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第25話 禁書

 久しぶりにはじまりの街をぶらついていると、大きな図書館を見つける。ここに来た当初、マーサから色々な本や資料を読ませてもらっていたこともあり、この街の図書館には入ったことが無かった。何か面白そうな本は無いかとメガネをかけた司書さんに受付を行う。


「あら、魔導士さんなんですね」


「はい。黒魔導士です」


「でしたら、少し手伝ってほしいことがあるのですが?」


 クエストを受注しますか

 →はい

 いいえ


「はい、喜んで!」


「助かります。実は地下に保管してあった禁書が何者かに盗まれました。そこには太古に封印された魔法がいくつも記述しており、大変な危険なものです。禁書を見つけていただけないでしょうか?」


「えっ~と、手がかりとかは?」


「まったく何も……禁書保管室へ案内することはできますが、いかがでしょうか?」


「現場百回ってよく聞くし、お願いします」


「では案内させていただきます」


「エネミー、貴方も来なさい!」


「わかりましたよ~、先輩」


 気だるげな目隠れの司書たちと共に、奥のエレベーターに乗って地下へと向かっていく。そこにはただ広い空間に、ポツンと置かれた台座があった。台座の上にはおそらく件の禁書があったのだろうが、今は何もない。


「今はセキュリティを切っていますが、賊が侵入すると図書館ゴーレムが現れて迎撃する仕組みになっています」


「図書館ゴーレム……見てみたい気もする。それで本はここにあったんだよね」


「はい、間違いなく。エネミー、そうよね」


「監視カメラでは異常がありませんでした。当時、当直だったあたしが言うんです。間違いありません。先輩は?」


「ログを確認したけど、ゴーレムの呼び出し機能は作動していなかったわ。監視カメラの映像にも犯人らしき影はなし」


「姿・形もない犯人……こういうときは警察犬で匂いを辿って捜査するのが鉄板……犬……ケルベロス召喚!」


『我は地獄の番犬であって、警察犬ではないのだが……』


「細かいことは気にしない。気にしない。匂いを辿って」


『ふん。これほど禍々しい闇の力の残渣……嗅がずともはっきりと見えるわ』


「じゃあ、犯人を捜そう」


『まずはそこにいるエネミーとやら話を聞くと良い。事情を知っているはずぞ』


「エネミーさん、何か知っていることありますか」


「あたし、何も知らないわ」


『ほう。お前の身体についている微量の残渣はどう説明するつもりだ?』


「知らないわよ!勝手な言いがかりやめてくれる!」


『言いがかりかどうかはアイリが判断する』


「はあ、あの子にどんな力があるって言うの?」


「ねえ、エネミー。誰と話しているの?」


「誰って、あのでかい犬に決まっているじゃん」


『教えてやろう。我の声を聞けるのは闇の力を持つ者だけだ』


「あっ……」


 アイリはカタツムリイベントのときの【アルカナジョーカーズ】戦を思い出す。あのときもケルベロスがしゃべっていたが、それに対して、喋る犬とは誰も認識していなかった。つまり、普通の人ならば、ケルベロスの声は恐ろしい遠吠えにしか聞こえない。


「くっくっくっ……ばれたら仕方が無いわね」


 エネミーが片目を隠していた前髪をかき上げ、どろりとした黒い目をさらけ出す。それと同時に、彼女の周りに黒いオーラが吹き荒れる。少しでも気を抜いたら紙のように吹き飛ばされそうだ。


「もう一度、あの人に会うため、ここでやられるわけにはいかないのよ!」


「シャドーダイブ!」


 黒いオーラが離れた無数の黒い手のようなものから逃れるため、影の中へと飛び込んでかわし、一度態勢を立て直す。


「あれだけの数の手を相手にしたら分身も死霊も数が足りない……だったら、攻撃あるのみ。ポイズンショット、カース!」


『我が獄炎に焼かれろ!』


「その程度の攻撃ぃ!!」


 黒いオーラをバリア状に展開し、アイリの魔法もケルベロスの炎も耐えきる。その圧倒的な防御力の高さにアイリとケルベロスが舌を巻く。


『あのバリアをどうにかしなければ、我らに勝ち目はないぞ』


「いくら攻撃しても無駄よ!!これの闇の力がある限りはね」


「バリアを張っても息はしているんだから、これなら有効かも。ポイズンミスト!」


「無駄だって言っているでしょう!」


 毒の霧に包まれても、バリア内部にまで届かないように遮断されている。バリアを貫通できる武器も魔法も無いアイリは他の手だけが無いか考えながら、魔法を撃ちながら考える。


「攻撃魔法が駄目でも精神攻撃なら、メンタルブレイク、コンフュージョン!」


『魔法が通用しないなら物理攻撃はどうだ!』


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」


 アイリとケルベロスの猛攻を耐えしのぐエネミー。そして、アイリに再度触手を伸ばすも再びシャドーダイブでかわされてしまう。


「ちょこまかと!」


「一歩も動かない……相手の無敵防御を崩すってこんな感じなんだね。私と戦ってきた人の気持ちがわかる気がするよ」


 そういう自分の言葉に何か閃きのヒントがあるような気がした。そして、これまで戦ってきた経験――エネミーには無いものを駆使しようとゲームの中であった戦いを振り返っていると、背後から迫ってきた触手を再びかわそうとする。


「シャドーダイブ!」


「ええい、どこに消えた!」


「スキル【急成長】からプラントクリンチ!」


「犬の後ろか!だが、そんなツル。あたしのバリアを貫くことはできないよ」


「それはどうかな」


「ん? ぐああああ!!」


 エネミーの足元から生えてきた根っこに身体を拘束され、押し倒されてしまう。しかも、エネミーのステータスに毒がついていることから、バリアが一瞬でも剥がれたことを意味している。


「げほげほげほ、どうして……あたしのバリアが!?」


「そのバリアの展開条件って、私のシャドーロックと同じ一歩も動かないことなんでしょう」


 先ほどからのエネミーの行動を見るに、一歩も動かないのではなく、一歩も動けないのではないかと考えた。ならば、その対策方法は既にクイーンから、身をもって教えてもらっている。

 そして、一度毒にさえなれば、いくら防御が高かろうと意味をなさない。さらに言うならば、非戦闘要員であったエネミーが長時間、毒に耐えきれるはずもない。


「私の毒は特別製。普通の毒よりもまわりが早いよ。だから、教えて。禁書を何処にやったの?」


「教えるわけ、ない…………」


 毒が回って青ざめたエネミーが倒れ、バトルが終了。それと同時にエネミーにかかっていた毒のステータス異常も消える。脈はあることから、死んではいないようだが、毒が充満した地下から早く脱出したほうが良いと思い、エレベーターに乗って帰る。


「すみません、先に避難させていただきました。ところでエネミーは?」


「大丈夫です。気を失っているだけです」


「よかった。ギルドの職員を呼んでおいたので、彼女のことは彼らに任せましょう」


 ギルド職員が担架でエネミーを運んでいく。まずは治癒が優先ということもあり、ギルド所有の病院に送られるそうだ。彼女が主犯なら、これで事件は解決のはずだが……


(でも、まだクエストクリアになっていない……)


 つまり、まだ続きがあるということ。取り調べは彼女の様態が回復してかららしいので、今日のところは引き上げて、また、今度の機会にこのクエストを続けようと思った。

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