第39話 vsリヴァイアサン
リヴァイアサンの雄姿は当然ながら【桜花】のメンバーにも見えていた。そして、先ほどのメッセージからもケイが何かしらの条件を満たしたことは明確だ。
「解放条件はテイマーがタンクか誰かと一緒にイルカを捕まえて海底に行くあたりかな」
「レベルは前のお婆さんと同じ99。シークレットのレイドはレベルが固定なのかしら」
「考えるのは後。こっちを見ているよ」
「アクアプレッシャー!」
「みんな、海に飛び込んで!!」
ユーリの号令と共に、リヴァイアサンのブレスで乗ってきた船が粉みじんとなり、海の藻屑と消える。それと入れ替わるようにケイが浮上してくる。
「ケイ、何があったの!?」
「ようわからん古代遺跡で綺麗な宝石に触ったら、ウチの力を見せてもらうとかでレイド戦になったわ」
「ケイの実力を見てもらえればいいんだね」
「といっても、周りに敵がいないようだから、私たちも攻撃に参加してもいいわよね」
「もちろん。スキル【水上走り】」
分身と共にユーリが海面から飛び出ると、水面に足をつけて陸地を走るかのようにリヴァイアサンに近づき、殴りつける。
「やっぱり通常攻撃だとダメージが与えられない!せめて刃物があれば技とかスキルが使えるのに」
「刃物があればいいのね」
「いくらLIZさんでも、工房無しで……」
「こういうときに上級鍛冶師の見せどころよ。アイテム欄にある素材を選択、簡易作成!なまくらの短剣!」
LIZが何もないところから、短剣を作り出しユーリに投げ渡す。武器の補正値は0。本来ならば全く役に立たない装備ではあるが、この場に限り、短剣を装備したことでスラッシュ系の技や連撃などのスキルが使用可能になる。
「これまでの鬱憤を晴らさせてもらうわよ。スキル【連撃】!ツインスラッシュで8連撃よ!!」
リヴァイアサンを滅多切りにしていくユーリだが、HPゲージが減っている様子は見当たらない。
「攻撃をもう少し伸ばしておくべきだったかな」
「おい、ユーリ。これはどういうことだ!」
「ライチョウさん、良いところに!私の分身を足場にリヴァイアサンを殴りつけてください」
「まったく。後で事情を話せよな!スキル【跳躍】」
一時的にジャンプ力を向上させるスキルを使って、ユーリの分身を踏み台にしながらリヴァイアサンに一発殴りつける。攻撃力極振りというオンリーワンから繰り出されるパンチはリヴァイアサンのHPゲージを目に見える程度に減少させていた。
「この調子だと1000発は殴らないといけないんじゃないか」
「ライチョウさんは筋肉馬鹿なんですから、1万発くらいは殴れるっすよ」
「ガハハハ、違いねえ!よし、イーグル、俺の援護を頼むぜ」
「わかっているっす。アイスキューブ!」
海上に氷の塊を浮かべ、ライチョウが乗る足場を作り始める。毎度、アタッカーであるユーリの分身を足場にするわけにはいかないからだ。
「ここは空飛べるモンスターの出番や。カモン、ちびドラ!カモン、ビッグホーンオオカブト!」
巨大カブトムシとちびドラが空を飛んで、リヴァイアサンの攻撃が届きにくい頭上から攻撃を仕掛けていく。他の一般プレイヤーも船に乗ってぞろぞろと集まりだし、攻撃を仕掛けていく。1人1人の火力は低くても、数の利はこちらにある。
リヴァイアサンの執拗なブレスによって足場となる船が破壊されていくも、イーグルが氷の足場を次から次へと作っているおかげで、その影響を最小限に抑えていた。じわじわと減っているリヴァイアサンのHPゲージを見て、意外と余裕だと思うプレイヤーもいるほどだ。
「この程度の戦力で私に勝てると思ったか!デッドリーウェーブ!!」
「デッドリー系の魔法!? みんな逃げて!」
デッドリーブレスを使用しているアイリが周りにいるプレイヤーに避難を促す。条件を満たせば、即死級のダメージを与えることができるデッドリー系列の魔法は避けるしか方法はない。だが、ここは遮蔽物の無い海上。リヴァイアサンが引き起こした黒い津波を避ける場所など一つもなく、多くのプレイヤーは飲み込まれ、酸素ゲージを一気に0にさせられてしまうのであった。
