第54話 vs【桜花】
ゴーレムたちに打ち勝ったアイリ、Chris、リーフの三人は件の魔法陣があった場所へと向かっていった。件の魔法陣からは光が消えているが、いつ起動するかもしれない。となれば、ここは元凶を取り除くことが必要不可欠だ。
「間違いなくこの先に何かある!行くぞ!」
リーフが先導して洞窟の中へ入ろうとすると、またなにやら変な感触を覚える。
「これって、この中だとまた召喚系の魔法が封じられるとか?」
「違うぞ。拒否系の魔法の感じじゃない。監視、検査、探査……そういった感じだ」
「わからない……」
「勘だぞ」
「ところで道はわかるんですか?」
「勘だぞ」
「信じるしかなさそうです」
リーフの勘を信じて、ダンジョンの奥へと進んでいく一行。道中で敵モンスターと戦うかもしれないと思ったが、そのようなエンカウントは怒らず、すいすいと豪華な装飾が施された扉の前にたどり着く。この先に、元凶がいると思いながら、扉を開けるとそこには褐色の肌を持つ耳長の男、ダークエルフが三人を待ち構えていた。
「いやはや、神々の時代までさかのぼる超古代文明の遺産を倒すエルフがいたとは……ですが、そのおかげで私は次のステージにようやく進めそうです」
「お前があのゴーレムで私たちの村を襲った犯人か?」
「さよう」
「なぜ、そのようなことをする?」
「目的ですか……いいでしょう。私は魔王になりたいのですよ。『今の』媚びを売るような魔王ではなく『昔の』恐怖と支配の象徴であった魔王にね!」
「狂っている……」
「魔王●●●●、おっと真名は太陽王の施策で秘匿されていましたね。彼女の力の一端を垣間見た私は魔王に近づく方法を探した。そして、見つけたのです。エルフを超えたエルフ、ハイエルフになる方法を!」
「ハイエルフ?」
「神々の時代では我々エルフにもまれにですが、彼らに近い力を持つ者がいたそうです。かの者たちをハイエルフと呼びます。ですが、この世から神々が消え去ったことで、エルフも平和という名の堕落に落ち、ハイエルフは歴史からその姿を消した」
「平和な時代に力はいらないからな。自然な流れだ」
「ですが、そのハイエルフに魔術的な儀式でなれるとしたら? 私は神と等しき存在となり、地上を支配することができる。そう魔王になれるのだ!」
「そんなことはさせません!」
「そうだぞ。見たところ、お前はまだただのダークエルフ。ここで撃てば、その企みも消える」
「ふふ、ハイエルフになるには最上級のエルフの魂が必要となるのでな。お前たちが最上級にふさわしいかどうか、最終確認をしてやろう。いでよ、ダークシャドウ!」
ダークエルフから黒い靄が複数射出されていくと、その姿を変えていく。人型になっていくそれはアイリたちがよく知っている人の姿であった。
「ユーリちゃん、リュウくん、ミミちゃん、LIZさんにケイまで!」
「私たち以外の【桜花】メンバー勢ぞろい……!?」
「ふふふ、この洞窟に入った時点であなた方の情報はこちらに筒抜け。あなたたちがクランの力を借りて様々な難題を乗り越えてきたこともね。そして、こちらはそんな彼らの再現体。仲間が多ければ多いほど苦しむということですよ」
「6vs3……数は不利だが、まだ戦えるな」
「5vs3ですよ。私は最下層で待つので」
ダークエルフの姿が消えると同時に分身の術で2人に分裂した黒いユーリがアイリに急接近する。そのうちの片割れをリーフが打ち抜くと霧散する。
「ソニックスラッシュ」
「ユーリちゃんと同じ技……でも、ユーリちゃんは火力不足に悩んでいたはずだから1発は耐えられるはず!ポイズンショット!」
