第41話 邪龍、再戦
前は影分身が作れない特殊フィールドであったが、今回の亜空間はファフニールが弱っているせいか星々が煌めく星空が広がっており、足元に影もできている。シャドーミラージュで分身を作ったアイリは機動性のあるケルベロスの上に乗ってファフニールに向かっていく。
「スキル【固定砲台】。ダークエンチャントかけてからのダークサンダー!」
辺りが夜判定であるがゆえに最大火力を出せる組み合わせの魔法だ。だが、ファフニールとのレベル差が違いすぎるため、たった1しか与えられない。こうなれば通常火力を出すことはすっぱりと諦めがつく。ポーションを飲んでMPを回復したところに、尻尾で背後にいたアイリの分身を倒したファフニールの毒のブレスを吐こうとして来る。
『どうする?』
「前はほとんどノーダメージだったけど、今回はレベル差がある。喰らったらだめだろうから、こっちも攻撃するよ!ダークサンダー!」
『我の炎を喰らえ!』
「ダークブレス!」
黒い雷と炎が毒のブレスとぶつかり合い霧散する。そして、毒のブレスが晴れた先からアイリたちが飛び出してくる。
「ヒュドラブレス!」
「そうやすやすと毒になるものか!」
2頭のヒュドラの毒の息を喰らいながらも、前進してくるファフニール。その鋭い爪の切っ先が触れようとしたとき、アイリたちは影に潜ってファフニールの背後を取る。
「もう一度、ヒュドラブレス!」
再度、ヒュドラを召喚してファフニールに毒状態にしようとするアイリ。だが、中々ファフニールに毒の状態異常はつかない。
『このままだとじり貧だぞ』
「わかってる。でも、これくらいしか勝ち筋が……」
アイリの作戦はいたってシンプル。もはや通常攻撃が役に立たないのであれば、毒によるスリップダメージを狙うしかない。相手が【毒無効】のスキルを持っていたとしても、こちらには確率とはいえ、それを貫通できる毒がある。
つまり、毒にして、ひたすら逃げ回ってスリップダメージで倒す。それが今のアイリのとれる唯一の勝ち筋であった。そして、走り回りながらファフニールに向けてヒュドラブレスを放っているとき、ファフニールの片目に傷跡がついていることに気づく。
「そうか、まだ太陽王さんからの傷が癒えてないんだ。だったら!」
『あそこを狙えっていうんだろう!』
「よくわかるね!」
『我を誰だと思っている』
「やすやすと近づけると思ったか!ダークストーム!!」
黒い暴風がアイリたちを襲い、吹き飛ばされてしまうと同時にケルベロスの姿が消える。しかも、ポーションで回復しながらMPを維持していたにも関わらず、強制的に0となる。
「まだポーションはあるよ!」
「だが、隙だらけだ。ダークウィング!」
黒光りした翼を広げながら、ファフニールがアイリに向かって突進していく。それを間一髪のところをシャドーダイブでかわす。だが、その行動を読んでいるファフニールはその尾をアイリに向けていた。
「その魔法は連続で撃てまい。テールアタック!」
「スキル【急成長】!」
ブンと振り回された尻尾を植物のしなりを利用して棒高跳びのように跳躍し、頭上高くまで飛翔する。尻尾を振り回したわずかな隙を見逃さず、影分身を作ったアイリは再度ヒュドラブレスを放っていく。
「ぐっ、こうも何度も……」
「ケルベロス、着地お願い!」
『おう!』
召喚されたケルベロスが地に着くと同時に、猛ダッシュで3体のヒュドラに絡まれているファフニールに近づいていく。その先には矢が刺さった目がある。そこに向かって、ヒュドラブレスを放っていく。すると、傷口から毒が入ったという判定なのか、それともただの偶然か、ファフニールに毒の状態異常が付く。
「1度ならず2度もだと!?」
「あとは走り回るだけだよ、ケルベロス!」
『空中ならともかく、地上なら負けん』
徐々にHPが削られていく中、ファフニールは黒いオーラを放ち、その攻撃を強めていった。毒を重ねようとヒュドラブレスを放っても、オーラに阻まれてしまう始末だ。
