第34話 成金の街
「学生のウチらは夏休みだから、平日もゲームできるけど、LIZはんは仕事やね~」
「せやな。ワイらは昨日行けなかった闘技場に向かうで」
「それなら、私たちはパンデモニウムに行きましょ」
「パンデモニウムにいくなら、人間は敵視されるから注意やで。ウチも嫌な目に遭ったわ」
「うげ。魔法都市のときのアイリみたいな目に合うの……それなら黄金都市に向かう?」
「そうしようか」
「そうします」
3人は黄金都市ゴルドランへと向かうのであった。ゴルドランは、元々はゴルドラン鉱石と呼ばれる建築材、特にその高い強度から城壁に向いている材料が採れる鉱山の街であったが、地下深くに金の鉱脈があることがわかり、一獲千金を夢見るゴールドラッシュが始まった。そして、ゴルドランに住む者たちは、己の運の良さを誇示するかのように建物を金ぴかにしていった。
「ギルドまで金ぴかにする必要あるのかな」
「ないでしょ。趣味悪いし、どこも金ぴかで目に悪いわ!」
「目がチカチカします」
「でもロマニアの復興クエストでゴルドラン鉱石が必要になっているから、何度かはここにも来ないといけないし……」
「できれば、行く回数は減らしたい。こんなにも行きたくない街は初めてよ」
ユーリが文句を言いながらギルド職員のドワーフにテレポーターの受付を行った後、近くの鉱山へと向かう。
「入山料100000G!? ぼったくりも甚だしいわ!」
「これはひどいんです」
「みんなの分を払うことはできるけど、どうする?」
「さすがにアイリにツケをこれ以上ためるのは悪いからそれはダメ。ただでさえ、クランホームの時に借金しているようなものなんだから。この入山料で入っているプレイヤーもいるから、儲かるんだろうけど……」
金山前のゲートを恨ましげに見ながら、去ろうとするとつるはしを持ったオカシラが丁度やってきた。
「どうした、アイリ?」
「オカシラさん!ここの入山料が高くて……」
「なるほどな。だったら、ここのクエストを10個ほどこなすと良い。入山許可証がもらえて、フリーパスとまでは行かねえが、1000Gで入れるようになる」
「1/100……それだったら、1万Gくらいで入れるようにしてよ」
「安く入れるようにしたら、金目当ての変な奴が入ってきてトラブルのもとになるだろう。だから、信頼できる奴じゃないと中に入れないってわけだ。莫大な金が用意できるってことは他者からの信頼もあるってことだしな。俺は一足先に中に入らせてもらうぜ」
「あっ、そうだ。ミューイさんからDランクの昇格おめでとうって」
「アイツが? ありがたく受け取っておくぜ。じゃあな」
オカシラが山の中へと入っていくのを見届けたアイリたちはさっそくクエストを受けにギルドに戻る。掲示板に所狭しと張られているクエストは推奨レベルが25~30。推奨レベルが高いクエストは3人パテでやるには少々厳しそうだ。
「まずはこのレベルの低いクエスト【盗掘団の排除】を受けよう」
「わかった、手続してくるね」
ギルド職員のドワーフに手続きをして、クエストの詳細が聞かされる。高すぎる入山料に業を煮やした人たちが夜な夜な警備の薄いところをついて、盗掘しているらしい。そのアジトを突き止め、一網打尽にしてほしいとのことだ。
「警備証を貸してもらったから入山料は無料だけど、アジトはどこにあるんだろうね」
「そうね。犯行現場を抑えるにしても莫大な敷地を3人で見回るのは無理よね」
「こういうときは私に任せてください。天啓!」
「なんかヒント出た?」
「えっ~と、山と滝がみえました」
「地図で滝があるのは……ここね。おぼろ滝って書いてあるわ」
「何か手がかりがあるかもしれないし、行ってみよう」
地図を見ながら、滝のある場所へと向かっていく。その道中、金ぴかのゴーレム、名前もゴールドゴーレムと何のひねりも無いモンスターと遭遇する。
「もしかして、ここの雑魚モンスターも金ぴか悪趣味なの……」
「モンスターさんだけはまともだと思っていました」
「が、頑張ろう二人とも!」
「三人しかいないし、リュウもいないから開幕は煙幕!」
