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第45話 NOT PVP, YES PVE

 クラン戦のマップは南側に【人軍】、北側に【魔軍】の城がある。互いの城は十分に離れており、遠距離魔法と言えども届くことは無い。マップの中央部には森が広がっており、身を隠すにも、奇襲するにも、トラップを仕掛けるにも便利そうな地形だ。そして、イベント開始のブザーが鳴り響く。


「作戦はこちらの最優良パターンAで行く」


「いくよ、死霊王召喚!ケルベロス召喚!」


「ちび太郎は温存やから、ここは森が得意なカブ太郎、クワ太郎や!」


 レイドで見た豪華な装備を身に着けた骸骨剣士が、配下の骸骨剣士や幽霊を十体以上呼び出して進軍していく。それに追随するテイマーとサモナーのモンスターたち。それを先導するのは地獄の門番であるケルベロス、まさに魔王の軍勢と言える光景が人軍へと向かっていった。



「そろそろ、プレイヤーと当たる頃合いだな」


「腕が鳴るぜ」


【人軍】のプレイヤーたちが森の中を進軍していると、背後からクナイが飛んできて運悪くクリティカルヒットする。大ダメージを受けるも、近くにいた女性が回復し、一撃では倒しきれず奇襲者は森の奥、魔軍側へと逃げていく。


「逃がすか、追え!」


 それを追撃していくプレイヤーたち。まんまと乗ってくれたことにユーリは木の葉隠れの術で周りの風景と同化することで姿を一瞬にして消し、戸惑っているプレイヤーの背後から隠しておいた分身を使って奇襲する。


「狙うはヒーラーよね」


 分身が手にした忍者刀が先ほどのヒーラーを突き刺し、クリティカルダメージと相まってそのHPを削り取る。


「まずは一人と。後はスキル【狼煙】で場所情報を伝えて……」


 味方だけに見える煙を昇らせ、回復役がいなくなったところで、見つからないうちにユーリはそそくさと退散し、見捨てられた分身体は【人軍】の逆襲にあってその姿を消すのであった。


「ちっ、これが噂の分身魔法か」


「本物はもう逃げたんだろうな」


「とんだチキン野郎だ」


「リーダー、相手は女の子……」


「うるせえ!ダメージを受けてもポーションで回復すれば……」


 そう話していると、今度はモンスターの群れに取り囲まれていたプレイヤーたち。その多くはアンデッドの雑魚モンスターだが、1体だけ豪華な装備をつけている骸骨剣士がいる。


「今度はテイムモンスターか!」


「だが、雑魚モンスターなら……ぐぬおっ!?」


 急に体が重くなり、剣を振るうどころか立つことすらままならない。そして、目の前には重力の影響を受けないゴースト系のエネミーが呪詛をまき散らして、じわりじわりと自分たちのHPを削り取っていく。


「呪いの状態異常……」


 彼らの状態異常を回復できるヒーラーは既にユーリが討伐済みだ。彼らがアイテム欄から聖水を取り出して飲もうとしても、高重力下ではそれすらもままならない。そして、抵抗すらできぬまま人軍の1パーティーは静かに敗退するのであった。


 また、別のパーティーにおいてもモンスターたちと戦闘を行っており、時折混じる高レベルモンスターたちによってレベルの低いプレイヤーたちは餌食となり、レベルの高いプレイヤーが生き残っていく。当然、プレイヤーが操るモンスターなので、普段の雑魚モンスターのように1撃で倒しきれるものではない。それゆえに、背後から音もなく現れるアイリの分身に気づかなくてもおかしくはない。


「ダークストーム!」


 背後から襲われる闇の嵐によってモンスターの群れの中に吹き飛ばされる魔導士や剣士たち。ダメージは無かったとはいえ、すぐさま離脱しなければならないので魔法や技を使おうとするも発動しない。その理由は自分のステータスにあった。


「バフ解除にMP枯渇!? なにがおこって――」


 ポーションを飲もうにも敵に囲まれたこの状態では回復する暇もなく、剣士や盾使いは自分の身を護るので精いっぱいだ。抵抗すらできぬ魔導士はモンスターの攻撃を一身にくらいつづけ、HPを0にした。

 その場をアイリが【遠視】と【透視】のスキルで周りの木々に邪魔されることなく見ていると、近くでガサコソと音が聞こえる。ここでアイリを倒せば、この後の展開が大きく変わっていたかもしれないが、彼らは彼女を見逃し、モンスターに襲われている味方を助けに行く。


(【ミニマム】って便利だね)


