第20話 黒魔導士
クランホーム内でレイド討伐のお祝いパーティーを開いていた。アイリとLIZが料理を、ユーリとミミが飾り付け、リュウは配膳と片付けを担当した。ゲーム内で味覚がきちんと再現されていることに驚きながらも、チキン料理やフライドポテト、大皿に乗せたサラダなどそれらしい料理を食べていった。
「あっ、そうだ。私レベル20になりました!」
「すごいです。アイリお姉ちゃん」
「私は1回ボスモンスター倒してなかったから19止まり」
「ワイはレベルが低かったからな。まだ20になってないわ」
「私も同じ。でも、他のプレイヤーのレベルと比べたら高い方って感じよ」
「レベル20か……転職できると言われても、今更プレイスタイル変える気はせん」
「私は黒魔導士になれるかも」
「黒魔導士? そんな職業あるんか」
「うん。闇魔法に特化した職業みたい」
「ワイも盾特化の職業とかあれば、転職したいわ」
「食べ終わったらマーサさんの家に行ってみない? もしかすると戻ってきているかも」
「そうだね。みんなで行ってみよう!」
「でも、ご飯はきちんと噛んで食べるように」
お母さんのようなことを言うLIZさんに返事をし、楽しい談話が進んでいくのであった。
マーサの家に行くと、いつものように椅子に座りながら、本とにらめっこしているマーサの姿があった。今日はギルドの依頼を受けているため、オカシラは不在だ。
「マーサさん、おはようございます!」
「アイリか、見ないうちに成長したようじゃな」
「へへ、私もうレベル20だよ。黒魔導士になれるかな」
「試験を受けるくらいはかまわんじゃろ」
マーサが槍のように尖っている宝石がついている杖を振るうと、アイリの姿が消える。それと同時についてきたお友達に見せるようにと空中にモニターが映し出される。
闘技場のような広い空間に放り込まれたアイリはきょろきょろと辺りを見渡していると、目の雨に三つ首の巨大な犬が現れる。
「ガルルルル!!」
「ケルベロス……レベル30!?」
「この駄犬に己を認めさせたら、黒魔導士として認めてやろう」
「私一人で倒せってこと!?」
「旨そうな人間の匂いがするぞ」
「食べる気まんまん!? それなら、こっちも手加減しないよ!シャドーミラージュ!シャドーアタックからの死霊召喚!」
分身体を含む3人のアイリから、6匹ずつ計18体の骸骨剣士が現れケルベロスに果敢に挑む。だが、彼らが与えるダメージはいずれも1。レベル差もステータスの差も違いすぎるのだ。
「その程度か?」
「まだまだ。ポイズンミスト、ポイズンショット、カース!」
毒と呪いのオンパレード。並のプレイヤーなら確実に状態異常になるはずのそれらをすべて受けたうえで、一切の状態異常にならない。
「我にそのような攻撃は通用しない!」
骸骨剣士を踏み潰し、蹂躙していく。まだアイリを脅威とすら認めてないため、ポーションを飲む余裕はある。
「こっちがとれる手段はまだあるよ。スキル【急成長】からのエナジードレイン!死霊召喚!」
足元にばらまいた種がケルベロスに巻き付きながらHPをじわじわと吸収していく。だが、雑草程度と言わんばかりに歩いていくだけで植物が千切れ、再度召喚した骸骨剣士は再び土へと戻る。
「ふん。その威勢がいつまで持つかな? 絶望という名のスパイスをきかっせた後、ゆっくりと喰らってやるわ」
(ケルベロスさんの言う通り、『今の』私に通用するスキルも魔法も無い。でも、可能性あるとしたら……!!)
