第53話 エルフの村防衛戦
「少し偵察してきたが、まずいな。このままではあと数時間後にはこの村にやってくるぞ」
「それまでに対策をうたないといけないけど……」
「まずはこれまででわかっている情報を整理しましょう」
①黒いゴーレムが結界を張るため、エルフ以外戦闘に参加できない
②結界内では召喚系の魔法使用不可
③雑魚は魔法ダメージ半減の装甲
黒いボスゴーレムは魔法無効の装甲
④物理ダメージは高い防御力で効きにくい
「こう考えていると見事にメタられていますね」
「魔法もダメ。物理もダメ。どうやったら倒せるんだろう?」
「周りのゴーレムは私の弓矢で倒すぞ!」
「……リーフさんくらいの弓矢の使い手って、この村にどれくらいいるんですか?」
「リーフ姉ちゃんに勝てる奴なんているわけねえだろ」
「最近の男連中はだらしないからな。軟弱な奴が多すぎる。雌か!」
「どっちかというとリーフ姉ちゃんが雄なんじゃねえの?」
「そんなことないぞ♡」
「可愛い子ぶっても手遅れだぞ」
しゃべらなければ美人だが、その裏腹に男顔負けの勇ましさがあるのは、アイリたちにもばれている。とはいえ、一人で全てのゴーレムを倒すのは無理だろう。
「それにあの黒いゴーレムをなんとかしないと」
「偵察したときに矢を放ったが、はじかれてしまった。こんなことは初めてだ」
「リーフ姉ちゃんが無理ならどうするんだよ……」
「魔法攻撃、物理攻撃以外となるとあとは……」
「あとは?」
「固定ダメージ与えるアイテムとか。例えば、この爆発玉なら直撃なら数値分の固定ダメージ、爆風だとその半分の固定ダメージを与えることができます」
「それをつかえば……」
「でも、作るのに必要な素材自体のレアリティはそこまでですけど、各地にばらけています。今の私にある手持ちの材料で足りるかどうか……」
「だったら、みんなで集めればいいんだよ」
アイリはクランのメンバー全員に事情を説明し、爆発玉の材料を探してほしいと連絡する。
『火炎袋はきょうりゅうさんから採れたはずです。ユーリお姉ちゃんと一緒に取りに行きます』
『狩りは任せておいて』
『火薬の原料になる鉱石はパンデモニウム付近で採れたはずや』
『あと硫黄もやったけ? 確か、海底でも採れたはずや』
『なら、私は火薬作りね。木材はたんまりあるし、任せておいて』
「これで良し」
「すごい。依頼を受けていないのに手伝ってくれるなんて」
「私たちでクリアできないなら、みんなで協力するだけだよ。倉庫にある材料、全部使っちゃって!」
「はい!任せてください。持てないくらい作ります」
「それは頼もしい。村の連中にも渡しておく」
「じゃあ、私たちは黒いゴーレム以外の足止めだね」
「そうだな。村の連中を連れて周りからやっつけるぞ。足を引っ張らない程度には強い連中なら知っている」
「俺も手伝うよ。やられっぱなしは趣味じゃない」
「よ~し、リベンジ行ってみよう!」
アイリたちは村の人たちを連れて、ゴーレムのもとへと向かう。本来ならば、結界ではじかれるはずだが、同じ結界を張れることで同族とみなされる可能性が高いというのがこの結界を維持している村長の見解だ。つまり、彼らの進行を阻めることができるのはエルフしかいない。
「爆発玉は黒いゴーレムに!弓に自信がある人は周りの白いゴーレムを狙ってください!」
「風の精霊よ、我が弓矢に力を!」
「火の精霊よ、我が爆炎に力を!」
「シャドーイリュージョンからの……ヒュドラブレス!」
エルフたちが一斉に白いゴーレムに攻撃をして、進行を食い止めていく。まれに毒がついて倒れていくゴーレムもいるが、倒れるゴーレムよりも後方から追いついてくるゴーレムの数が多い。
「これじゃあきりがない!」
「爆発玉つくりました」
「よし。風の精霊よ、かの荷物を運び給え!」
大量の爆発玉が黒いゴーレムの頭上から雪崩のように降り注ぎ、爆風で周りのゴーレムごと吹き飛ばしていく。白いゴーレムは倒せたものの黒いゴーレムはなお健在である。
「倉庫から素材をアイテム欄へ移動。再度、道具作成!爆発玉!」
再度にわたる攻撃で白いゴーレムの侵攻スピードは徐々にだが落ちていく一方で、黒いゴーレムのHPが減っていくも、侵攻スピードは変わらず。
「まずい、残り1kmを切ったぞ」
「結界ミサイルの射程が相手の最大射程と仮定するなら、あと数百mで村が射程内に入ります」
「数百M!? 白いゴーレムを止めるだけでも精一杯なのに!」
レベルの高いアイリが足りない人の手を分身体で補ってようやく押しとどめれるかどうかといったところだ。黒いゴーレムを止めるのに戦力を回す余裕はない。そうしている間にも残り200mを切り始める。
「精霊よ!」「精霊よ!」「精霊よ!」
(アイリも、村の人たちも一生懸命戦っているのに…………私だけ……)
まだまだ残っている黒いゴーレムのHP。懸命に戦っているエルフたち。この作戦の要となっているChrisは自分自身に問う。ただアイテムだけを作っているだけでよいのかと。
(ううん、そんなはずがない。私だけ……私だけにしかできないことがまだあるはず!)