浜辺に打ち上げられたアイリたちには、リタイア組と分かるように髑髏マークの状態異常がついていた。これがある限り、リヴァイアサンとは戦えないそうだ。そして、この島にいる有力なプレイヤーたちは既にリタイア済み、残るは生産職だったり初心者だったりして、戦闘に加わっていなかった者たちだけだ。
「これは無理だな。さすがはシークレットってところか」
「あの津波を避けようと思ったら空でも飛ばないと……あれ、ケイは??」
「そういえば、いないわね」
「まさか、まだ戦っているとか?」
「マジっすか!?」
アイリたちは遠くの海で戦っているかもしれないケイの身を案じるしかすることは無かった。
「あぶな!途中で海豚太郎に切り替えてなかったら、おぼれ死ぬところだったわ」
イルカの特殊能力もあり、ギリギリのところで酸欠を防いだケイは水上に出て一息入れる。そこには残り一人のプレイヤーとなった自分とリヴァイアサンのサシの勝負が待っていた。リヴァイアサンのHPゲージは先ほどのプレイヤーたちの総攻撃で多少なりとも削れているが、それでも8割近く残っている。
(支援魔法をぶん回してもウチだけで削り切るのは無理や。確か前にたっちゃんがシークレットやった時はLIZはんが成仏させたって言うていたけど、今回も別の勝利条件があるんやろうか)
その条件はまるで見当もつかない。だが、可能性があるとしたら、そのヒントはあの海底遺跡しかない。
「海豚太郎!気合い入れて潜るで!」
「ピューイ!」
海に浮かんでいる誰かの空気ボンベを借りて、イルカに乗って再び潜っていく。水中にいるケイを倒そうとリヴァイアサンも潜航し、口からレーザーのような音波を放っていく。
「ウチらがどれだけ捕まえるの苦労したと思っているねん。海豚太郎、気合い入れや!」
「キューイ」
ケイを乗せたイルカがすいすいとかわし、海底に転がっている岩が壊されていく。当たれば間違いなく即死。イルカを信じながら、ケイは海底洞窟の中へと入っていく。そして、海底遺跡にたどり着いたケイはリヴァイアサンを倒すヒントが隠されていないかフォレストウルフ、エースのちびドラと一緒に探し始める。
「あの青い宝玉無くなっとるな。どこへ行ったんやろ」
「ウォーン!」
フォレストウルフが何か見つけ出して吠える。その場所へと向かうと、そこには大きな壁画があった。そこには龍に宝玉らしきものを差し出している神官の女性の絵が描かれている。
「さっきの宝玉がやっぱりキーアイテム……せやけど、どこにあるんや?」
「ウォン、ウォン!」
「なに、鳴いとるんや?」
フォレストウルフが前足でつんつんと指しているのを見ると、最初の地響きで出来た地面の亀裂の中に青い宝玉がすっぽりと奥の方に入っている。手を伸ばして取ろうにも届かない距離だ。
「チェンジ、フォレストウルフ!カモン、スライム!」
「すら~」
スライムが自分の身体を触手のように伸ばしていき、青い宝玉をつかむ。そして、その宝玉をケイが手にしたとき、強い閃光が迸り、外に出していたちびドラが光り輝くと同時にメッセージウィンドウが表示される。
「これは……決まっとる!ちび太郎、進化や!」
ちびドラのもとに宝玉が吸い込まれていくと、身体が巨大化し、体格もごつくなっていく。光がおさまるとそこにいたのは1匹の青い立派なドラゴンがいた。
「いくで、ちび太郎!リヴァイアサンにリベンジや!!」
海底洞窟前でリヴァイアサンが待ち構えていると、イルカに乗ったケイが現れる。その目には強い闘志が燃えており、逃げようとしているわけではないとリヴァイアサンが感じ取れるほどだ。
「カモン、アクアドラゴン!」
