第31話 新しい仲間と魔法都市
夏休みの宿題をさっさと終えたアイリはアップデート後、初のログインとなる。アプデ直後ははじまりの街スタートとなるので、久しぶりにミューイに会おうとギルドへと向かう。既にアプデから時間が経っているということもあり、中にいるプレイヤーはほとんどいない。
「あら、アイリちゃん。邪龍を倒したんだって?」
「はい、皆のおかげで倒せました」
「その功績を称えて太陽王からギルドランクをEにあげるように言われているから、ギルドカードを出して」
「はーい」
元気よくギルドカードを提示すると顔写真の横のRank FがRnak Eへと変わる。
「これでアイリちゃんは少し難易度の高いクエストを受けることができます」
「Eランクってことはオカシラさんと一緒です」
「そうとは限らないわよ。アイツ、最近になってDランクになったもの」
「オカシラさん、凄い」
「わずか数か月で急成長したアイリちゃんも凄いけどね。アイツを見かけたら、おめでとうって伝えてくれる」
「必ず伝えます」
アイリはギルドカードを更新したアイリは、約束の時間が近くに迫っていることもあり、仲間がいるクランホームへ一度戻る。
クランホームに行くと、いつもの【桜花】のメンバーの他に見慣れない茶髪の女の子が居た。そして、全員がそろったことを確かめて、リュウが隣の女の子を紹介する。
「紹介するで、ワイの幼馴染の――」
「ケイです。前から誘われていたんやけど、ウチが皆さんと同じくらいになるまでレベリングしてもらっていたから来るの遅れました」
「別にそんなこと気にしなくてもいいのに」
「そういうわけにはいかんって。ウチが足を引っ張るのはプライドがゆるせん」
「ケイお姉さんの職業はなんですか?」
「ウチは魔物使いから派生したテイマーや。魔物使いの時はサモナーもテイマーもひとくくりになっているせいで、掲示板だとごちゃ混ぜになっていたけどな。テイマーは仲間にしたモンスターを呼び出して、一緒に戦う職業。と言っても、口で説明するより見せたほうがええな。カモン、ちびドラ!」
「ドラドラ~」
マスコットキャラであるちびドラがアイリの前を飛び回る。ケイがモンスター専用のクッキーを持つと、近寄ってきて小さい口でぱくぱくと食べる。
「かわいいです」
「せやろ。チュートリアルをクリアしたらもらえるモンスターやけど、飛べるし、初期モンスターにしては攻撃力も高め。ウチの頼りになるエースや。他にも……カモン、スライム!」
「スラ~」
「こっちはチュートリアルで手に入れたスライム。ちなみに名前はちび太郎とすら太郎や」
「もう少しまともな名前にしたらと言っているんやけどなあ」
「ええやん、別に。ウチの住んでいるマンションだとペット買えないから、たくさんモンスターをペットにするんや」
「良いわね、そういう遊び方も」
「せやろ。今は2体しか同時に出せないけど、いつかはアイリはんの分身みたいにいっぱい出すんや」
「えっ、私の分身、モンスター扱い? ちょっと複雑かも」
「まあまあ、これで6人そろったし、パーティーフルメンバーで実装された街に行かない?」
「そうだね、色々と行けるところが増えたけど、どこに行く?」
「ワイらのパーティーだと魔法職が3人おるから、先に魔法都市に向かうほうがよさそうやな」
【桜花】一行は魔法都市アレキサンドへと向かっていく。アレキサンドは山々に囲まれたのどかな街であり、自然をこよなく愛するエルフたちが数多く住み着いている。人里離れている場所ゆえに、魔法の研究を人目に付かないように行える絶好の場所でもある。
そんな彼らとエルフは最初はいがみ合ったものの、最終的には分かち合い、共存の道を選ぶ。それゆえ、ハーフエルフも多く、人間でさえ魔力が高くなり、魔法を中心とした街づくりがなされていくのであった。
「う~ん、空気が美味しい」
「現実とはえらい違いや。まずはギルドでテレポーターの登録を済ませてから、適当なクエストに挑戦やな」
「えっ~と、ギルドは……あの木造の建物ね」
街の中でも一際大きい建物の中に入って、ギルドのお姉さんに受付を行っていくとアイリの方を睨みつけるような仕草をした後、受付を終える。
「なんや態度悪いな、あのエルフのお姉ちゃん」
「まだ来たばかりなのに……」
「そんなの気にせずクエストや!これなんてどうや、魔法茸の採取」
