第46話 それぞれの戦い
「火遁の術!」
「アイスシールド!」
あいさつ代わりにユーリがライチョウたちに火を噴くと氷の壁に阻まれてしまう。戦闘の初めはお互い手の探り合い、相手の出方を伺いながらも、今度はイーグルが反撃に出る。
「アイスミサイル!」
「氷の塊なら、火遁の術で溶かすだけよ」
追尾してくる無数の氷の塊を溶かしていくと、今度は頭上からライチョウが拳を振り降ろそうとして来る。
「【加速】!」
「それくらいであたいがしこたまバフをかけたリーダーから逃げられるとでも?」
加速した自分に追いついてくるライチョウを見ながら、クナイや手裏剣を投げつけるも拳1つではじいてくる。距離さえとっていれば怖くないと思っていたユーリに対し、ライチョウが立ち止まって拳に力を入れ始める。
(何かくる――!)
「エアーフィスト!」
「身代わりの術!」
飛来してきた巨大な拳をサブ武器のなまくらの短剣が代わりに受けて、ダメージを回避するも、攻撃を受けたなまくらの短剣はロストする。そして、回避したところに今度は氷の弾が飛来してユーリのHPを削っていく。
「――っ!?」
「すばしっこい相手には着地狩りも辞さないっすよ」
「ちょっと過大評価しすぎじゃないかな」
「正当な評価ってことで。こっちも本気を出させてもらうっす。フェンリル召喚!」
イーグルが呼び出したのは白銀の巨大な狼。その息吹だけで辺りの木々が凍り付き、ユーリの吐く息が白くなる。
「まずっ!」
フェンリルが飛びかかりながら、白いブレスをまき散らしていくと地面が凍り付く。ジャンプしてフェンリルの体当たりを躱したユーリが地面に着地すると、滑りこける。その隙を逃さんとライチョウが凍った地面をものともせずに走ってくる。背後にはフェンリルが差し迫ってきている。
(やられるくらいなら――!)
せめて、クリティカルダメージで倒せる可能性がある耐久力の低いヒーラーであるホークを背後に回らせた分身体に襲わせるも感づいたフェンリルが地面から生えた氷の槍で貫いていく。そして、眼前にはライチョウの拳。
「空蝉の術!」
ライチョウの攻撃を木材が受け、数m後ろにワープするもそこはフェンリルの目の前。足元は立つことすらままならない氷の地面。逃げ場がないユーリにフェンリルの牙が襲い掛かったとき、黒い炎の弾が3つフェンリルとライチョウに向けて放たれていく。
『大丈夫か!』
「助かった!」
狼煙や急激な温度変化に気づき、救援に駆け付けたケルベロスの攻撃で地面の氷が解け、ユーリがまともに動けるようになる。
「フェンリル、エターナルブリザードっす」
『我が炎がその程度でやられると思うか!』
黒い炎と白い冷気がぶつかり合う中、ライチョウがケルベロスの懐に飛び込み、アッパーを放つ。ケルベロスの3つの首が炎を放つことでフェンリルと拮抗させている今、ライチョウの攻撃を回避する手段はない。まともにライチョウの攻撃を喰らったケルベロスは一撃でやられてしまうのであった。
「ユーリは!」
「逃げられたみたいっす」
「こちらの切り札の情報を持っていかれたか。ケルベロスにまんまとしてやられたわけだ」
「深追いするかい。そう遠くまでは逃げてないはずだよ」
「こっちはほぼノーダメージ。状況は悪くはない。逃がす道理は――」
追いかけようとしたとき、たまたま近くにいたアイリの分身体とお供である骸骨剣士たちが時間稼ぎのためにやってくる。
「ええい、次から次へと!」
「ヒュドラブレス!」
「フェンリル!」
イーグルの呼びかけに応じてフェンリルがヒュドラ形状の毒を凍らせて無害化する。これが本物ならば、眼前に迫ってきたライチョウをシャドーダイブでかわしただろうが、分身体である彼女は逃げることができず霧散する。
「聖なる裁きを受けな、ジャッジメント!」
