第26話 隠しダンジョン
「期末試験が終わってレイドの詳細が分かったけど、これ運営側よく考えたわってほめるところよ」
「うん……」
アイリが元気なく答える。運営が書いてあった7月末に行われるレイド戦は2日間行われる。
1日目は現実世界の午前10時から無数のモンスター(シルエットはアンデッド)が出現。
指定数撃破するか現実時間で午前4時を迎えれば終了。
2日目は現実世界の午前10時から大型モンスター(シルエットからして邪龍)が出現。
共通HPを減らして撃破を目指す。
モンスターの侵攻を許し、ロマニアに甚大な被害出たら敗北。
ここまでは良かったのだが、問題はその後だ。
出現ステージはいずれも月明りも無い闇ステージという設定です。
しかし、初心者の方でも楽しめるようにすべきだと考え、
最低限の光量を確保させていただきました。
それにより、光や影が生じても『存在しないもの』として扱われ、
いくつかのスキル、魔法、技は使用することができません。
「シャドーミラージュもシャドーロックも使用不可……」
「レイドボスにロック決まったらアカンし、分身で超最高効率なんて許されるはずがないんや」
「1waveの雑魚が1億体いたら、1億体の分身とか他のプレイヤーからクレームものよ」
「そ、そういうのが許されるのがゲームだと思います」
「ぶっぶー、ゲームにもマナーとルールがあります」
「異議あり!私はルールを守っています」
「異議あり!ルールは運営が決めることです」
「う、うう……」
「アイリお姉ちゃん、かわいそうです」
「これが便利な魔法にかまけていた人の末路ってわけね。別戦術とれるように他の魔法を覚えといたほうが……」
「よーし、こうなったら、気分を変えにクエストの続き行くよ!」
元気よく飛び出していったアイリを【桜花】のメンバーは見送るのであった。アイリの受けているクエストが一体何なのか分からないが、ロマニア実装から1か月近く経過し、プレイヤーの研究が進んでいることもあり、そう変なクエストは無いだろうと高をくくっていた。
はじまりの街のギルドにいるミューイに、先日の騒動について話を伺ってみた。すると、耳元で他の人に聞こえないようにぼそぼそと喋り始める。
「禁書が盗まれたことは大ニュースだから秘匿されているのよ。でも、犯人グループの一人を捕まえたアイリちゃんだから伝えるけど、彼女がやったのは誰かが侵入できるように警備をきっただけで、禁書を盗んで逃亡した犯人はまだ見つかっていないのよ」
「じゃあ、真犯人は他に?」
「いるみたい。顔は見ていないけど声は男性。若くはないみたい。犯行動機が魔物に返り討ちに会った彼の蘇生であることから魔導士、特に条件ありとはいえ蘇生術が使える白魔導士、死霊を操る黒魔導士の可能性が高いとみているわ」
「あの~」
「大丈夫。アイリちゃんが犯人じゃないってことはわかっているから」
容疑者として扱われていないことにほっとして、ギルドを後にしてはじまりの街の外に出る。捜査のためとはいえ、さすがに町中でケルベロスを出すような真似はしない。
「犯人がどこに行ったか、分かる?」
『向こうに強い闇の力を感じる』
「あっちは……LIZさんと初めて会った鉱山があるほうだね。早速行ってみよう!」
『気をつけろ、残滓であれだけの力を持つということは本体はより強力ということだ。入念に準備はしておけ』
「大丈夫。ポーションも他の回復アイテムも在庫確認したから」
アイリに平原に危険なモンスターはもう居ない。あっという間に鉱山の入り口までたどり着き、ケルベロスに確認をしてもらったところ、中から闇の力を感じるということだ。
「そういえば、奥まで行ったことなかったね。よ~し、ついでに最奥まで行こう!」
「昔は硬かったんだけどなぁ……」