「推奨レベル25。私たちなら問題なくクリアできるレベルね」
「じゃあ、受付に行ってくるわ」
受付のエルフのお姉さんからクエストを受けた【桜花】はさっそく、山の中へと入っていく。キノコを探して、地面を注意深く見ていると上からイガが落ちてくる。
「いたっ!? ダメージ判定……ってことはモンスター!」
「木のモンスターってことはトレントかな」
「木には火やな。ちび太郎いくで!プチファイアー!」
小さい龍が火の弾を吐いて、トレントを燃やそうと懸命に放っていく。そうはさせまいと枝葉をうねうねと伸ばしてちび太郎を捕まえようとして来る。
「ウチのちび太郎はすばしっこいからそう簡単には捕まえられへんで。ここでもう一体、追加。カモン、ロックゴーレム!」
現れたロックゴーレムが大きく拳を振りかざしてトレントを殴りつけて、HPを大きく削る。トレントがロックゴーレムを狙おうとするなら、ちび太郎が弱点ダメージを。ちび太郎を狙うなら、ロックゴーレムが自慢のパワーで殴り続ける。両者の攻撃に対応しきれずに、トレントはその生涯を終えた。
「どうや、ウチも結構強いやろ」
「手数で嵌めるやり方ってどっかの誰かさんみたいね」
「ユーリちゃん、それはどういうことかな」
「冗談冗談。これは心強いね。後はこのキノコを探さないと」
「探索型のモンスター出すわ。カモン、フォレストウルフ!」
森に生息している狼がくんくんと嗅ぎまわり、魔法茸を探し始める。するとその鋭い嗅覚で何かを見つけたのか、急に走っていく。フォレストウルフがワンワンと吠えているところを見ると、きらきらと輝いているキノコが見つかる。それを拾い上げると、アイテム欄に魔法茸と表示された。
「この調子で見つけるで」
「そのまえに、さっきの狼の声で雑魚が集まってきよったから戦闘な」
「よーし、みんな一気に行くよ!」
「まずはワイからや。いくで、スキル【挑発】」
リュウが新しく習得したスキルで襲ってきた巨大昆虫のヘイトを稼ぐ。以前の【注目】だけでは、火力の上がったパーティーメンバーが再びヘイトを稼いでしまう恐れがあるため、それよりも効果のあるスキルを手に入れたのだ。
「私も転職して忍者になったからね。こういう魔法も覚えたんだよ、分身!」
ユーリが2人に分裂する。類似の効果を持つシャドーミラージュとは、敏捷の数値によって分身できる数が決まる一方で、影の無いところでも常に同じ数だけ出せるという利点がある。最大数では向こうに軍配が上がっても、時間や場所に依存しない安定性という面ではこちらが上だ。
「スキル【連撃】からのパワースラッシュで滅多切りよ!」
ユーリが分身と共に忍者刀でカブトムシの角やクワガタのはさみを切っていて、相手の攻撃手段を減らしていく。もはや、体当たりしかできない巨大な虫がリュウに襲い掛かろうとしたとき、LIZがバッターボックスに入るかのようにリュウの傍による。カブトムシの速度は速くても時速10km程度、蝶々よりも遅く、その動きは目で簡単に追える。
「みんないいわね。こっちは上級鍛冶師になっても、技はかわり映えしないわよ!ヒートスタンプ!」
熱せられたハンマーを大きく振るい、巨大昆虫を撃ち返して、近くの昆虫ごと巻き込んでいく。
「レア職業の聖女になってもやることは同じです。みなさん余裕ありそうなので、広範囲サポート使います。ホーリーソング」
森の中に聖歌が流れ、【桜花】メンバーのクールタイムが減少し、攻撃力や防御力も上昇する。歌っている間はヒールを含めた他の魔法が使えないので、ヒーラーを担当するミミとしては使いどころが難しい魔法だ。
「みんな、凄いね。よーし、私も負けられないぞ。数が多いならシャドーミラージュ」
アイリも多数の分身を作り出し、巨大昆虫を毒と呪いの沼に沈めていく。アイリたちと同等程度のレベルをもつはずの巨大昆虫はあっという間に蹴散らされていくのであった。
「数が減ったし、とどめを刺すのはちょっと待ってや。モンスターテイム!」
ケイから巨大な手が出て巨大なカブトムシを包み込むと、テイム成功のメッセージが出る。テイムに成功したらモンスターに名前を付けることができるので、ケイは迷わずかぶ太郎と名付けた。
「新しい仲間を増えたことやし、この調子でキノコ狩りや!」
元気よく魔法茸を集めた【桜花】は無事にクエストをやり遂げるのであった。