第50話 新メンバー加入
大型イベントに伴うアップデート内容が届き、そこには様々な魔法・技・スキルのバランス調整等がなされていた。
①初心者支援のため、Lv20以下のプレイヤーは
魔法【〇〇ショット】(○○は属性)の所得に必要なスキルポイントを0にします
技【○○ソード】(○○は属性)の所得に必要なスキルポイントを0にします
Lv20以上のプレイヤーですでに所有している場合はその分を返還します
②以下の魔法・技・スキルはゲームのバランスを著しく損なわせていたこともあり、以下の調整を行います
【シャドーミラージュ】消費MP16→32、CT増加
【シャドーダイブ】消費MP24→48、CT増加
【死霊王召喚】消費MP20→40、CT増加、複製不可
【ケルベロス召喚】消費MP60、複製不可
【ファフニール召喚】消費MP300、1000万G消費、複製不可
…etc
該当プレイヤーには消費スキルポイント、Gの一部返還、該当個数に応じたランダムスキル書の送付等を行います。
③サモナーが出せるモンスターの数を1種類1体、最大10体(モンスターが召喚したモンスターは含まない)までにします。
該当職業のプレイヤーには期限付きの転職アイテムを送付いたします
他にも初心者向けのスタートダッシュキャンペーンやチュートリアルクエストの追加等もあるが、既存プレイヤーにおいて重要な事柄はこれくらいだ。
「MP管理がかなり大変。クールタイムも伸びたよ~」
「ウチはセーフや。テイマーは2体しか出せへんからな」
「私の場合、回避技のクールタイムが伸びたのが少し辛いかな」
「回復系は逆に縮まりました。ほんの少しだけですけど」
「鍛冶師は……攻撃系の技の威力が少し上がったわ。できれば生産系の方の調整をしてほしかったんだけど」
「通常の防御系の技はノータッチか効果量やCT短縮の強化やから、完全回避、無敵状態の技が狙われたみたいや」
「使い勝手が良すぎたのが原因よね」
「無敵・回避しまくったArthurがアカンかったんやろうな」
このゲームの動画を流しているプレイヤーが何人かいる。ド派手な技を使いまくるプレイヤーや別次元の動きをするArthurを見て、このゲームをやり始める人も少なくない。
しかも周年イベントやクリスマスイベントが控え、初心者も増えていくこの時期、第2第3のArthurたちを産み出すわけにはいかないと大幅なバランス調整が行われたようだ。
「さてと、弱くなったんだし、良いスキル手に入らないかなあ〜」
「アイリ、まだ使っていなかったんだ。どれどれ〜」
スキル【地魔法Lv1】
スキル【頭脳明晰】(知力がアップ)
スキル【精密射撃】(30秒以上静止状態のとき、射程距離と命中率アップ)
「前の【固定砲台】といい、芋砂になれって感じだね」
「芋?砂?砂肝なら知っているけど…」
「ちがう、ちがう。砂肝じゃないよ。芋虫みたいにその場からあまり動かないスナイパーを芋砂って呼ぶの」
「へえ~、そうなんだ」
「ゲームによっては味方にも嫌われる行為だから気をつけないとね」
「どうして?」
「前のイベントに例えるなら、玉座を破壊しないといけないのに誰もその場から動かなかったら勝てないでしょう。仮に敵をたくさん倒しても、勝利条件を満たそうとしない人が居るから敵・味方から嫌われやすいの」
「そうならないように気を付け――」
アイリににゃんぞうから個人チャットが届く。その内容は所属クランから追い出された薬師Chris1217の面倒を見てほしいというものであった。クランメンバーにこのことを話すと、その人がどういう人か分からないということもあり、しばらくの間は仮メンバーということで話をつけた。
「Chrisと言います。以後お見知りおきを」
まるでお嬢様のような立ち居振る舞いをする北欧風の銀髪少女。年はアイリたちと同じくらいだろうか。キャラクターメイキングである程度、顔や体を変えることができるとはいえ、現実と大きく剥離することはできない。【桜花】初の外国人メンバーかとワクワクしながら、クランメンバーの好奇の目が集まる。
「私のところで1週間ほど仮雇用してみたけど、性格や素行に問題なしにゃ。あと、本人はスウェーデン人とのハーフで生まれはスウェーデンだが、今は日本住まい。日本の恥をさらさないようににゃ。質問はあるかにゃ?」
「スウェーデンってどういう国? 写真とかは知っているけど、詳しくないんだ」
「美味しいもんってあるんか? なんか臭い缶詰くらいしか知らん」
「それは失礼やで。なんかあるやろ。有名なスウェーデン料理といえば……って何かあるん? やっぱ鮭?」
「鮭はノルウェー産のイメージが強いけど……」
「え、えっ~と……」
まるで学校に転校生がやってきたみたいなはしゃぎように困惑するChrisと思ったより早く馴染めそうだと思うにゃんぞう。頑張ってたどたどしく話しながらも、【桜花】との友好を深めていった。
「自己紹介も終わったことだし、Chrisちゃん!一緒にクエストに行こう!」
「でも、まだ私、レベル低いし、戦闘だと役立たずだから……」
「そんなの創意工夫で何とかなるって。ついでにエルフの村? も見つけたいし」
「なんやまたけったいなクエストでもしているんか?」
「う~ん、まだクエストの受注までは行っていないかな。でも、他種族に排他的なエルフらしいから、エルフだけで行ったほうが良いかも」
「種族限定クエストってところね。もしかすると、他の種族にも似たようなものがあるのかも」
「どうせ次のアプデでレベルキャップは解放されへんし、レベル上げを急ぐ必要もない。見逃していたクエストが無いかゆっくりと回るのもええかもな」
「ウチは海に行こうかな。他にも海底遺跡とかあるかもしれへん」
「私は生産系スキルや技のレベル上げしたいから、工房に閉じこもろうかしら」
「ミミは久しぶりにギネヴィアお姉さんに会いに行こうかと」
「結構自由なんですね」
「うん。やりたいようにやる。困っている人が居れば助け合う。それが【桜花】のポリシー!」
「初めて聞いた」
「せやな」
「ウチもや」
「でも、間違ってないです」
「そうね。私なんて平日なんかたま~にしかログインしていないわよ。上司にネチネチ言われたときに、そのときのストレスをぶつけて、剣作っているの」
「それ、呪われてない?」
「システム上は問題ないわよ。そのときの短剣使ってみる?」
「そういうのはアイリにあげてください」
「なんで!?」
笑いの絶えない【桜花】にChrisはクスクスと笑いながら、ここでならうまくやっていけそうだと思うのであった。