 そう、今の彼女は足元をよく見ないと気づかないほど小さくなっていた。しかも、黒っぽい服を着ているので、余計にわかりづらい。

 そして、通常サイズのアイリの分身体は本体を隠すための囮となりつつ、ポイズンミストやヒュドラブレスで毒をまき散らし、次の獲物を求め森の中をさまようモンスターとなっていた。


「敵プレイヤーは何処にいるんだよ!」


「お、俺たちはいつの間にPVEイベントに出たんだ!?」



 今では数多くのモンスターが蹂躙跋扈し、【人軍】のプレイヤーたちが阿鼻叫喚となっている森から帰還したユーリは城内で一息入れる。


「ユーリちゃん、お疲れ様」


「アイリも大変でしょう。スキル【遠視】で離れた場所に魔法を使うの」


「うん。でも、影が出る昼間が勝負だから。ポーションはがぶ飲みだよ」


 シャドーミラージュ+死霊王召喚のコンボ、サモナーが何度もモンスターを召喚することによって加速度的に増えていく雑魚モンスターたち。数は少ないもの、テイマーが操る強力なモンスター。

 【人軍】がいくらモンスターを倒しても【魔軍】のプレイヤーの数は減らないし、CTまでの時間を稼ぐことさえできれば補充も可能だ。

 そして【人軍】は疲弊し、森の中に潜む【魔軍】が放ったモンスターの手によってプレイヤーが倒されるたびに他のプレイヤーの負担は増え続け、さらにプレイヤーが減っていく悪夢のループが起こりつつある。


「戦いは数だ。こちらにサモナーが多い時点で勝ちの目はある」


 開始前に劣勢だと思われていた【魔軍】が優勢になっていることで、イベント前に意気消沈していたプレイヤーの士気も高くなっている。しかも、事前の説明を受けていないクランが森の中に入っていることでキングの作戦の目くらましになっていた。このまま押し切ればと思った矢先、森の中で巨大な爆炎が巻き上がる。


「Merlinの火魔法。流れを断ち切るために拠点から離れたとみるべきか。【サンダーバード】のライチョウもどこかにいる可能性が高い。これまでは予定通りだな。これより、フェーズ2へと移行。アイリ、ケイ、君たちには最悪のケースに備えてフェーズ3にいつでも行ける準備を」


「わかりました」


「わかったで。といってもMP満タンにしておくくらいやけど」


「あらかじめ決めたメンバーで出撃する。ユーリ、君は【サンダーバード】がどこにいるか偵察を頼む。それ以外のメンバーは【サンダーバード】【Noble Knights】を除くクランを排除するフェーズ1を実行せよ」


 キングが統率を取り、それを忠実に守っていく3つのクランたちの攻撃により、【人軍】の数が着実減っていく中、Merlinはわざと自分の居場所を知らせるような大技を放っていた。そばにはGawain、Lancelotがわきを固め、自分たちのクランの盾使いや祭司も数人連れてきている。TristanとArthurは城の守りを固めているため、不在だ。


「そろそろcastleから遠距離攻撃が届く頃合いの距離ね」


「ん?」


「どうしたGawain?」


「どうやら敵さんが来たようだぜ」


 彼らの前に立ちふさがるのはエース、クイーン、ジャック、ジョーカーの【アルカナジョーカーズ】のトップ4人だ。


「PKクランがお出迎えか」


「No.1不在ならこっちにも勝ちの目はあるってもんだ」


「あら、私たちがArthurのおまけだとでも思っているわけ?」


「おまけどころかワンマンの腰巾着だと思っているぜ」


 ムムと膨れた顔をしたMerlinが軽く魔法を放ち、【アルカナジョーカーズ】と【Noble Knights】の戦いが始まる。


 その一方で、ライチョウたちは森の中をずしずしと進んでいた。周りには戦車でも走っていたのかと思うほど木々がなぎ倒されている。


「ここにアイリちゃんのケルベロスが通った見たいっすね」


「ケルベロスは速い、火力も十分。それだけでも脅威だが、一番恐ろしいのは賢いという点だろう。こればかりは俺たちが対処しておかないと味方の減りに歯止めが効かなくなる」


「一度森から戻れなんて言っても、誰も聞かないっすからね」


「相手が弱体化する夜まで待てと言ってもなぁ。まあ、しかし、見つけたいものが見つかる前に先に別の者が見つかるものだな」


「何を言っているんだい?」


「そうだろ、ユーリ」


「……なんでバレちゃったのかな。スキル? それともただの直感?」


 既に【狼煙】で現在位置を教えたユーリは足止めすべく、1vs3の劣勢といえどもライチョウたちの前に出る。


「さあな。出会ったが100年目、とことんやり合おうぜ!」


「やれるところまでやりますか!」

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