「念のため、防御アップの薬品を使います」
Chrisに薬液をかけてもらい、堅牢になったアイリが偽ユーリの攻撃を受けながらも毒液を浴びさせる。毒になった偽ユーリが後退し、偽ミミに毒を解除してもらおうとする。
「そうはさせません!アース、遠投の強化を!」
Chrisが偽ミミと偽ユーリの間に爆発玉を投げつけ、足止めをする。そして、そのわずかなスキで分身を作ったアイリはヒュドラブレスで毒を解除できる偽ミミを狙おうとするも、偽リュウがワイドガードでかばってその目論見を防ぐ。
「さすがリュウくん。偽物でも固いね」
「タンクを惹きつけれるなら、あっちの大槌の女は私が足止めしておく。動きも遅いし、遠距離攻撃もできなさそうだからな」
リーフが弓矢を放って、偽LIZの動きを封じていく。鍛冶師という職業の性質上、大ぶりで隙だらけな技が多い彼女にとって、素早く正確な射撃を行ってくるリーフは天敵だろう。だが、その射撃を偽リュウが防ぐなら、話は別だ。偽リュウが攻撃を防ぎつつ、偽LIZに距離を詰められたら弓矢がメインウエポンのリーフは一転して不利な状況になる。
「だけど、リュウくんを倒すには時間がかかるし、それに……」
毒状態から回復した偽ユーリがアイリを切り刻もうと接近戦を挑んでくる。先の防御アップの効果はまだ続いているため、そう簡単には倒れないがじわじわと削られていくHPをみると、クリティカルが発生したら致命傷になりかねない。
先ほど作った分身は偽ケイのテイムモンスターと戦闘を行っており、自分たちへの攻撃を防いでくれている。下手に呼び戻せば、均衡が崩れて偽ケイまで攻撃に参加されてしまう。
そんなとき、Chrisから薬液をかけられHPが徐々にだが回復する。
「リジェネ状態を付与しました。アイリはそのままユーリ・フェイクを。できるならケイ・フェイクも。私がリュウ・フェイクとミミ・フェイクを倒します」
「わかった。ポイズンショット!」
毒液が危険と判断した偽ユーリが素早く距離を取り、攻撃の射程から外れる。だが、距離を取ってくれたおかげでこちらも反撃の手が打てる猶予が生まれる。
「ケルベロス召喚!死霊王召喚!」
死霊たちを偽ケイへの増援部隊として送り込み、ケルベロスにまたがったアイリが偽ユーリと戦っているころ、Chrisが偽リュウに近づく。手には複数の薬品が握られており、それらを一気に偽リュウに向かって投げつける。
「プロテクションシールド」
「攻撃には防御力を上げる……そう思ったので、まずは引火剤を投げつけました。フレイム、【火力強化】!」
「ホーリーシールド」
「無駄です。シールドで防いだとしても火の粉は地面に落ちる。油まみれの床に!」
火炎瓶からの炎が床にばらまかれた油に引火し、頭上から油まみれになったリュウに伝わっていき燃え広がっていく。それを見た偽ケイがアクアドラゴンを召喚し、消火に当たろうとするも、リーフの牽制の射撃、残りが1体になったアイリの分身体と死霊たちがその障害となっていく。
「ヒー……」
「回復はさせませんよ!火炎草」
Chrisが投げつけられたものが偽ミミの口の中に入ると、口から火を吐いて魔法を唱えることができなくなってしまう。それほど辛い薬草ではあるが、薬品の原料になるため、常日頃から持ち歩いている。
その間に燃え盛る偽リュウに向かって引火剤を投げつけ、その火力を強めていき、火炎草の効果が切れる時間を見計らって、偽ミミに再度投げつけていく。
そして、ついに偽リュウが消え、か弱いヒーラーと鍛冶師を護るものがいなくなる。偽LIZと追いかけっこしていたリーフが一転攻勢にでる。
「精霊よ、私の弓矢に強化を!」