『へへへ、見た目によらず熱いハートあるじゃねえか』
「この声は……?」
『俺の名はフレイム。火の精霊さ。力を貸してやるぜ』
Chrisはスキル【精霊の加護(火)】を手に入れた
Chrisはスキル【精霊の加護(地)】を手に入れた
「使い方は……フレイム、私に力を貸して!【爆炎強化】!」
『あいよ!』
先ほどよりも爆風が広がり、固定ダメージであるはずの爆発玉の威力が先よりも上がる。
「爆発の倍率強化!これなら効率よく削れる。でも、今度は爆発玉の生成速度が追い付かない!」
『だったら、今度はワシの出番じゃな』
「アース、【生成速度強化】!!」
他のエルフの協力もあり、マシンガンのように出来立てほやほやの爆発玉が投げ続けられ、黒いゴーレムの動きがようやく止まっていく。そして、背部の発射口からミサイルが放たれ、以前とは違いChrisに向かって飛んでくる。
「そうはさせないよ!ダークサンダー!」
黒い稲妻がChrisの眼前に迫ってきたミサイルを焼き払っていく。たとえ本体が魔法に耐性があっても、それに付随するミサイルや銃弾はその限りではない。魔法を主体とするアイリでも、Chrisを護ることはできる。
「アイリ、ほかのゴーレムは!?」
「リーフさんと村の人たちが頑張ってくれている。黒いゴーレムの動きを封じ込めれば良いんだよね!」
「そうだけど、アイリの魔法でも通用しないわ」
「大丈夫。さっきので魔法が利かないのは装甲の部分だけだってわかったから!シャドーロック!」
アイリの影が伸びていき、黒いゴーレムの影と交わることでその動きを封じ込める。ゴゴゴと体を動かそうとしているようだがぴたりと動かない。シャドーロックのデメリットでアイリもその場から離れることができないため、白いゴーレムに襲われたら一巻の終わりだ。
「Chrisちゃん、今のうちに……やっつけて!!」
「倉庫にあるすべての素材をアイテム欄へ!道具生成、爆発玉!」
遠くで素材集めをしているクランメンバー、リーフをはじめとする村の人たちの奮闘、クランに来たばかりの自分をも信じてくれるアイリのためにも、Chrisは精霊たちに向かって吠える!
「ここにいるすべての精霊よ!私たちに奇跡を!!」
それは心の底から願ったもの。それに応えるかのように黒いゴーレムで弾ける爆発はさらに巨大なものへと変貌していき、ついにそのHPを0にした。そして、黒いゴーレムを倒したことで結界への干渉効果が消え、白いゴーレムは結界の外へとはじき返される。
「あとは白いゴーレムを倒すだけだね。今までの分をやり返すよ、ケルベロス召喚!」
「まだ爆発玉が残っています」
「よ~し、みんな、あと一息頑張ろう!」
「「「お――!」」」
目下最大の敵を倒したことで士気がうなぎのぼりの彼らを押しのけるほどの戦力が残っていない白いゴーレムは、魔法や弓矢、爆発の本流に飲み込まれていき撃退されていくのであった。