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第40話 迷う心

【サンダーバード】のクランホームにてライチョウたちを含む多くのプレイヤーが一堂に集まって、作戦会議を開いていた。


「バカンスイベントに出られなかった人の救済措置として港エリアが解放された。いくつかのクエストをこなすことで、バカンス島にいけるようになり、スキルポイントを半分程度ではあるが回収できるようになっていた」


「問題は【桜花】が出したシークレットクエストだよ。条件はわかったのかい?」


「テイマーに協力してもらい、条件を模索してもらった。イーグル、報告を頼む」


「了解っす。いくつか条件はあるんで配布した資料を見てほしいっす」


 ①テイマーがイルカをテイムする。

 逃げ足が速く、タンクの挑発などで足止めする必要がある。

 捕獲率が1/256(要検証)と極端に低いため、運にステータスを振っても根気が必要。


 ②イルカを連れて、海底を散歩する。

 1%程度の低確率で海底遺跡を発見でき、レイド戦へ


 ③レイド戦は2段階に分かれ、2~3割けずると2段階目に移行

 2段階目に入る際にイルカ持ちテイマー以外全滅する(強制イベント)

 酸素ゲージが0になったことによる窒息死なので、食いしばり系のスキルは発動しない

【桜花】が起こした際はHP半分で勝利条件を満たせる


「俺たちもこの2段階目までは引き出せるんだが、残り2~3割をテイマーだけで削ることができん」


「そもそもイルカもちテイマーを増やさないとタイマン勝負になって敗北確定っすよ」


「でも、ライチョウさんの話を聞くと、それをやった人が居るんですよね」


「そうなんだよなあ……攻略方法があるんだろうが、浜辺にいた俺たちには皆目見当がつかん。テイマーからの意見を述べてほしい」


「参加した俺っちからすると、イルカに乗れる水中なら攻撃は楽にかわせる。空中戦はテイムモンスターとテイマーの腕次第。だけど、イルカだと攻撃しようとしたら、どうしても立ち止まる隙を狙われてお陀仏。イルカ以外の水中用モンスターをテイムしても、並のモンスターでは攻撃する前にやられる」


「同じモンスター2匹テイムできるのであれば、楽にできるのだが……」


「あー、乱獲とかそういうのを防ぐために1人1種類制限。それに今のレベルだと同時に出せるモンスターは2体が上限。つまり、タイマンなんてのはプレイヤーがチートでも使ってないと無理」


「BANされていないということはチーターではないはずだ。いったい、あそこのクランはいったいぜんたいどうなっているんだ?」


「ライチョウさんでも分からないとなると、他のクランのテイマーと一緒にレイドを挑んだほうが良いってことですよね」


「うむ。レイドの参加報酬は受け取ったが、攻略報酬はまだもらえる。【桜花】以外のクランであれば、順繰りにメインを受け持つことを前提にすればこのレイドに参加してくれるかもしれん」


「テイマーが多いところとなると【にゃんにゃんクラブ】っすか?」


「どうだろうねえ。アタイのフレがそこにいるから、話を聞くことはあるけど攻略メインのクランじゃないからちっと協力は難しいかもしれないよ」


「だが、ホーク。話だけはしてくれないか」


「話だけならいいよ。あそこのクランリーダーも全く知らないってわけじゃないし」


 その後、リヴァイアサンの進化条件となるアクアドラゴンの入手条件がレイド中に戦闘を放り出して海底遺跡に行くことだとは【サンダーバード】を含め他のクランが知る由もなく、再び頭を悩ませることになるとはこの時の彼らには分からなかった。



 9月、残暑が厳しいこの頃。2学期も始まり、学校の行事や学業も忙しくなっていく合間をみて、アイリはゲームの中にログインする。ロマニアの復興も【サンダーバード】が広めた攻略情報により、一気に加速していき、長かった復興イベントがようやく終わりを告げる。

 それに伴い、来月に行われるクランに所属していることが条件のPVPイベントの発表、レベルキャップの引き上げ、王都に行けるようにもなった。


「スキル書は一定時間移動できない代わりに火力の上がる【固定砲台】を手に入れたけど、選択スクロールは悩むなあ。デッドリーウェーブを取るべきなんだろうけど、海が無いと使えないんだよね。港のクエストなら役に立ちそうだけど……う~ん」


 無難にアクアプレッシャーをとるという選択肢もあったが、他のプレイヤーが上位職に転職したことや最初期と違ってスキルポイントに余裕が出始めたプレイヤーもいる中、アイリの知力は周りと比べると見劣りする。そのため、純粋な火力よりも条件次第で即死級ダメージを与える魔法を取らざるを得なくなってきた。

