第35話 呪われた黄金
今日は休日ということもあり、【桜花】のメンバーが全員クランホームに集まっている。そして、その手には入山許可証が握りしめられていた。
「ごめんね、みんな。私の休日に合わせてくれて」
「別にいいってLIZさん。無事に許可証も貰えたし、私たちも装備品を作ってもらっているんだもの」
「それに、LIZはんも平日にクエストいくつかこなしてくれているおかげですんなりと終わったし」
「ミミちゃんがいつもいてくれたから助かったわ」
「わたし、なんたって聖女ですから」
ミミは小さい身体で堂々と大きく胸を張る。そんな彼女にリュウは前から思っていたことを尋ねる。
「せや、聖女ってどうなったらなるんや? とりあえず女性限定職なのは分かるとして、そのほかの条件が分からん」
「そういえば、攻略掲示板にもまだ聖女の情報は出てない」
「う~ん、わたしが聖女になった時は光魔法を覚えようと教会に行ったときに女神さまが現れて……」
長き間、人を愛しんだ者よ、
数多くの魂を救済した者よ、
罪のみを憎み、殺生を避けた者よ、
其方に我が力の一端を授けよう
「と言われて、聖女になりました」
「話からするにログイン時間かヒール回数が一定以上、魂の救済が幽霊系のエネミーの討伐数一定以上、総撃破数一定以下で聖女になるってところかな」
「特に最後の条件がきついわ。ヒーラーとして徹していたら、撃破数は抑えられるかもしれないけど、レイド戦を2回もしていたら撃破数は跳ね上がるで」
「しかも最初のレイドは金欠だったところにきたものだから、金目当てで倒していた人が多い。しかも僧侶が得意とする光魔法に弱いアンデッドが敵。多分、今の僧侶系統の人は条件を満たしていない人が多いんじゃないのかな」
「わたし、途中からはみなさんに幽霊さんとられていたので、最初の方しか……」
「それでミミちゃんは条件を満たせるようになったんやな。そんでもって周りのライバルはそのときのレイドで撃破条件を満たせなくなったってわけや」
「でも、そのうち初心者がキャリーされて撃破数少ない状態でレベリングされてそのうち条件バレるんじゃないの?」
「その場合は時間制約とゴースト系エネミーの撃破数で引っかかる。しかも、ゴースト系エネミーは夜にしか出ないから、下手すれば遭わないプレイヤーもおるはず。そう簡単にはとらせないっていう運営の思惑通りってわけや」
「えっぐ……」
想像以上に条件を満たすのが面倒な聖女への転職にドン引きしているユーリ。
そして、【桜花】のメンバーは今後の方針を決めようと、現在のロマニアの復興状況を確認する。
「やっぱりというか、鉱石系のアイテムの集まりが悪い」
「鉄鉱石でもポイントはいるから、はじまりの鉱山でも集まるけど、石ころとかも多いのが難点や」
「他は順調だけに目立つわね」
「ということで、私たちは金山にいって鉱石発掘したいと思います」
「ウチは賛成やで」
「わたしもです!太陽王からの宿題は早く終わらせましょう」
「ユーリちゃんも夏休みの宿題、忘れたら駄目だよ」
「ま、まだ時間あるし……」
「せや、今くらい遊んでもええやんけ」
(この二人……)
(絶対、私たちに泣きついてくるで……)
よく似た友達をもつもの同士としてシンパシーを感じたアイリとケイは深くため息をついた。
ゴルドラン金山に着いた【桜花】のメンバーは金山の中へと入っていく。すると、まだ入り口から入って間もない発掘場所というのに、すでに発掘作業をしているプレイヤーがいた。
「こんな上層部だと石ころくらいしか出ないんちゃうんか?」
「少し掘ってみるわ、えい!」
LIZがつるはしを振るって、発掘をしてみるとさすがに金・銀は出ないが、鉄鉱石やレアドロップとしてゴルドラン鉱石が出るようだ。
「こんな浅いところでも、はじまりの鉱山の最下層以上の効率で鉱石のポイント稼げそう」