自分のステータス画面を思い出しながら、終わりのない逃走劇を続けていく。そんなアイリの様子を【桜花】のメンバーが画面越しで見ていた。
「あかん、こんなの無理や」
「うん。アイテム使って耐えてはいるけど、それは舐めプされているだけ。本気を出されたら、勝ち目なんてない」
「もう少しレベル上げてから再挑戦したほうがよさそうよね」
「アイリお姉ちゃん、頑張れー!」
応援しているのは年端のいかないミミだけという暗い雰囲気の中、マーサは鼻で笑う。
「なんだい、辛気臭い顔をして」
「だって……」
「あの子はまだ諦めてなんかいないというのに」
「えっ……」
ユーリは改めて、モニターに映るアイリの顔を見る。その目にある闘志はまだ尽きておらず、何かを待っているかのようにも見える。
「儂が一目ぼれした弟子がそう簡単に折れるはずが無かろう、ひっひっひっ」
「ええい、鬱陶しい。何度やっても同じこと!」
「シャドーダイブ!」
ケルベロスが放った火炎弾を躱しながら、その手ごたえを感じ始める。つまり、度重なる攻撃でケルベロスの攻撃パターンが変わったのだ。
(マンイーターみたいに回復しない。こっちにはポーションによる無限MPがある。あとは……)
再び死霊や分身体を作りだし、ケルベロスの気をそらさせているうちにポーションを飲む。そして、その待っていた瞬間は遂に訪れた。これは魔法を初めて覚えた時から思っていたこと、魔法やスキルのレベル表記だ。
【闇魔法Lv1】は【闇魔法Lv2】に進化しました
【シャドーミラージュLv1】は【シャドーミラージュLv2】に進化しました
【シャドーアタックLv1】は【シャドーアタックLv2】に進化しました
【ポイズンショットLv1】は【ポイズンショットLv2】に進化しました
【カースLv1】は【カースLv2】に進化しました
マーサの指導の下で無駄な魔法を覚えさせずに、同じ魔法を使い続け、分身体でもその回数を重ね続けたことで、他のプレイヤーよりも早くレベルアップしたのだ。
「レベルアップした魔法ならもしかすると!シャドーミラージュLv2!!」
分身体がいる状態でさらに分身体を作り始めると、自動的にシャドーアタックと同じアクティブ状態になり、慌てて唱えた死霊召喚で呼び出した骸骨剣士と共に襲い掛かる。
「ふん、数が増えただけか。ただのこけおどしだな」
「こけおどしかどうか、やってみないとわからないでしょう!ポイズンショットLv2、カースLv2!」
分身体と共に放たれた毒の液は溶解液のプレスのように発射され、呪いの弾は巨大化し、ケルベロスの顔一つ分は覆えるほどにある。
「だが、いくらレベルアップしても元々の自力が――」
ケルベロスがアイリの努力を否定しようとしたとき、ケルベロスの表記に毒と呪いのアイコンが付く。Lv2になったことで毒と呪いの成功確率が上昇していた。
「なに我に毒と呪いだと!? ありえん。我は一度もそのような状態異常になったことは無い!!」
「ようやく驚いてくれたね。耐性はあくまでも耐性。可能性は0じゃない。デッドリーブレス!」
5人の愛理から放たれる毒特攻攻撃。闇魔法のスキルが上がっていることとジャイアントキリングの補正によって、マンイーター戦よりも強化されたソレはケルベロスのHPをわずかとはいえ、減らしていった。
「我を傷つけただと。認めん、認めんぞ!」
ケルベロスの表面が黒く燃え盛っていく。いわば第二形態に移行したと言ったところか。ケルベロスの口から放たれた獄炎をシャドーダイブでかわすものの、辺りをぐるりと炎の壁で包み込み、アイリの逃げ場を封じる。
「これでチョコマカと逃げることができんぞ」
「そこまで私に対策を練るってことはトラウマになったってことだよね」
「何を言っている?」
「呪毒耐性はあっても、精神耐性はあるのかな。メンタルブレイク!」
精神世界で逃げ続けているアイリから毒と呪いをかけられ続けているケルベロスは、その動きがピタリと止まる。その隙にポーションによる回復、分身体の増加と毒と呪いの重ねがけを忘れない。そして再び動き始めたら、メンタルブレイクを撃ち、はめ続けていく。
「これで認めてくれるかな!デッドリーブレス!」
10体以上の毒竜によってケルベロスがかみ砕かれ、そのHPを0にする。
