから15分ほど飯盒を蒸らし終えて皿の上におこげのあるご飯とカレーを乗せていく。唯一の男性であるリュウは大盛トッピングだ。


「いただきまーす!」


 満天の星空のもと、もぐもぐと食べ始める【桜花】メンバー。カレーの中に肉が入っていないのはややもの足りなさを感じるものの、みんなで作ったカレーは格別である。おそらく一人で同じものを作ったとして、おいしくは感じられないだろう。


「リュウから聞いたときはただの戦闘ゲームだと思っていたけど、前のバカンスイベントといい、こういう遊び方もあるんやな」


「現実だとみんなでキャンプなんて中々できへんからな」


「みんなってどこに住んでいるの? 私とユーリちゃんは関東」


「ワイらは……今更隠す必要もないから言うが、大阪や」


「ウチは生まれ京都やけどな」


「私は四国生まれだけど、転勤があって今は九州に住んでいるわ」


「スウェーデン育ちですが、パパの仕事の関係で今は関東に住んでいます」


「ミミは病院です」


「えっ~と、ミミちゃん。ゲームしてて大丈夫なの?」


「はい。現実だと入院してて動けなくても、ゲームだと自由に走り回れるから大好きです。パパとママにもゲーム内であっています」


「そっか……身体、よくなるといいね」


「はい。お外でみんなと遊びたいです」


 ミミから少しばかり重たい話を聞くも、別の話題に切り替えて寝ころびながらプラネタリウムのような満天の星空を眺める。都会ではまず見れず、田舎でもなかなかお目にかかれないほどのきれいな夜空。【桜花】はこのメンバーに奇跡的な出会いを果たせたことに感謝しながら、一晩を過ごすのであった。

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