第24話 梅雨イベント終了と農作業
梅雨イベント終了のお知らせが流れ、【桜花】のメンバーはクランホームでお疲れ会を開いていた。机の上には、クッキーと紅茶やジュースなどの飲み物が置かれている。互いのグラスで乾杯し、楽しく談笑する。
「なんとかイベント終わったね」
「PK行為が始まったときはどうなることやらと思ったで」
「同盟の件も無難な方向で終わらしたし、めでだしめでたしだね」
あの後、クランで話し合った結果、同盟を結んだことで【桜花】の評判が悪くなる可能性も考慮し、【アルカナジョーカーズ】と【桜花】はイベント時に互いの邪魔をしない不可侵条約を結んだ。これなら、他のプレイヤーからみても、PK行為をされた【桜花】が【アルカナジョーカーズ】を避けているようにも見え、この密約はバレにくい。
「PK行為のドタバタがあったせいで今回の賭けは無効や。やはり、こういうのは正々堂々やりたいからな」
「もし賭けをしていたら、驕ることになったのは私なんだけどね」
イベント前半はPK行為を受けながらも頑張って参加していたが、後半では来月の期末試験に向けて学校の勉強もしていたこともあり、ほとんど参加できなかったことが響き、失速。結果、【桜花】ではアイリが紫陽花の数が一番少なくなってしまった。
「アイリはまじめだからね」
「ユーリちゃん、ログイン時間長いようだけど大丈夫」
「大丈夫だって。この後はレイド戦までこれと言ったイベントは無いし、その間に勉強するから」
「テスト勉強とかを聞くと、青春を思い出すわ」
「ワイもそろそろ勉強しないとケイにとやかく言われるわ」
「わたしは怒られませんよ~」
「小学校でもテストはあるでしょう?」
「そうそう。ゲームのしすぎは良くないわよ」
「でも、現実つまんないもん。それにパパもママも遊んでいたら喜んでくれるよ」
「どんな家庭やねん……」
人には人の事情があると思い、リュウたちはそれ以上は踏み込まず、話題を変えようとする。
「せや、みんなでスキル書を一斉に使おうか」
「そうだね。せっかく手に入れたスキル書だもんね。せーの!」
スキル【植物操作】を覚えました
植物を操る魔法や技を覚えることが可能です
「おっ、植物系の魔法覚えれるようになったよ。多分、クイーンさんが使った魔法もこれ系列かな」
「植物っていうことは地属性の魔法やな。その魔法を教えてくれる人ならワイが知っとる。肉体強化系列もだいたいは地属性分類やからな」
「でも、速度アップ系の魔法は風だから注意。あと盗賊の技は風に偏っている」
「鍛冶は火と地の魔法よ。半々ってところかしら」
「僧侶は光だけです」
「ってことは……足りないのは水だね。もし、6人目を入れるなら、水使いにしよう」
「いいね。数は少ないけど、全属性使えるクラン。クランで解決しないといけないイベントがあるなら、バランスの良さは重要!それに今は海マップは実装されてないけど、その内来るかもしれないし」
「うみ、行ってみたいです!」
「海か……ゲームだと日焼け止めとか用意しなくてもいいのは楽よね」
「ちょいと気が早いわ。さてと、ワイはアイリちゃんと一緒に魔法を覚えに行くわ」
「いってらっしゃい」
アイリはリュウと一緒にクランホームから出て、はじまりの街の一角にある農園へと向かっていく。そこにはガチムチな男性が畑を耕していた。
「武田はん、よろしゅう」
「おっ、リュウくんではないか!今日はどうした?」
「この子に植物操る魔法を教えてもらいたいんや」
「アイリです。よろしくお願いします」
「かわいこちゃんは大歓迎だ。俺はマッスル武田。地属性の魔法と農業のやり方を教えている。ここはレンタルだが、クランホームを買うと自分だけの畑もついているぞ。農作業で筋肉を鍛え、大地と心を通じ合わせるのだ!!」
「つまり、魔法を教えてもらうには……」
「農作業をしよう。まずはそれからだ。植物の種はあるか?」
「はい!普段からよく使っていので」
「なら、話は早い。まずは――」
「今日はええナスどトマトがどれた。先生、本当サ持って帰って良いのか」
方言交じりでマッスル武田に話しかけてくる女性。どこかで聞き覚えるのある声だなと思いながら、声をした方を見ると、そこには満面の笑みで籠にいっぱいのナスとトマトを摘んできたクイーンの姿があった。
「…………………」
アイリの存在に気づいたクイーンは凍り付いたPCのようにピクリとも動かない。この前のイベント時はセクシーな衣装だったのに対し、今の彼女は派手な髪色を除けば何処からどう見ても農家にしか見えない恰好をしている。
「なして……ごほん、なんでアンタがここにいるの!」
「知り合いか?」
「知り合いも何もクイーンさんです!」
「例の――」
「一応、PKは普段はやってないから。善悪度が下がりすぎると困るし。そういうわけで、次のイベントで【アルカナジョーカーズ】はPKはしないよ」
「それは助かるわ。おっと本題、忘れるところやった。アイリ、武田はんのことをちゃんと聞いていたら魔法を教えてくれるはずや。ワイはこれからケイと約束あるさかい、ログアウトするわ」
「うん。リュウくんありがとう」
「ふ~ん、アンタの彼氏ってわけじゃないんだ」
「リュウ君とは友達です」
「話は終わったかな。さあ、これからマッスルの時間だ。マッスルマッスル!」
「マッスル!」
「……アンタ、ノリが良いタイプね」
その後、マッスル武田の指導の下、農作業の基本的なやり方を教えてもらう。ゲーム的に簡略化されているとはいえ、力仕事かつそれに関係する『攻撃』の値が低いアイリにとっては重労働であった。
スキル【農作業】を手に入れた
レンタル畑またはクランホームで農作物を育てることができます
「植物を操る魔法だったな。スキルポイントはいくつありマッスル!」
「クエストこなしていたから、45ありマッスル!」
「よし!ならばこれだ!プラントクリンチ。スキルポイント30と少々高いが、植物の種類に関係なく操って、相手を締め上げる技。似たような魔法はいくつかあるが、それらは火力・範囲・拘束力を上げる代わりに使用できる植物が限られている。初心者の君なら、この魔法で慣れるのがおすすめだ。また、ダメージは『攻撃』依存なので要注意。覚えるか?」
「う~ん、魔法……『知力』依存のものってないですか?」
「魔法か……植物を操るのは攻撃依存が多い。『知力』依存となると私では教えるのは難しい」
「なるほど。私の『攻撃』は高くないし……でも、エナジードレインが使いやすくなるのは良いなぁ。でも、マーサさんのところでスキルも覚えたい。う~ん…………覚えます!スキルポイントなんてイベントやクエストでまたもらえればいいからね」
技:【プラントクリンチLv1】(消費MP12)を覚えた
「力依存は技って書いてくれるんだ。よし、ありがとうマッスル!」
技を教えてもらったアイリはぶらりと、まだまだ見知らぬ場所が多いはじまりの街を探索するのであった。