「我の負けだ。認めざるを得ない。名は何という?」
「アイリです」
「我が真名ケルベロス、アイリを主と認めよう」
【ケルベロス召喚】(消費MP60)を覚えた
「骸骨剣士さんの3倍!?」
「我を呼び出すにはそれ相応の代価だ。有象無象と比べられても困る。次会う時は戦場でだ」
ケルベロスの姿が消え、アイリもマーサの家に戻る。クエスト1発クリアに【桜花】のみんなから抱きしめられる。
「儂が見込んだ通りじゃな。アイリを黒魔導士として認めよう」
【黒魔導士の道】クリア
スキルポイント30ポイント手に入りました
黒魔導士になったことで、MP+50、知力+50アップ、スキル:【黒魔導】を習得
世界初転職ボーナス
ランダムスキル書・上を手に入れました
アイリ Lv20
種族:エルフ
職業:黒魔導士
HP30/30
MP170/140(+30)
攻撃:3(+4)
防御:3(+15)
知力:59(+15)
敏捷:5(+10)
運:5
残りスキルポイント:162
装備品
メイン武器:旅人の杖(知力+10)
サブ武器:ポイズンダガー(攻撃+8、ごく低確率で毒状態付与)
頭:旅人の三角帽子(防御+5、知力+5)
服:旅人のロープ(防御+10)
脚:ポイズンシューズ(敏捷+10、回避時にごく低確率で毒状態付与)
首:
右手:魔力の腕輪(最大MP+15)
左手:魔力の腕輪(最大MP+15)
所持スキル
【状態異常耐性(中)】【状態異常成功確率アップ(小)】【闇魔法Lv2】【外道】【ギャンブラー】【富豪】【精神攻撃Lv1】【時間耐性(小)】【精神耐性(中)】【影操作】【急成長Lv1】【ジャイアントキリング】【呪毒】【毒耐性(小)】【夜目】【逆境】【黒魔導】
所持魔法
【シャドーミラージュLv2】消費MP16
【シャドーアタックLv2】消費MP2
【カースLv2】消費MP4
【ポイズンショットLv2】消費MP4
【ポイズンミスト】消費MP12
【メンタルブレイク】消費MP8
【シャドーダイブ】消費MP24
【デッドリーブレスLv1】消費MP24
【コンフュージョン】消費MP16
【エナジードレイン】消費MP16
【死霊召喚】消費MP20
【ケルベロス召喚】消費MP60
「凄く強くなっている!」
「知力なんてステータスに振ってないのに、トッププレイヤーに渡り合える……ううん、もしかすると凌駕しているかも」
「これが転職の力かいな。これは是非ともやりたいわ」
「あとスキル書・上ってのも貰ったから使うね」
【ヒュドラ毒】:毒の効果を大幅に上昇。一部の魔法による毒攻撃のみ、毒無効を極低確率で貫通する。
「毒無効とか不吉な文字が見えるよ」
「しかも貫通効果も実装されるのもやばい。確実にインフレルートに進むやつ」
「転職初ボーナスで手に入るレベルで入手となると、スキル書・上は超がいくつもつくようなレアアイテム……手に入りにくいならまだマシやろ」
「だといいんだけどね」
「あと新しく覚えた【黒魔導】は【闇魔法】の効果をさらに上昇させるんだって」
「基本はあくまでも闇魔法なのね」
「スキルポイントもだいぶ溜まっているし、マーサさん、強力な魔法教えてください」
「その様子だと耐性を下げる魔法は必要なさそうだねえ。だったらこれがいい」
魔法:【シャドーロック】(消費スキルポイント60、消費MP40)
魔法:【ヒュドラブレス】(消費スキルポイント80、消費MP52)
今まで溜まっていたスキルポイントを一気に吐き出し、2つの魔法を覚えていく。
魔法:【シャドーロック】を覚えた
魔法:【ヒュドラブレスLv1】を覚えた
「シャドーロックは名前通り動きを止める魔法、ヒュドラブレスが辺り一面に猛毒を待ち散らして攻撃し、神性相手に特攻ダメージ」
「神と戦うことがあるって書いているわね。ヒュドラ毒のスキルにあった一部の魔法ってこれのことでしょ」
「でも、消費MPが重いから使いどころは選ばないと……」
「ひっひっひっ、強力な魔法程使い勝手がいいとは限らん。次はスキルを増やすのも手じゃぞ」
「わかりました、マーサさん。今度来たときは良いスキル教えてください」
「楽しみにしておくといいぞ」
マーサに別れの挨拶をした後、アイリたちはログアウトするまでいくつかのクエストをこなすのであった。