第42話 王都へ
今日は日曜日ということもあり、【桜花】のメンバーがクランホームにそろっていた。
「アイリ、昨日はホームに来なかったみたいだけど、どこに行っていたの?」
「昨日はね、マーサさんのところに行ってパワーアップ!でも、ちょっと疲れたからすぐログアウトしちゃった」
「へえ~、どれくらい強くなったの?」
「さて、ここで問題。今の私のレベルはいくつでしょう?」
(あっ……これ、なんかやらかしたやつ)
伊達に付き合いが長いわけではない。そして、ゲームでは恐ろしくイレギュラーな行動をしていることはユーリどころか、クランメンバーの知るところだ。
「夏休み最後に会ったときが32だったから……35。いや、40!」
「ぶっぶー、残念。答えは45でした」
「……なんて?」
「45」
「なんで?」
「いや~、ファフニールさんは強かったよ。さすがレベル100」
「……ファフニールってことは【邪龍再臨】のクエストなんだろうけど、レベル100? ソロ討伐?」
「うん!」
「ずいぶん差がついちゃったなあ……私も頑張らないと」
「次のイベントに向けて頑張ろうね。あっ、そうだ。スキル書と選択スクロールを使わないと」
スキル【乳海】(水魔法を使った時、高確率で毒状態を付与し、自身に自動回復状態を付与)を覚えました
スキル【魔力放出】(一定時間、消費MPが増加する代わりに魔法の威力が上昇する)を覚えました
魔法【ダークストーム】(相手の魔法効果を打ち消し、中確率でMPを枯渇させる。MP枯渇はボスモンスターには無効)を覚えました
魔法【アクアプレッシャーLv1】(消費MP32)を覚えました
「リヴァイアサンからゲットしたスクロールも使って水魔法ゲット。これで新しいスキルも即使えるよ。ステータスは十分だし、まだスキルポイント残っているから、後で魔法かスキル教えてもらおう」
「……ステータス十分? ねえ、今どうなっているの? 見るの怖いんだけど」
アイリは自身のステータスをクランメンバー全員に見せ始める。
アイリ Lv45
種族:エルフ
職業:黒魔導士
HP165/60(+105)
MP525/235(+290)
攻撃:3(+7)
防御:3(+132)
知力:59(+200)
敏捷:5(+16)
運:5
残りスキルポイント:214
装備品
メイン武器:邪龍の杖(MP+200、知力+200、召喚獣の攻撃力アップ)
サブ武器:ポイズンダガー(攻撃+14、ごく低確率で毒状態付与)
頭:黒魔導士の帽子(MP+20、HPを最大MPの1/5アップ)
服:黒魔導士のローブ(最大MP+20、最大MPの1/4の数値だけ防御アップ)
脚:ポイズンシューズ(敏捷+16、回避時にごく低確率で毒状態付与)
首:魔力の首輪(最大MP+20)
右手:魔力の腕輪(最大MP+15)
左手:魔力の腕輪(最大MP+15)
所持スキル
【状態異常耐性(中)】【状態異常成功確率アップ(小)】【闇魔法Lv2】【外道】【ギャンブラー】【富豪】【精神攻撃Lv1】【時間耐性(小)】【精神耐性(中)】【影操作】【急成長Lv1】【ジャイアントキリング】【呪毒】【毒耐性(小)】【夜目】【逆境】【黒魔導】【ヒュドラ毒】【PKK】【植物操作】【闇の力】【遠視】【透視】【暗黒の知識】【固定砲台】【非道】【話術】【戦術眼】【乳海】【魔力放出】
所持魔法・技
【シャドーミラージュLv2】消費MP16
【シャドーアタックLv2】消費MP2
【カースLv2】消費MP4
【ポイズンショットLv2】消費MP4
【ポイズンミスト】消費MP12
【メンタルブレイク】消費MP8
【シャドーダイブ】消費MP24
【デッドリーブレスLv1】消費MP24
【コンフュージョン】消費MP16
【エナジードレイン】消費MP16
【死霊王召喚】消費MP20
【ケルベロス召喚】消費MP60
【シャドーロック】消費MP40
【ヒュドラブレスLv1】消費MP52
【プラントクリンチLv1】消費MP12
【ダークエンチャント】消費MP30
【ダークサンダーLv1】消費MP64
【ファフニール召喚】消費MP300、1000万G消費
【ダークストーム】消費MP250
【アクアプレッシャーLv1】消費MP32