 そして、先のレイド戦では役に立たなかったこともこのスキルポイントを魔法・スキルにつぎ込むスタイルに揺らぎを感じさせる要因となっていた。


「今ある214ポイントを知力につぎ込むか否か……迷うなあ」


 今ある魔法やスキルでも十分に戦いについていける。純粋なステータス強化をするだけで、トップクラスのプレイヤーにも渡り合える可能性が高い。だが、それは低ステータスでも金と戦い方で戦えるという初期の信念を曲げることになる。どうするか悩んだ挙句、ステータス画面を消し、アイリはマーサの家へ進むのであった。


「マーサさん、相談したいことがあるんですけど!」


「何じゃ、急に。力不足になることはそうそうないはずじゃが?」


「実は……」


 この前のレイドから感じていたものをマーサに吐露する。仮にクランメンバーに相談しても、おそらくはアイリの意見を否定せずに彼女自身の意思にゆだねるような返答をするだろう。だからこそ、自分の意見を否定するかもしれないマーサに相談したのだ。


「ステータスが低くても戦い方はある。召喚士の類であれば、自身のステータスはそこまで影響はしない。黒魔導士であってもサポート役に回るのであれば火力不足を感じる必要もないはずじゃ。それが嫌なら自身の力を伸ばす以外方法はない」


「ということはやっぱり、ステータスに振ったほうが……」


「だが、悩んでおる。ということはそれが本心ではないということに気づいておる。自分がやりたいこと。それを貫き通すのじゃ」


「私のやりたいこと……」


 アイリは自問する。このゲームでやりたいこととは何だったのだろうかと。そして、ゆっくりとした少しばかりの時間が経ち、アイリは目を開ける。


「私のやりたいこと……それは勝ちたいっていう気持ちはあるけど、それも含めてみんなと楽しみたい!そうだよ、私のやりたいように遊んで、勝っても負けても楽しめたらいいんだ!!」


 第1回イベントのArthur戦以来、勝ち続けていたアイリだからこそ、ハマりかけていた『楽しむ心』の喪失。それを気づかせてくれたリヴァイアサン戦とマーサには感謝しかない。


「ふぇふぇふぇ、元気が出たようじゃな。だが、迷うことは決して悪ではない。むしろ、迷わない者ほどたちが悪い。儂にも覚えがある」


「マーサさんにも?」


「昔の話じゃよ。さてと、今のお主なら黒魔導士、最上級クエストを受ける資格があるかもしれん」


 特殊クエスト【邪龍再臨】を受けますか?

 貴方のレベルは推奨とされるレベルの半分も満たしていません。

 このクエストに挑戦するにはスキルポイント200ポイント必要です

 失敗しても、スキルポイントは返還されませんのでご注意ください


 →はい

 いいえ


 スキルポイントは返還されませんが、本当によろしいですか?

 →はい

 いいえ


(赤字で警告文がいっぱい……!?)


 これまで受けてきたクエストとは大きく違うメッセージに戸惑うアイリ。だが、それらを無視してクエストを受諾する。負けてもまたポイントを稼ぎなおせばいいだけだ。


「『原典』を持つのは何年ぶりかのう?」


 マーサが引き出しの中から取り出した黒い本。その外装は以前、リッチが手にしていたのと同じものであった。


「それって……」


「これは禁書のオリジナル。おぬしは考えたことなかったか。こんな辺鄙な田舎に写しとはいえ、なぜ禁書が置かれているのかを」


「そ、それは……」


 ゲームだからと完全に失念していた。ゲーム内であれば、はじまりの街に重要なアイテムが隠されていてもおかしくはない。ユーリからも、終盤に最初の街に戻る展開とかよくあると聞いていたこともあって、見落としていた。


「参考となる原典があるからこそ、写本は生まれるのじゃよ」


「……マーサさんがここにいる理由って」


「原典を持っている以上、人里離れた場所で暮らすしかないというわけじゃ」


(て、てっきり魔法都市から追放された人だと思っていましたーー!)


 自分以外の黒魔導士がマーサだけなので、深読みして勝手に結びつけてしまっていたことに反省しながらマーサから禁書の原典を受け取る。そして、今度はマーサの手によってアイリは再びファフニールのいる亜空間へと飛ばされる。


「今度は原典を持ってきたか。傷はまだ癒えていないがまあいい。貴様らから受けた屈辱、この場で返させてもらう」


「真・ファフニール……レベル100!!」


 レイド時のおよそ3倍、そして、シークレットクエストを入れたとしても最高数値のレベルをたたき出すファフニールを目のあたりにするアイリ。少し前までのアイリなら折れていたかもしれない重圧に耐え、以前と同じくケルベロスを召喚する。


「行くよ、ファフニールさん!」

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