「あれはダークオーラ!? 私の知っているのは移動できないデメリットがあったけど、ファフニールさんのは移動できるんだ」
デメリットが消えたことで、弱点の無い無敵オーラを纏いながら猛攻を避け続けるケルベロスたち。危ういところはシャドーダイブでかわすも、ポーションで回復できるような隙が減っており、ファフニールのHPを削り切る前に、MP切れになりそうだ。
「あともう一手……あと少しで届く」
じわじわと迫ってくる敗北の二文字。こんなギリギリの状況だというのに焦りや不安に駆られることは無い。むしろ、どうやってこの状況を切り抜けようかと楽しんでいるほどだ。
「ファフニール……神話だと黄金の呪いに魅了されて財宝を奪ったドラゴン。それなら、ケルベロス!財宝に向かって走って!!」
ケルベロスがファフニールの攻撃を避けるも、攻撃の余波でダメージを受けてしまい消失してしまう。投げ出されたアイリはとっさにスキルを使う。
「【急成長】からのプラントクリンチ!」
植物たちに自分の身体を引っ張ってもらい、軟着陸に成功する。そして、目の前にはファフニールがいる。
「何かしようとしたらしいが、無意味だとわかったか?」
「ううん。私の終着点はここだよ。ファフニールさん、今、私を攻撃すれば後ろの財宝吹き飛ぶけど大丈夫?」
「き、きさま!?」
アイリの後ろにはファフニールを魅了する黄金の数々。本来ならば、アイリにもかかるはずだが、すでにオカシラから巻き上げた十分な所持金がある彼女には効き目がほとんどなかった。そのため、目が眩むほどの黄金を人質にするという策を平然とやってのけた。
「ファフニールさんには2つの道があります。ここでおとなしくやられるか、自分のアイデンティティーとなる黄金を無くすか!答えは2つに1つです」
ファフニールが手加減し、アイリだけを倒すという選択肢もある。だが、その選択肢を選ばせないためにも、まるでその2つしかないように断言したのだ。迫りくる命のタイムリミット、発狂モードゆえに加減が効きづらく冷静さを欠いている状態であることもファフニールに不利に働いていた。
ゲームを支配しているのは圧倒的な力を持つファフニールではない。古来より、神話の世界でも、強大な敵を倒すのは人の勇気と知恵と相場が決まっているのだ。
「ぐっ……我の………………まけだ……」
ファフニールが毒が回りきるのを待ち、HPを0にする。そして、クエストが終わると同時に上限値である45まで一気にレベルアップする。
特殊クエスト【邪龍再臨】をクリアしました
スキルポイント200ポイント付与しました
魔法【ファフニール召喚】(消費MP300、1000万G消費)を覚えました
魔法【死霊召喚】が【死霊王召喚】に進化しました
装備品:邪龍の杖(MP+200、知力+200、召喚獣の攻撃力アップ)を手に入れました
世界初クリアボーナスとして選択スクロール1個、ランダムスキル書・上1個付与しました
スキル【非道】(非道な戦略・戦術の成功率アップ)
スキル【話術】(スキル・技・魔法を使わない場合、交渉の成功率がアップ)
スキル【戦術眼】(相手の弱点を突いたとき、与ダメージアップ)
称号【ドラゴンスレイヤー】(ドラゴン系モンスターに特攻ダメージが入るようになる)
称号【邪龍を統べる者】(闇属性、龍属性の召喚獣のステータスアップ)
特殊クエスト【魔王の真意】が解放されました
(今後のアップデートで実装予定です)
「他にも合成素材もらえたけどまずは杖を早速装備!これで火力不足補えた!!」
「気が済んだのであれば、帰れ!」
「これからは力を貸してくれるんですよね」
「金を払うのであればな。さっさと帰れ」
ファフニールに追い出されるかのようにアイリは亜空間から元の世界へと戻っていく。
「その様子だと悩みはすべて解決したようじゃな」
「はい!マーサさん、大好きです!」
マーサが乙女のように少し顔を赤く染ながら、「馬鹿言っているんじゃないよ」と照れ隠しつつ、別の部屋へと閉じこもるのであった。