アンデッドモンスターが無数の光弾に貫かれて消滅していく。あっという間に殲滅するも、ユーリを完全に見失った彼らは撤退を余儀なくされた。
一方、【アルカナジョーカーズ】と【Noble Knights】は、一進一退の攻防を繰りひろげていたものの、その均衡がついに崩れ去る。
「フレイムブレード!」
「アクアブレード!」
GawainとLancelotが持つ炎と水の剣によって、クイーンとジャックが倒される。残りはエースとジョーカーのみ。だが、【Noble Knights】も無傷ではない。随伴させた盾使いとヒーラーは既に倒れ、3人しか生き残っていない。
「ラピッドショット!」
2丁銃に切り替えたエースはMerlinを襲うとするジョーカーを支援しようとGawainたちに向かって発砲していく。クイーンたちを倒したとはいえ、そのダメージが抜けていない2人は足が止まる。
「喰らいやがれ、デスサイズ!」
「その動きは散々見させてもらったわ。燃やし尽くしてあげる、フレイムトルネード!」
「オレには通用しねえよ、シャドーダイブ!」
「――その魔法は!?」
「影魔法はどこぞの誰かの専売特許じゃないんだぜ!」
Merlinが後ろを振り返るとそこには緑色に発光した大鎌を振るうジョーカーの姿があった。影魔法が使えるのはアイリのみという刷り込みがあった彼女は完全に不意を突かれる。
「ソウルイーター!!」
ジョーカーの攻撃を受けるも、魔族特有のHPの高さでギリギリのところで耐える。その隙を
「喰らいやがれ、バーストショット!」
「そんな攻撃、Barrierで……貼れない!?」
炸裂する銃弾をまともに喰らい、HPが0になったMerlinはこの場から退場する。爆炎に紛れたのかジョーカーの姿はなく、残るはエースのみ。仲間を倒された鬱憤を晴らすかのように繰り出された2人の鋭い剣戟は対抗策が無いエースを斬り裂くのであった。
「くっ……みすみすやられてしまうとは!」
「不覚だぜ。これからどうする?」
「一度戻って体勢を立て直す」
「それは困る。ステルス解除、ソウルイーター!」
背後から突如現れたジョーカーの攻撃を受けたLancelotはよろけ、Gawainが彼をかばうように前に立つ。
「正面からやり合うつもりはねえよ!【加速】、【飛翔】!」
高速で飛んでいくジョーカーを追うことができないGawainはダメージを受けたLancelotに手を差し伸べる。
「大丈夫か」
「大丈夫ではない。だが、Merlinが魔法を使えなかった理由がわかった」
「それは!?」
「魔法・技封印状態だ。おかげで今の俺は一切の剣技を使うことができない」
「こりゃあ早く解除しないとな。城に戻ればリフレッシュが使えるヒーラーもいる」
「ああ、一度戻るぞ」
Gawainが先導して自陣まで戻ろうとするも大量のモンスターをひしめく森の中を広範囲攻撃を持つMerlinを失った状態かつ足手まといになったLancelotを護りながら戦わないといけないため、戻れたのは夕刻となってしまった。
「エースがやられたのは痛いが、予定通りMerlinを倒せたのは大きい。フェンリルに関してはケルベロスをぶつけて動きを止める。ユーリ、敵の動きは?」
「無暗に飛び込んでも勝てないと思ったのか分からないけど、自陣に戻っていたよ」
「ふむ。ジョーカー、君はどう思う?」
「オレに聞かなくても答えは出ているんだろう。オレはそれに乗っかるぜ。外れても恨みっこなしだ」
「分かった。向こうは影魔法が使えるのが2人いるとわかったことで、夜まで待つ算段だ。そして、防衛を最低限だけ残し、残りの戦力を一点に集中させ、中央突破!こちらに向かう。こちらの思惑通りにな」
「じゃあ……」
「日が沈んだと同時にフェーズ3へと移行する。この勝負、一気に決めるぞ!」