行く手を阻む何匹目かのロックリザードやロックゴーレムを倒して、一息入れる。初めて来たときはパーティーを組んで倒した相手も今やソロで軽く倒せる。自分が強くなった実感をしみじみと思いながら、出発すると……
「おや、ここで会うなんて奇遇だねえ」
「エースさん!どうしてここに?」
「それはこっちのセリフなんだけど、まあいいや。俺の使っている銃は人間なら使える武器なんだが、弾丸が消耗品かつ高価なものでね。こうやって金を稼がないといけないんだ」
「でも、エースさんの腕ならもう少し稼ぎが良いところにいけそうな……」
「いけるよ。でもね、500G使って600G稼ぐくらいなら、100Gで300G稼いだ方が利益が出るってわけさ」
「ああ、なるほど~」
「今度はこっちから質問な。アイリちゃんはどうしてここに? 金に困っているようには見えないけど」
「ちょっとクエストで」
「ここのクエストってなると鉱石発掘に、落とし物探索関係か? それとも、オーソドックスに魔物退治か」
「ちょっと本を盗んだ犯人を捜しに」
「くくく、なんだそりゃあ、聞いたことねえクエストだ。おもしれえ……よかったら、パーティーに入れてくれねえか」
「構いませんよ」
エースがパーティーに入りました。
「頼むぜ、アイリちゃん」
「こちらこそ」
エースと共に最奥部へと向かっていく。そこに待ち受けていたのは一つ目の巨大ゴーレム。レベル15とこのダンジョンの主に相応しいレベルではあったが、今のアイリの敵ではなく、召喚されたケルベロスであっという間に砕け散った。
「スキルポイントゲットと。一応、奥まで行ったんだけど、犯人いないよ」
『この奥から漏れているな。壊すぞ!』
ケルベロスが渾身の力で壁に向かって、突進をかますと崩れた壁から先に続く通路が見つかる。
「こいつは隠し通路か!条件はサモナーとかで探索できる魔物を連れてくることあたりか。さらに壁を壊す必要もあるから高火力も必要。慣れたゲーマーほどボス部屋をくまなく探そうなんて思わないから、とんだ見落としだ。こりゃあ」
「先に行きましょう!」
「いいぜ。俄然、面白くなってきたところだ」
2人が通路を歩いていると、骸骨剣士が通路をあちらこちらでうろついている。そのレベルは23。数が数だけにできれば戦闘は避けたいと言ったところだ。
「スニーキングミッションかな」
「一応、倒せるレベルの敵ではあるが……【鷹の目】で地形は把握した。俺の手を握れ。スキルの効果範囲内に入れる」
「わかりました」
「よし、スキル【隠密】。多少入り組んではいるが、基本的には一本道。【隠密】の効力が消える前に駆け抜けるぞ」
「はい!」
一定時間、敵の目の前を横切っても気づかれない状態になった二人は隠しダンジョンの中を走っていく。その先にはいかにもボスがいますよと言わんばかりの仰々しい扉があった。
「入るぞ、準備は良いか」
「はい!MPも満タンです」
2人が中に入ると黒づくめの人物が怪しげな呪文を唱えていた。そして、扉がバタンと閉まり、外へと逃げることができなくなってしまう。
「客人とは珍しい」
「貴方が禁書を盗んだ犯人ですか!」
(ちょいまて、禁書ってなんだ?)
「さよう。この禁書は写本ではあるが、邪龍を復活させる方法について書かれている」
「邪龍……」
(おいおい、レイド前にそんな重要なシナリオを隠しクエストにぶち込むな……あとでキングかジャックに自慢するか)
「そして、邪龍が持つ財宝を手に入れる……我の邪魔はさせんぞ!」
黒いローブを脱ぎ捨てると、そこにいたのはアンデッドの中でも最上位クラスのモンスター、リッチであった。そのレベルはケルベロス越えの32!
「俺たちなんざ、レベル20。レベル5差もあればキツイってのに……いくらなんでもこれは負けイベントじゃねえか!」
「それでも、頑張ります!」
「しゃあねえな!今はお前がリーダーだから従うぜ!」