「入り口付近やと敵のレベルも外と大差ないしな」
「でも、大金払って奥まで行かないのもおかしくない?」
「相当強いんやろうか?」
「せやったら、行けるところまで行ってみようや!」
「そうね、奥まで行けば金銀掘り放題って可能性もあるわ」
「それじゃあ、いってみよう!」
アイリの号令と共に、下層へと向かっていく【桜花】たち。出てくるのはゴールドゴーレム、ゴールドバット、ゴールドリザード……はじまりの鉱山で出会った色違いモンスターたちが襲い掛かるも、攻略方法は同じだ。
「レベルは少し高いけど、さほど強くないわね」
「この調子なら……って、あれ? いつの間にか呪い状態になっている」
ユーリがステータス画面を見てると、呪いの状態異常がついていた。これまで倒した敵に呪い攻撃を仕掛けてきたものがいないにもかかわらずだ。念のため、他のメンバーも確認するとケイも呪い状態になっていた。
「リフレッシュで解除しますね」
「うん、ミミちゃんお願い」
2人の呪いが解かれ、HPも回復してもらう。だが、突如となった呪いにメンバー全員が頭をかしげる。
「どうして呪いになったのかな?」
「もしかすると、ここのダンジョンに敵と戦闘すると低確率で呪いが付与されるデバフがあるのかもしれへん」
「もしくは最奥にそういったデバフをかけているボスモンスターがいるとか」
「金を独り占めにしたいとかいう動機ならありえそうな展開やな。奥に進むにつれて敵モンスターとの遭遇回数も増えているし、戦闘後は状態異常の確認や」
【桜花】は引き締めて、ダンジョンの奥へと進んでいくと、プレイヤーに紛れてオカシラがつるはしを振るって鉱石を発掘していた。手にした鉱石には金色に光るものが見え隠れしており、このあたりから金がとれることを示している。
「オカシラさん」
「おっ、アイリか。このあたりの階層から金が採れるようになるから、発掘するならこの階層で行ったほうが良いぜ」
「もう少し奥まで行こうかなって思っています」
「奥まで行くのは良いが、最奥には俺でも太刀打ちできないゴルドランの悪魔がいる。戦うつもりなら、万全の準備で向かったほうが良い」
「ゴルドランの悪魔?」
「ああ、ゴールドラッシュで夢を見たは良いが、モンスターにやられた、落盤事故とかで無くなった人間は多い。そういった無念が集まって、悪魔になったって話だ。その討伐に来たのは良いが、一目見て無理だなと思って撤退がてら、発掘していたってわけさ」
「オカシラさんが苦戦していた相手か……気になるわね」
「行ってみようか」
「せやな、うまくいけば選択スクロールを貰える可能性もある。行かない理由は無いで」
「忠告はしたぜ。周りに気をつけろよ」
発掘作業を続けるオカシラをおいて、アイリたちはさらに奥へと進んでいく。そして、さらに下層へと降りていくと、発掘箇所ではない壁面にも金が見え隠れしており、最下層なのではないかと期待が膨らんでいく。そして、何かしらのうめき声らしきものが聞こえ、この階段を降りきったらボス戦が始まることを告げる。
「HP、MPの回復は大丈夫?」
「はい、だいじょうぶです」
「ワイが先に入るで。もし、敵の先制攻撃の一撃で死ぬようなことがあったら、回れ右や。行くで!」
リュウがボス部屋に入るとそこには黄金色に輝くデーモンがいた。それだけなら、アイリの戦ったデーモンの色違いだが、それとは決定的に違うのは身体からこれまで自分たちが戦ってきた雑魚敵がにょきにょきと生えてきて、動いていることだ。
「ボスがレベル32な上に雑魚も30の集団戦……これは師匠一人で戦えるわけないわ。とりあえず挑発使うで」
「ヒールは任せてください」
「大丈夫。多人数戦のエキスパートがいるもの」
「任せて、シャドーミラージュ!」
多数の分身体が敵の背後から現れ、攻撃をしていく。かくして、初見でのゴルドラン鉱山のボスモンスター攻略戦が始まるのであった。