第28話 レイド開始!
レイド戦に参加しようとロマニアに集まったプレイヤーたちにイベントストーリーが開始される。
それによれば、禁書の原典の切れ端を入手した悪い魔法使いがロマニア近くの隠れ家で、それを触媒に魔法を行使。その結果、アンデッドモンスターがあふれ、統率が取れていないことから実行犯は巻き込まれて死亡したものだと推測される。
ギルド職員だけでは対処できないということもあり、プレイヤー全員に緊急招集。事態を収拾するため、太陽王も駆け付けているが、ロマニアへの侵攻までには間に合わない。
「つまり、太陽王が来るまで殲滅するか耐えることができたら私たちの勝ちってことだね。しかも攻めてくる方向は、前の緊急レイドと違って一方方向のみ。守りはしやすそう」
「一緒に頑張ろう、ユーリちゃん!」
「うん!アイリも頑張ろう!」
「こっちは緊急レイド戦と同じくミミちゃんを護るわ」
「ミミ、がんばります」
「ふっふっふ、ようやく私の真骨頂を見せる日が来たわね」
「LIZさん、気合入っているね」
「ハンマー2本持ち、絶対に相手を叩きのめすっていう強い意志を感じる……」
「サブ武器は火力を上げるためだけに装備しているだけよ。私が一番レベルが低いから、ここでガツンと稼がないとね」
敵襲を知らす鐘がガンガンと町中に鳴り響き、レイドイベントが開幕する。プレイヤーたちに襲い掛かってくるのは同等数の骸骨剣士。一部のプレイヤーは目の色を変えて、彼らを襲う。
「骨じゃああああああ!」
「骨寄こせや、こらあ!!」
「骨骨骨骨骨!!」
「腐った肉、錆びた剣はいらん!骨をよこせ!」
「ついでに呪玉を落としてもいいぞ。高く売れるからな」
もはや素材としか見られていない哀れな骸骨をアイリはケルベロスの上から眺めていた。
「すごい気合いの入れよう。あの人はモンスターを使役しているんだ。あっ、骸骨さんたちが吹っ飛んだのはMerlinさんの魔法かな。銃弾の音はエースさん!」
周りにいる人の戦い方を見ながら、ケルベロスが炎を吐き、アイリが毒をまき散らしている。初心者でも倒せるようにと骸骨剣士のレベルは10あるかどうかと低く設定されており、ケルベロスが倒されることはまず無い。
現実世界換算で一時間ほど戦っても味方の士気はさがるところか、遅れてきたプレイヤーに取られまいと奮起しているようにも見える。
『しかし、同じ相手ではつまらん』
「そうだね。皆はレベルの割には経験値が美味しい、素材がおいしいって言っているけど、私はレベル22。なかなか上がりにくいし、落ちる素材も今はあまり必要としていないんだよね」
『我らだけで、この騒動の原因のところに行ってみるというのは?』
「いいね。太陽王さんに直接会えるかも。道はわかる?」
『禁書の写本と同じ、いやそれよりも濃い気配がする場所がある』
「じゃあ、レッツゴー!!」
ケルベロスの意見に賛同したアイリがレイドを放り投げて、単身アンデッドが湧いてくる森の中を突っ切る。皆は金や素材の亡者になっているので、アイリが単独でレイド戦を抜けたことに気づいていない。いや、気づいたとしても横取りしないように奥の方に行った程度の認識かもしれない。
『手ごたえのあるやつはいないのか!』
「居ても困るけどね!」
装備が少し豪華でレベルも他の骸骨剣士よりも高いアンデッドもいたが、ケルベロスに纏めて焼かれてしまう。そして、無敵の行進がしばらく続くと、ケルベロスが大穴の前で立ち止まる。
「ここが暴発ポイント?」
『そうだ。この穴がワープホールになっていて、別の空間に飛ぶことができる』
「なるほど。ここのアンデッドたちを倒したら、みんなでこの穴に飛び込むとかのイベントがあるのかな」
『ここまで来たのであれば、先に我らが飛び込むというのはどうだ?』
「良いね、どのみち邪龍? とは戦わないといけないし」
『では行くぞ!』
「GO!GO!」
ケルベロスに乗ったアイリが勢いよく飛び込み、別空間、漆黒の闇が広がる世界にたどり着く。空には星1つすら輝いていない。そもそもここが屋外という保証すらも無い。そして、目の前には翼を閉じていたドラゴンがアイリたちの侵入に気づき、起き上がっていた。その後ろには金・銀・財宝が人の目を惹きつけて止まないほどにある。
「我が軍勢を突破し、ここまで来たか人間、いや異邦人よ」
「貴方が邪龍さんですか?」
「いかにも。我が名はファフニール。汝らに問う。ここに来た目的はなんだ?」
「ロマニアの街を護るためです。だから、攻撃をやめてください」
「それはできん。先に我を呼び出した男は力を望んだ。ゆえに我が眷属としての力を与えた。だが、欲を出して我が財宝を狙ってきたのでな、返り討ちにし、こやつの出身地を滅ぼすことにした。たかが一都市で済む恩情のある措置だ。ありがたく思え」
『この邪龍が本気を出せば、世界の半分が焼かれてもおかしくはないぞ』
「……っ、でも、あそこには関係ない人がたくさんいます」
「我からみれば同じ生き物よ。我が眷属たちよ、その力を見せつけてやれ!」
邪龍が目覚めました。これより敵のレベルが大幅に上昇します。
外でレイドを堪能していたプレイヤーたちにお知らせが届くと同時に、雑魚の攻撃が強く、硬くなっていく。
「なんや、急に強くなったで!」
「一定時間経過で強化バフがつくとかそういうことかな」
「レベルは15くらいか。始めたばかりの初心者にはきついんちゃうか」
「まあ、私たちも油断できないレベルになって楽しくなってきたね!倒した経験値も増加!この調子なら、このレイドを経験したプレイヤー全員レベル20近くまで上がりそう」
「それに少々レベルが高くても、夜空の彗星の効果で夜間時の攻撃範囲が拡大した私のショックウェーブならまとめて倒せるわよ!!」
次々に放たれていく衝撃波に巻き込まれて複数の骸骨剣士が砕け散っていく。
「まだまだ。続いてフルスイング!パワースタンプ!」
星マークがついたハンマーをぶんぶんと振り回しながら骸骨たちを砕いていく。レベルが低いプレイヤーも遠距離からの攻撃に集中して、援護攻撃による経験値を稼いでいき、骸骨剣士の侵攻を妨げている。
「ところで、アイリお姉ちゃんの姿が見当たりません」
「えっ、嘘!? だって、そこらでケルベロスにのって……いない」
「強くなった理由ってもしかすると……」
「ないない。いくらアイリでも……しないわよね」
親友であるはずのユーリが一番、アイリのことをわかってないのかもしれない。
「我が号令を受けた眷属の攻撃をいつまで耐えしのげるかここで見物させてもらう。汝らは去れ」
『見逃してくれるのか?』
「我が財宝を狙うのでなければ一度は見逃す。だが、原典をもってこちらに来るようなことがあれば、そのときは真の力で汝らを葬ろう」
『ここは退くぞ』
「うん、わかった。そうしよう」
アイリたちが元の世界にもどるのを見届けたファフニールは財宝を大切そうに抱え込みながら、静かに眠りにつくのであった。