第47話 レイドボスの逆襲
【人軍】のプレイヤーは自陣に戻り、昼間に受けたダメージを癒し、出会ったモンスターについて情報交換をしていく。数多くのモンスターと誰かさんがまき散らしている毒によって森に入れるメンバーはそれなりに戦力が必要となっている。
そして、【人軍】にはトッププレイヤーが固まっていることから、取る戦術は一つ。精鋭たちを固めたパーティーによる一点突破の電撃攻撃。たとえ読まれていたとしても、止めることができなければ意味が無いというものだ。
「パーティーは全員【夜目】持ちだな」
「珍しいスキルじゃないっすからね。光源なしで進軍するには必須っす」
「そうだな」
無駄なおしゃべりはここまで。ライチョウたちが漆黒のとばりが降りた森の中を突き進んでいく。モンスターたちと出くわすも、昼間のような物量はない。夜になったことで、シャドーミラージュが維持できなくなり分身体が出した死霊たちも消滅したからだ。
「半分は過ぎたな」
「初めからこうすればよかったぜ」
昼間の地獄が嘘のように進軍できることについて、軽口をたたき始めるプレイヤーも現れ始める。だが、ライチョウを含め一部のトッププレイヤーは己の警戒レベルがガンガンと上がっていく。
(おかしい。あまりにも順調に進みすぎている。これは――)
一度、イーグルのフェンリルに周辺の偵察をさせようかと考えていた時、上空から巨大な水流が襲い掛かる。それをイーグルがとっさに出した氷の壁で防いでいく。
「さすがに不意を突いた攻撃で全滅は無理やな」
「でも、ここで勝負をつけるよ」
『あのときの弓兵もいるな。目の代償は返させてもらう』
彼らの目の前に現れたのは大漁のモンスターを率いて、ファフニールとリヴァイアサンの頭上に乗ったアイリとケイの二人。その姿はさながら人類から選ばれし勇者を全力で迎え撃つ魔王とその幹部といったところ。事情が飲み切れていない【人軍】は面を喰らいながらも、元レイドボスへと果敢に挑む。
「なんでレイドボスが敵にいるんですか!」
「くそ、海竜神が仲間になるならファフニールも仲間になる可能性も考えておくべきだった」
「水竜をテイムしたってことっすか!?」
「そういうことだろうよ。エアーフィスト!」
『アクアプレッシャー!』
「私もアクアプレッシャー!」
アイリとリヴァイアサンの攻撃が混ざり合い、ライチョウたちの攻撃とぶつかり合う。その時弾けた大量の水が雨のようにプレイヤーたちに降り注ぐ。そして、雨でぬれたプレイヤーたちに続々と毒の状態異常が付き始める。
「リヴァイアサンの攻撃に毒は無かったんじゃあ」
「なら、あのエルフのせいだろ!」
「アイリちゃんの毒はやばいっすよ。早く毒を解除しないと!」
「あたいの傍に寄るんだよ、リフレッシュオール!」
周りのプレイヤーが浮足立つなか、広範囲に状態異常回復の魔法をかけていき、毒状態を解除していく。だが、攻撃の手を緩めたことで、今度はファフニールがダークストームを放ち、多くのプレイヤーをMP枯渇状態にしていく。撃った後の反動でアイテムを使わせる程度の時間、動けなくなるが、その隙を埋めるかのように地上にいるモンスターが襲い掛かる。
「MPが無くても俺には拳がある」
「俺も剣があるぜ、そうだろ、Lancelot!」
「ああ、技を封じられたのはこれで2度目だ。さすがに今度もお荷物というわけにはいかん」
「運よくMP枯渇を免れた私が先に攻撃しましょう。アローレイン!」
Tristanが無数の弓矢を豪雨のように降り注がせ、地上にいるモンスターたちを消滅させていく。残ったモンスターを単純なステータスで殴りにいける前衛陣が対処していく。だが、真正面から水のバリアを纏いながら突進してくるリヴァイアサンだけは彼らでは止めることができなかった。
「どんどん行くで、ちび太郎!」
単純な突撃であったため、素早く左右に分かれたり、回避系のスキルを使うことで逃げることができた【人軍】たち。だが、分断させられたところを今度はファフニールのダークブレスが襲い掛かる。しかも夜間かつイベント補正でダメージは倍増だ。
「ぐおおおおお、こんなのたえきれねええええ!!」
「これが人間のやることかよおおおお!」
「てめえらの血は何色だあああ!!」
タンク職ですら耐えられない攻撃を他の職が耐えられるはずもなく、リヴァイアサンの突進に対して回避スキルを温存していたプレイヤーだけが生き残る。
だが、回避するのを待ち受けていたかのように今度はリヴァイアサンの津波が襲い掛かる。水場が無いところでの使用なので火力は大幅に下がり、見た目ほどダメージはない。
「これでみんなびしょ濡れだよね。ダークサンダー!」
黒い雷が濡れた服を伝わり、地上にいるプレイヤーを感電させていく。直接、雷を当てたわけではなく広範囲に分散しているため、ダメージ自体は小さくなっている。だが、それ自体が持つ特性自体は変わることは無い。すなわち――
「か、身体が動かねえ……」
「くそぉ、麻痺状態か!」
「さあ、みんな一斉攻撃だよ!」
アイリの号令と共に死霊たちが、ファフニールが、リヴァイアサンが、他のプレイヤーのモンスターが動けなくなったプレイヤーに襲い掛かる。もはや抵抗する暇すらなく、蹂躙しつくされた【人軍】の精鋭部隊は跡形もなく消え去るのであった。
そして、送り込んだ部隊が蹂躙されている間、【人軍】の城の前にはティラノサウルスに乗ったにゃんぞうと同クランのテイマー数名、それに他の【魔軍】のメンバーが攻め落としに行っていった。【サンダーバード】と【Noble Knights】の主力メンバーは出払っており、ここにいるのは彼らよりも数段劣る者たちである。
「てぃらにゃん、ダイナコール!」
テイラノサウルスが吠えると、どこからともなくプテラノドンとトリケラトプスがやってきて【人軍】のプレイヤーに攻撃を加えていく。【魔軍】の勢いを止めることができぬまま、城の前は赤い炎が燃え盛っていく。
外にいるメンバーを助けようと城の中にいたプレイヤーもぞろぞろと出ていく中、ユーリとジョーカーは城の内部へと侵入していた。潜伏系のスキルを使っていることや、目の前で大暴れしている存在があるため、注意が内部に向いていないこともあり、あっという間に玉座の間へとたどり着く。そして、玉座の前には外の炎に照らされたArthurの姿があった。
「やってくると思っていたよ」
「Arthurさん、やっぱりここにいた」
「今の僕が下手に出たら足手まといになるかもしれないからね。でも、玉座だけは何としてでも守り通らさせてもらう」
「はっ!上等だ。ここでお前を倒せば、オレたちの勝ち!ってことだろ。シンプルでわかりやすいじゃねえか」
「うん。一気に行くよ!」
【人軍】最後の関門が【魔軍】の前に立ちふさがる。彼が行っているイベントの影響で弱体化しているとはいえ、No.1の称号を持っていたことには違いない。数では有利だが、果たして玉座までたどり着けるか、二人は気合いを入れなおしてArthurへと襲い掛かる。