第48話 決着!
スキルを使って高速移動するユーリたちが、Arthurに向かっていく。
「ソニックスラッシュ!」
「その程度なら」
カウンター気味にArthurの剣がユーリにあたるもカウンター判定はとられておらず、ダメージ自体は小さい。そして、ユーリ背後から大鎌を振るう。
「貰った!ソウルイーター!」
「【バックアタック】」
「ちっ!」
「疾風剣!」
「外の炎で影があること忘れているだろ。シャドーダイブ!」
「残念だが、似たようなことをされたことはあるんでね。2度目は通用しない、スピニングブレード!」
回転切りによって背後から攻撃してきたジョーカーを吹き飛ばす。だが、ジョーカーが攻撃している間にユーリが壁を伝って天井から大量のクナイを投げつける。
「旋風で跳ね除けさせてもらう!」
「オレがいることを忘れるなよ。デスビーム!」
「リフレクトソード!」
ジョーカーの手のひらから出た光線を剣ではじき返し、使用者へと跳ね返していく。思わぬダメージにジョーカーの動きが一瞬だけ止まる。その隙を逃さんと一気に距離を詰め寄るArthur。
(ちっ、シャドーダイブはクールタイムが……!?)
「これで決めさせてもらう。シャイニングブレード!」
光り輝く剣をジョーカーに浴びさせ、倒していく。だが、それと時同じくして攻撃音が鳴り響き、玉座のHPゲージが大きく減る。
「なにっ!?」
「PKに必須の潜伏系スキルの習得条件はクラン内で共有している。そしてスキル【一斉開放】を使えば、瞬間火力は俺の方が出る」
「まさか、この二人は……」
「陽動、囮だ。お前が攻勢に出ず守勢に回っているのは、これまでの戦いでわかっている。ならば、もう一手、こちらには必要だ」
「だが、それがわかれば!」
「おっと、そうはさせないよ!」
玉座に攻撃をし続けているキングを護るため、ユーリがArthurの前に立ちふさがる。迫ってくるArthurに刃を振るったとき、Arthurの姿が陽炎のようにすり抜ける。
「まずい!」
「すまないが、君の相手は後にさせてもらうよ」
「くっ、こっちはスキルのデメリットでこの場から離れられん!」
キングに差し向ってくるArthur。その刃が振るわれようとしたとき、窓を突き破り毒竜のブレスが襲い掛かる。それを【バックステップ】のスキルで後方に飛び下がるArthur。
「みんな大丈夫?」
「助かった、礼を言う」
「挟み撃ちか……君たちを無視してキングを落とすのは困難だ。ならば!」
数を減らそうと後方にいたユーリを落としにかかる。忍者刀と剣がぶつかり合い、火花が散る。
「くっ……重い」
「装備の補正が無い分、攻撃に振らせてもらったんでね。力づくで押しとおる!」
「そうはさせないよ。ポイズンショット!」
「【跳躍】からの飛翔斬!」
「加速して躱すよ」
「流星剣!」
「空蝉の術!」
ユーリに向かって勢い良く降下してきたArthurの突きを後方にワープしながら躱す。その動きを読んでいたかのうように、Arthurが攻撃した衝撃で巻き上ががった砂埃の中から、炎を纏ったArthurが突撃してくる。
「エアースラッシュ!」
「忘れたかい、火属性は風属性に強い!」
「くっ……身代わりの術!」
「だが、連続では使えまい。【追撃】からのフレイムブレード!」
火を纏った剣によってユーリが切られ、あえなく退場する。だが、ユーリが足の速いArthurを引き付けたおかげでアイリがハイグラビティをかけることに成功する。
「体が重い……高重力場か」
「キングさんが玉座を破壊するまでおとなしくしてもらいます」
「悪いが一方的にやられるのは趣味じゃないんでね。果たしてその重力場は床下まで届いているのかい?」
「えっ?」
Arthurが床を破壊し、高重力場から逃れていく。その下の階には外の敵をあらかた倒したことでケイとにゃんぞうが応援に駆けつけていた。外で大暴れしているファフニールもおり、立っているプレイヤーは味方の方が数が多いくらいだ。
「Arthurにゃん!?」
「よくわからんけど、足止めするで!サモン、アクアドラゴン!サモン、ビッグホーンオオカブト!」
「狭いからティラにゃんは出せないにゃ。というわけでサモン、プリティーキャット!サモン、エレキキャット!」
「階段を上るには君たちを倒さないといけないわけか」
「ちび太郎、アクアブレス!カブ太郎、ギガントホーンや」
「プリティーキャットの誘惑の踊りは相手の能力を下げる効果があるにゃ。エレキキャット、スパーク!」
「僕の速度を落とし、さらに攻撃を合わして回避する隙を消したか。見事な連係プレーだ。だが、それが命取りだ!【ローリング】」
Arthurが勢いを殺さず前転を行い、前転中のわずかな無敵時間を利用して3体のモンスターの攻撃を潜り抜ける。そして、攻撃直後のわずかなモンスターの膠着時間を利用して、【加速】からの高速移動を行い、モンスターの合間を縫って、テイマー2人に急接近する。
「テイマーやサモナーの強さを見誤っていたよ。だが、接近戦に持ち込めば!」
2人を抵抗させる暇もなく葬り、階段を駆け上っていく。そこにはアイリとキングが玉座に攻撃し続けている姿があった。玉座のHPはミリ程度、いつ破壊されてもおかしくはない。