リーフの強化された矢が偽LIZを打ち抜き、消滅させる。ハメ殺しされている偽ミミが次の彼女たちの攻撃対象になるのは自然な流れであり、偽物軍団からヒーラーが消える。
「アクアブレス」
次は死霊とアイリの分身体を倒した偽ケイが相手だ。といっても、テイムモンスターの再召喚には時間がかかり、ほかのテイムモンスターは尽きたのか、アクアドラゴン1体しか出していない。
「ドラゴンが相手か……これは時間がかかりそうだぞ」
「ええ、でも数はこちらが上。アイリがユーリ・フェイクを倒せば逆転です」
「だな。気合を入れるぞ」
二人が偽ケイを抑えている中、アイリと偽ユーリの戦いは佳境に入っていた。ケルベロスからの攻撃をかわしながらも、煙幕を駆使しながら後方に回り込んでクリティカルによる一撃を狙っていく偽ユーリとそうはさせまいと【透視】を使ってそれを防ぐアイリ。
「偽物といってもさすがユーリちゃん、私の攻撃が当たらない」
『そう言っている場合か!策はないのか』
「大丈夫。種は蒔いておいたから。【急成長】!」
床から無数のつたが生え、偽ユーリの行動できる空間を狭めていくと同時にそれらが彼女を捕まえようとしてくる。これだけ樹海のように生えている植物があれば、偽ユーリを見失いそうかもしれないがアイリの【透視】の前では視界の邪魔にはならない。
「一気に行くよ、ヒュドラブレス!」
毒竜の放った猛毒が樹海を包み込み、偽ユーリに毒状態を付与させる。これが本物であればアイテムで回復したり、スキルで耐えたりしたかもしれないが、残念ながら偽物にはそういった方法がまったく無い。こうなれば死なばもろともといった感じで偽ユーリがアイリにまっすぐ突っ込んでくる。
「ユーリちゃんなら、たぶん……」
アイリが後ろを振り返るとそこにはアイリの目を盗んで作っておいたユーリの分身体がいた。
「正面切っての攻撃なんてしないよね!コンフュージョン!」
分身体が混乱し、偽ユーリの本体にめがけて刃を振りかざす。互いの攻撃が命中し、消滅していく偽ユーリたち。そしてアイリは、分身体はとうに消え、召喚した死霊もつき、疲弊したChrisとリーフのもとへと駆けつけていく。
「おまたせ!」
「ようやく来たか」
「私たちだけでは耐えることが精一杯でした」
「あとは任せて。行くよ、ダークサンダー!」
アクアドラゴンと相性のいい雷属性の攻撃によって麻痺状態にする。肝心かなめのアクアドラゴンが動けない今、テイムモンスターを失った偽ケイだけとなった。テイマーである偽ケイが3人の攻撃をさばけるはずもなく、あえなく消滅するのであった。
「つ、つかれた~」
「そうだな。少し休んでから奥に進んでいこう」
「今回はアイリさんがいたから数の不利を帳消しにできましたけど、ほとんどのクランがここで詰みますよ」
ダークエルフの話をそのまま鵜呑みにするのであれば、ここで戦うのはパーティーメンバー以外のクランメンバー全員。クランメンバーの上限が増えたことで最悪、54vs6等の逆レイド戦が起きかねない。しかもテイマーやサモナーの価値が上がった今、どこのクランでも彼らを見かけるようになっている。モンスターの頭数も踏まえるなら数の差はさらに広がっていくだろう。
「さらに、結界の条件でテイマーやサモナーがパーティー内に入らないように誘導。そして、このバトルで敵として登場させる。これは運営の悪意しかみれません」
「じゃあ、最後の戦いもとんでもないことが起こりそうだね」
「ええ、次がどうなるのか見当もつきません」
不安を抱きながらも、休憩を済ませた三人は再び奥へと向かっていくのであった。