ケイがアクアドラゴンを呼び出し、リヴァイアサンと同じく音波のブレスを放っていく。膨大なHPがあるリヴァイアサンはあえてその攻撃を受けることで、抵抗しても無意味だと悟らせようとする。
「宝玉の力を使ってもその程度ですか!」
「まだ上があるんやったら、今から使いこなすだけや!なにもモンスターを召喚して棒立ちするのがテイマーやない。モンスターと一緒に戦うのがテイマーや。いくで、ちび太郎!パワーアップ!」
ケイから支援魔法を受け、攻撃力を上昇させたアクアドラゴンが体当たりをかまし、リヴァイアサンをひるませる。その隙にとイルカが仲間を集めだして、イルカの群れがリヴァイアサンに襲い掛かる。
「この程度の攻撃でやられるとでも!」
「まだいくで!スキル【支援強化】!消費MPが増える代わりに効果が倍増や!使うのは巨大化!」
リヴァイアサンと遜色ないほどに巨大化したアクアドラゴンとイルカの大群がリヴァイアサンに向けて突撃していく。巨大化したことで、さっきとは比べ物にならないほどの破壊力を産み出している。
ゴリゴリと削れていくHPにリヴァイアサンは危険性を感じたのかイルカの攻撃が届かない空へと上がっていく。それを追って、アクアドラゴンに乗り換えたケイはその後を追いかける。
「私がここまで追いつめられるとは……」
「スキル【真っ向勝負】!正面から攻撃したとき、攻撃力上昇!そして、まだ支援強化の効果は続いているんや!パワーアップ!スピードアップ!」
「馬鹿正直に攻撃を受けると思ったか。アクアプレッシャー!」
「回避無しで突っ込む!カモン、ビッグホーンオオカブト!ガードアップ、踏ん張る発動や!」
アクアドラゴンの前で巨大カブトムシが身を挺しながら、リヴァイアサンの水のプレスを耐えていく。リヴァイアサンの攻撃が終わると同時にカブトムシは墜落していく。だが、その後ろにいたケイたちはいまだに健在!
「なにっ!?」
「これが最後の支援魔法、ラストアタック!」
これが最大の好機と見たケイは1日1回しか使えず、攻撃終了後にHPとMPが強制的に1になる代わりに、攻撃力を大幅に上昇させる魔法をアクアドラゴンにかける。テイマーの支援魔法をたっぷりとかけられたアクアドラゴンの体当たりはリヴァイアサンを海上に叩き落すには十分であった。
「これだけのバフかけてもまだHPゲージまだ残っとる。ポーション飲んで回復するにしても、ラストアタックのデメリットで30秒間は回復できん。奥の手は使い果たしたし、これタイマンはきついんちゃうか」
イルカを呼び出して海中にいるリヴァイアサンに向けて攻撃を仕掛けようとしたとき、リヴァイアサンがヌッと顔を出す。
「貴女のことを見くびっていたようです。まさか私のHPを半分削るとは思いませんでした」
「ウチの仲間が頑張ってくれたおかげや」
「ええ、これならば、私の力を一部渡してもよいでしょう」
シークレットクエスト【海竜神の試練】をクリアしました
攻略メインクラン【桜花】に所属しているメンバー全員にスキルポイント50ポイント付与。
本レイドに参加したクラン並びにパーティー全員にスキルポイント20ポイント付与。
世界初シークレットクエスト【海竜神の試練】クリアボーナス
クラン【桜花】に所属しているメンバーに選択スクロール付与
本レイドに参加したクラン並びにパーティー全員にランダムスキル書を付与
ケイはスキル:【海竜神の加護】を手に入れました
一定時間、水竜を海竜神に進化させることができます
称号:【海の支配者】(海で戦闘するとき、全ステータス小アップ)を手に入れました
「色々ともらえたわ。ありがとうな、リヴァイアサン」
「言っておきますが、貴女は試練を乗り越えただけです。その力を使い、世界をゆがませるのであれば、次は本気で戦うことになるでしょう」
「本気のリヴァイアサンと戦うのは堪忍やで」
リヴァイアサンは海中へと潜っていき、去っていく。そして、波乱万丈となったバカンスイベントはこれ以上の騒ぎが起こることもなく、無事に終わるのであった。