黒い煙が立ち昇り、ゴールドゴーレムの視界を奪いつくす。周りが見えなくなったことできょろきょろと辺りを見渡しているゴーレムの背後に回り込んだユーリは忍者刀を構える。
「【鷹の目Lv2】で敵の位置も分かるようになったから、私には見えるのよ。硬いゴーレムも【ガードブレイク】込みの背面突きで!」
背面からの奇襲で高確率のクリティカルダメージ。さらに【ガードブレイク】はクリティカル時に中確率で相手の防御力を半減してダメージを与えるというもの。あくまで確率だが、分身で成功確率を飛躍的にアップさせている。
ゴールドゴーレムがたった2撃で倒れ、経験値と巨大昆虫と比べるとずっと多めのお金が手に入る。
「ここの雑魚モンスターは金策に使ってねってことか。う~ん、これずっとクエスト受けて雑魚狩りしている人居そう」
「ああ、だから掲示板のクエストが進んでいないんだね」
「うん。クエストが進まないから、許可証も貰えない。だって、そっちも十分に美味しいから。どうりで攻略掲示板に許可証の話が出ないわけよ」
攻略掲示板にはクエストを途中で止めることを推奨するような書き込みさえ見受けられる。プレイヤー全員がこれを見ているわけではないが、参考にしている人間は多い。誤った攻略法が正規ルートを潰していたとは誰も思うまい。
そして、滝までたどり着き、ミミが見た光景と一致するらしい。問題はここが盗掘とどういう関係にあるのかだ。
「う~ん、盗掘団のアジトがこの付近にあるなら、どこにあるんだろう?」
「ゲームだとこういう時は滝の裏にあるって相場が決まっているでしょ!」
自信満々に滝を指さすユーリ。他に手がかりも無いので、ユーリの後をアイリとミミがついていく。間近で見た滝壺は思ったよりも深く、飲み込まれたら間違いなくおぼれ死ぬと分かるほどだ。滝の裏手を見ると、人が1人入れるほどの狭い通路があり、渡っていくと滝の裏の洞窟にたどり着く。
「ここがアジトなのかな」
「かもしれない。みんな、気を付けていこう」
ヘッドライトをつけて真っ暗な洞窟の中を歩いていくと、奥に金が含まれている鉱石が見つかる。ここが金脈の近くという可能性も無きしもあらずだが、洞窟の壁面をみてもそのような気配は一つもない。それどころか、つるはしやロープといった道具まで置かれている始末だ。
「ここってやっぱり……」
「なんだてめえらは!?」
「警備証を掲げているってことはギルドの連中だ!」
「野郎どもやっちまえ!」
絵にかいたような暴漢たちが、げへへへと薄気味悪く笑いながらこちらに寄ってくる。手にはショートソードや、杖など多種多様な武器を持っている。しかも、ここは狭い洞窟の中ということもあり、ケルベロスを召喚する余裕はない。
「ホーリーバリア!」
盗掘団が放った魔法攻撃をミミが光の壁を張って、防いでいく。まったく壊れる気配のない防御壁に盗掘団は悪戦苦闘しているようだ。
「日が届かない暗い場所だけど、大丈夫?」
「任せて!こういうときのダークサンダー!」
黒い雷が盗掘団を襲い、直撃した盗掘者はぷすぷすと黒焦げになり、一瞬にして壊滅状態に陥る盗掘団。その光景を目の当たりにした盗掘団も、また撃った本人であるアイリでさえ唖然としていた。
「うわ~、これ人に撃ったら駄目な魔法じゃないかな」
「お灸にはなるんじゃない。生きていたらだけど。さてと運よく逃れた盗掘団を倒しましょ」
「がんばります」
アイリのたった一撃で戦意を喪失した彼らに襲い掛かるは疾風の刃。もはや彼らに勝ち目はなく、盗掘団はその場で全員御用となった。
「ふう、クエスト1個終了。こういったクエストを9回はしないといけないってなると結構時間かかるね」
「これだけ依頼があったら、複数のクエストを受けても良いけど……」
「その場合は6人フルメンバーじゃないと探すのが大変そうね。今回はミミちゃんの天啓があったから探す手間が省けたけど、本来はもっと時間がかかるクエストのはずよ」
「わたしにドンと頼ってください」
「もちろん、頼りにしている」
3人はゴルドランの街をゆっくりと探索した後、クランホームへと戻り、リュウたちと情報交換をするのであった。