第16話 月下に咲く魔草
日が暮れ、空には三日月が暗い夜道を照らしている中、アイリたちは山道を歩いていた。都市まで続く山道ということもあり、歩きやすいように舗装されていた。
「結構歩いているけど、疲れた感じがしない」
「そりゃあ、ゲームやからな。精神的な疲れはともかく、肉体的疲労は感じにくくしとるんやろ」
「あれがゴルドランね。門が閉じられているから中は見れないけど」
外から見るに、ロマニアに劣らないほどの堅牢そうな城壁で守られている。近くには憲兵がうろうろと巡回しており、簡単に忍び込むことは出来なさそうだ。
「この街に入るのは次のアプデ待ちやな。で、肝心の月光草は?」
「青白くて真ん丸な花だからわかりやすいんだけど」
「見た感じなさそうね……少し山道から離れたところに行く?」
「夜中に山に入ると遭難するかも……と言いたいところやけど、ワイらにはホーム機能があるからな。最悪、帰還すれば問題ないか」
「行きましょう」
4人が山の中へと入っていくと、山道と違ってごそごそと物音がする。モンスターだと判断し、リュウが【注目】で潜んでいるモンスターをおびき出す。すると、異臭を放つ腐った死体、ゾンビが数体現れた。手にはつるはしを持っており、一応武器を扱える知恵くらいはあるようだ。
「この辺の作業者の死体ってところか。2体流すから、残りをワイが惹きつけている間に攻撃魔法を放ってくれ」
「分かった。体が死んでいるから毒は効きにくそうだけど、呪いは効くよね。カース!」
「えっ~と、ホーリーショット」
2人の放った魔法がゾンビにあたる。呪いの球をくらったゾンビは苦しみだしてその場に倒れ、光の弾を受けたゾンビは衝突個所の肉体ごと消滅させた。
「す、すごいです。わたし!」
「うん。ミミちゃんがいれば楽に進めるね」
「まだゾンビ残っとるからな。もう2体追加や。最後の1体はシールドアタック!」
両手に持っていた盾でゾンビを押しつぶして腐った肉体ごと粉砕する。リュウが後ろを振り返ると、そこには勝利のVサインをしている二人の姿があった。ただ一人、戦闘に関われなかったLIZは少しバツが悪そうだ。
「私、まったく役に立ってないわね」
「こういうのは得手・不得手があるもんや。LIZさんにもう1個盾作ってもらえなかったら、受け止められんかったかもしれん」
「そうだと良いんだけど……」
「そういえば、リュウくんってどうして両手に盾を持っているの?」
「ランダムスキルで【2刀流】っていうスキルを引いたんや。コイツは同じ種類の武器を両手に持った時、補正値が上昇する効果を持つ。ワイが盾2枚持てば防御力がさらに上昇ってわけや」
「ほえ~、そんなスキルがあるんだ」
「ワイのリア友が羨ましがっていたわ。今度、機会があれば紹介するで」
「楽しみにしているね」
地面から湧いて出てくるゾンビを倒しつつ、歩いていると月の光に照らされて青白く光る綺麗な花が絨毯のように敷き詰められている花園を見つける。
「うわあ、きれい……」
「光のじゅうたんです」
「ここだけおとぎ話から抜き出したみたい」
「何本か摘んで……うわあああ」
地下から何か飛び出してきたものにすってんころりんと頭を打つリュウ。頭を抑えながら、見上げるとそこには巨大な花弁を持つ人喰い植物のモンスターが現れる。茎が口になっており、よだれをだらだらと流しているあたり、大人しくは帰ってくれないのがよくわかる。
「Lv20!? ボスモンスターか!」
「植物相手だと私のこうげきが……」
「大丈夫。アンデッドじゃないなら……シャドーミラージュ!」
分身体を作り、毒や呪いを浴びさせていくアイリ。ボスモンスターといえど、すべてのボスに呪毒耐性がついているわけではない。状態異常にかかったことでいつもの必勝パターンに入り、楽勝かと思っていたが……
「あれ? HPが回復している……?」
「自動回復!リジェネみたいな能力あるんか、あのボスモンスター!」
リュウが植物のツタを受け止めながら、分析していく。レベルが高いボスモンスターということもあり、少しでも気が抜けたら半分近く持っていかれる。ミミが必死にヒールをかけているとき、あることに気づく。
「おはなさんが枯れています」
「なんやて!? 時間制限……いや、あの植物のモンスター、月光草から栄養を奪っとるんか」
「じゃあ、早く倒さないと!デッドリーブレス!」
毒竜の顎が植物を喰らう。だが、格上のボスモンスターかつ知力や運にステータスに振っていないアイリの能力ではそこまでのダメージを受けていない。
「植物ってことは根っこを引っこ抜けばいいのね」
「まあ、そうなるわな。LIZさん、なんか方法でもあるんか?」
「あるわよ。リュウくん、そいつを動かないようにしてね。この技、かなり大ぶりで味方にも当たるかもしれないから」
「LIZさんの攻撃に合わせて躱したるわ。どーんとやれや!」
「お言葉に甘えて!すぅ――ショックウェエエエエエエエブ!!」
日頃のストレスを発散するかの如く、ハンマーを地面にたたきつけると地面を割りながら、衝撃波が人喰い植物に襲い掛かる。発掘作業をすることもあり、力作業の効率に関わる『攻撃』や強力な装備が出やすくなる『運』にステを振っていたLIZの渾身の一撃はクリティカルヒットの大ダメージ。一気に人喰い植物のHPを減らす。
「よし、地面につながった根っこを断ち切ったわ!」
「なら、今度は私が!傷口に毒を塗ります!ポイズンショット」
切れた根っこに目掛けて毒の球を狙い撃つ。もとから、毒を受けていたこともあり、根から毒を吸収してしまった人喰い植物はみるみる内に枯れてしまう。
ジャイアントマンイーターLv20、初撃破ボーナス!
スキルポイント15ポイント手に入れました
世界初撃破ボーナス!
選択スクロールを手に入れました
スキル:【夜目】を手に入れました
称号:月下美人を手に入れました
「色々と手に入ったで。選択スクロールは魔法:【エナジードレイン】、技:【パワーウィップ】、魔法:【月光成】、技:【なぎ払い】の4つから選択で、最初の2つは鞭か植物が必要か」
「【月光成】は月があるとHP回復できる魔法みたい。消費MPそこそこあるけど」
「称号は月が出ているときにHPがわずかに回復していく(条件:静止状態)だって」
「そっちは使いづらい。選択スクロールは……薙ぎ払える武器は持ってないから月光成やな」
「私はエナジードレインにしておく。急成長と組み合わせられるし」
アイリはエナジードレイン(消費MP16)を覚えた
「よし、これでみんな強化終わったな」
「ユーリちゃんに話したら悔しがりそう」
「団体行動は重要ってことや。さてと、またモンスターが現れんうちに月光草を摘んだら帰るで」
「本当の目的、忘れるところだったわ」
LIZが月光草を手に入れると釉薬の合成ができるようになったので、ホームに帰ってさっそく取り掛かる。その後、お爺さんのところに持っていくと……
「これじゃよ。これが欲しかったのじゃよ。じゃが、ゴーレムの粘土の在庫を切らして困っとる。すまんが、取りに行ってくれんか?」
「乗り掛かった舟だもの、最後まで付き合うわよ」
LIZたちは誰もまだ攻略していないクエストを進めるのであった。