2人が互いに距離を取っているのは床下からの攻撃を警戒し、一掃されないようにしているのだろう。そして、彼らの背後を護るのは番人であるケルベロス。
『来たぞ!』
「うん、分かった」
ケルベロスが炎を吐いて、けん制するもその巨体がゆえに室内では優れた機動性も生かせぬまま、Arthurに一蹴される。だが、ケルベロスが稼いだわずかな時間でArthurの背後にアイリの分身体が現れる。
「スピニングブレードで背後の分身は消し去る」
「ヒュドラブレス!」
「カゲロウステップで通り抜けさせてもらう!」
毒竜の目の前からArthurの姿が消え去り、アイリの目の前に現れて【連撃】を利用して分身共々斬りつける。HPを半分以上持っていかれたもの、まだ耐えているアイリ。彼女を意識しながらも、Arthurはなおも攻撃を続行しているキングへと向かっていく。
「この一撃だけでも決める!」
キングの渾身の攻撃が届くも玉座の破壊には至らず、Arthurの刃に貫かれて倒れる。そして、玉座の前に立ちふさがるArthurと対峙するアイリ。外にいる他のプレイヤーがここに来るまでには多少の時間がかかる。
「ジョーカー、ユーリ、ケイ、にゃんぞう、キングは倒れた。アイリ、あとは君を倒せば、【魔軍】に有力なアタッカーはもう居ない。あとはここに来るプレイヤーを倒した後、君たちの城に張り込んだら勝ちだ」
「そうはさせません!」
「僕のMPは残り僅か……この一撃で決めるよ」
(Arthurさんはまだノーダメージ。ということはあのスキルがまだ残っているはず)
最初のイベント、初めてArthurと戦った時に敗因となった【不屈】のスキル。一撃が大きいダークサンダーを当てたとしても、低確率で発生する麻痺にでもならない限り耐えられてしまい手痛い反撃を受けることは間違いない。
「それなら、【魔力放出】【固定砲台】【ギャンブラー】スキル全部乗せのヒュドラブレス!」
「毒で【不屈】を貫通するのが狙いか。だが、僕がそのことを考えていないと思ったら大間違いだ。【聖なる光】、一定時間状態異常にならず、運を上昇させる。確率で発動させるスキルの発生確率も上がった!」
襲い掛かってくる毒竜に向かって走っていくArthur。だが、毒竜の攻撃は背後へとそれていく。
「【ギャンブラー】は命中率が下がる……どうやら運に見放されたようだね」
「ううん、大丈夫。狙い通りだから」
「狙い? しまった!? あの攻撃は僕ではなく――」
Arthurがアイリ斬りつけようとしたとき、イベント終了のブザーが鳴り響く。
アイリの最後の攻撃は玉座を狙ったもの。1撃でArthurを確実に倒せる保証が無いなら、試合自体を終了させる可能性があるほうにすべてを賭けた。
さらに、アイリは最後の攻撃が火力の高いダークサンダーならば、Arthurが麻痺を警戒して何らかの方法で防ぐかもしれないと考えた。それならばと、プレイヤー間で毒対策が進んでいることもあり、油断を誘えるかもしれないヒュドラブレスを選んでの攻撃だ。
仲間が攻撃されていてもキングが玉座を攻撃し続けていたおかげもあり、アイリの一押しで倒せるところまで削り切られており、ギャンブルに勝てたのであった。
勝利した【魔軍】のプレイヤー全員にスキルポイント80ポイント付与します
ランダムスキル書3個送付します
称号【人魔大戦の勝利者(魔)】(魔族・エルフのNPCの心証がよくなります)
敗北した【人軍】のプレイヤー全員にスキルポイント40ポイント付与します
ランダムスキル書1個送付します
そのほか、大量のアイテムと資金が手に入っていく。だが、それよりもうれしいのは一度負けた相手に勝ったことだった。
「リベンジ成功!」
「これで1勝1敗だね。次戦う時は僕たちが勝たせてもらう」
「私たちも負けません」
最後の最後まであきらめずに戦い、あわや逆転の可能性もあったかもしれないArthurと別れる。
後日、アイリは自分たちのクランでLIZたちの手作り料理で祝賀会を開いていた。【桜花】だけでなく【アルカナジョーカーズ】の主要メンバーや【にゃんにゃんクラブ】からにゃんぞうたちも呼んでいる。
クランメンバーが互いにフレンド登録しあったり、そんなことに興味もなく出されている料理にがっつく者もいる。
「アイリ、ファフニールを出していたな。少々グレーだが、商人クランを通じてマネーロンダリングすれば我々で補填は可能だ。にゃんぞうとは話もつけてある」
「別にそんなことしなくてもいいです。なんかファフニールさんが出してほしそうな感じしていたから、出しただけだし」
「ん? 召喚獣は出すまで話すような真似はしないと思うが?」
「なんというか、直感? 的な??」
「面白いことを言う。何か困ったことがあったら、呼んでくれ。すぐに駆け付ける。借りは返さないときがすまない性分でね」
「私も同じにゃ。数の暴力が必要ならいつでもよぶにゃ」
「団長、あれだけ暴れたら絶対弱体化受けますって」
「そのときはそのとき。だが、そんなやつらにモフモフこそ至高。私たちのペットは最高ということを伝えるまで私たちの戦いはこれからも続くにゃ」
「運営に伝えてどうするつもりですか……」
マイペースなにゃんぞうを諫める人は大変だなあと思いながら、アイリは祝賀会を楽しむのであった。