「なんで後衛職で前衛並みのHPと防御力あるねん。防御力上げるスキルも魔法も無いからワイみたいなタンク職はできんけど、そう簡単には落ちんぞ」
「次のイベントでウチのリヴァイアサンと一緒にファフニール出して、レイド戦再びとかやりたいわ」
「復刻イベントかいな」
「相手からしたら溜まったものじゃないわ」
「ケイお姉ちゃんとアイリお姉ちゃんが味方でよかったです」
ミミの言葉に当事者以外はうんうんと頷く。今度のPVPイベントに向けて他のメンバーが港でレベル上げを兼ねたクエストをしている間、レベルが上がりすぎたアイリはマーサのところに行ってから、一足先にと王都へと向かうのであった。
「ここが王都……ロマニアも大きかったけど、ここはもっと広い!!」
街の入り口にあるMAPを見るだけで分かる数多くの施設とその広さ。はじまりの街とロマニアを足したとしても、見劣りはしないであろう人の多さと活気。まるで田舎から来た小娘のように辺りをキョロキョロしながら、街を探索していく。
「あそこが太陽王のいるキャメロット城……修学旅行とかで行った大阪城や姫路城よりも大きそう」
城下町を見守る白亜の城。ギルドでテレポーターの登録を済ませたアイリはさっそく、城へと向かっていく。城門には180cmはありそうな背の高い騎士が城門前を固めていた。
「あの、すいません」
「なんだい、お嬢ちゃん?」
「城の中に入ることってできるんですか?」
「見たところ冒険者のようだけど、招待された者以外は立ち入り禁止。さっき、プレイヤーだから入らせろって近づいた者がいたから牢屋に入れたところだ。まったく、最近の若者は何を考えているか分からないよ」
「ははは、そんな人いるんだ」
「昨日は忍び込もうとした人もいたね。こういう連中がいるから、ログレスに通行許可が必要になるんだ。君がそういうことをしないことを祈るよ」
「しませんよ、そんなの!」
「悪い、悪い。どうやら王都に来たばかりの君に一つ有益な情報を与えよう。このあたりに出てくるモンスターはすばやくてパワフルだ。そういうやつらには状態異常が有効だ。道具店にある催涙玉や睡眠玉を投げつけると、勝手に飛び込んで動きを一時的に封じこむことができるぞ」
「なるほど……魔法でも同じようなことができるなら問題ないってことですよね」
「まあ、そうなるな。俺は騎士だからそのあたりは詳しくはない。魔法のことなら図書館にいくと良い。ここは国内最大級の蔵書を誇る。もしかすると、お嬢ちゃんの知らない魔法を覚えることができるかもしれないよ」
「図書館に行くのもありだし、でも、周りのモンスターがどんなのか知りたいし……迷うなあ」
迷いながらも、このあたりのモンスターと戦闘しようと思い、城下町近くの荒野に出る。すると、ドドドと何かが駆け寄ってくる音が聞こえてくる。その主は小柄な恐竜型のモンスター、ロードランナーであった。
「まずはポイズンミスト!」
一気に広がる毒の霧を何食わぬ顔で猛スピードで突っ込み、すぐさま霧を抜けてきてアイリに体当たりする。吹き飛んだアイリを見て、ロードランナーは方向転換をし、もう一度アタックを敢行しようとする。
「HP削れたなぁ。邪龍の杖が無かったら死んでいたかも。よーし、こうなったら、新しい魔法を使うよ!ハイグラビティ!」
自分が見えている一角に高重力場を形成する。そこに飛び込んだロードランナーは重力の影響を受け、動きが鈍っていく。そこに向かってくるのは重力の影響を受けない呪いの弾。次々にカースを被弾したロードランナーは小さなうめき声をあげて、その命が尽きた。
「動きを封じるだけでダメージは与えられないけど、その分消費MPが低いし、物理的な現象じゃないカースとの組み合わせは良好と。あとはスキル【遠視】」
遠くにいるロードランナーに向けてグラビティプレスを放ち動きを封じ込める。そして背後から出てくるアイリの影分身がポイズンショットやダークサンダーを放ってとどめを刺していく。
「遠視を使えば射程が延びるんだね。それにシャドーミラージュはあくまでも影だから、重力の影響を受けない。重力の影響を受けにくい電気技も同じだね。毒攻撃は媒介する液体や気体が重力の影響を受けるから使いづらい。うんうん、色々とわかってきたかも」
得られた魔法の組み合わせを色々と試していると、一通のメッセージが届く。それはエースからの協力依頼であった。