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第14話 クラン結成

 アップデートが明けて、ゲームにログインしたアイリに届いたのはアップデートのお詫びのアイテムと謎の補填。恐る恐るその内容を見てみると、アイリのシャドーミラージュがスキル修正されて弱体化してあった。


「修正前はオブジェクトの影も利用できましたが、ゲームバランスを著しく損なう恐れがあり、今後はプレイヤー並びにエネミーの影のみの利用となります。う~ん、しょうがないか」


 イベントの予選で気づいたこととはいえ、かなり強力なコンボではあったため、その内容に不満はなかった。

 そしてイベント予選通過でもらったスキルポイント20、補填で手に入ったスキルポイント20、アップデートの詫びポイント10。残っていた分と合わせて65ポイントとスキル書が残っている。


「よ~し、ユーリちゃんが来る前にランダムスキル書使おう」


 スキル:【毒耐性(小)】を得ました


「あっ、耐毒のネックレスと同じスキル覚えちゃった。じゃあ、これは外して新しい街で何か買おうかな」


「アイリ、待った?」


「ううん、私も来たところ」


「クランを作るためにも、今日はロマニアに行かないとね」


 アイリはクランの情報をもう一度確かめる。クランに加入するにはレベル5以上が必要で、クランを設立するにはクランリーダーがロマニアで手続きを終えることで可能になる。


「その前にマーサさんに挨拶しとかないと。オカシラさんも戻ってるかもしれないし」


「だね。アイリもスキルポイント大分貰ったんでしょう。レイドとかクランで役立ちそうな魔法を覚えてもいいかも」


「うん。そうだね」


 他のプレイヤーがぞろぞろとロマニアへと向かっていく中、2人は森の奥にあるマーサの家へと向かう。


「ああ、お前たちか。今日はどうした?」


「あれ、マーサさんは?」


「マーサなら、仕込みがあると言って何処か行っちまったぜ」


「そうなんだ。どこに行ったんだろう?」


「う~ん、これは何かイベントの匂い。オカシラさん、マーサさんから何か言われていませんでした?」


「あるぜ。マーサからアイリ宛にスクロールを渡せって言われている。これを読めば、役に立つ魔法を覚えられる優れモノだ。貴重な品物をひょいと渡すあたり随分と気に入ったみたいだな」


「該当のNPC不在時でも魔法を覚えられるようにしているってところかな」


「それなら、レイドで役に立ちそうな魔法を教えて」


「えっ~と、確かマーサが残したメモには……あったあった、多人数戦闘用の魔法。コイツはどうだ。30ポイント使うが強力な魔法だ」


「じゃあ、さっそくスキルポイントを30ポイント分使って……」


 魔法:コンフュージョン(消費MP12)を覚えました


「相手1体を混乱状態にする……?」


「多分、味方同士で相打ちに持たせたり、自傷させたりすることができるんじゃないかな。多人数での戦闘なら、陣形を乱すことができそうだし、これはかなり強力な魔法だと思う」


「マーサさん、良い魔法教えてくれたね」


「喜んで何より。マーサもきっと喜ぶぜ」


「はい。そうだ、オカシラさん、一緒にロマニアに行きませんか」


「ロマニアか……この辺の依頼もプレイヤーの活躍でめっきり減ったしな。そろそろ活動拠点をそっちに移すのも悪くねえか」


 NPCオカシラがパーティーに入りました


「よ~し、いざ、ロマニアへ!」



 ロマニア行きの馬車に揺られてのどかな田舎風景を眺めていると、あっという間にたくさんの行商人が行き交う街へとつく。


「あっという間に着いたね」


「ゲームだから、何時間も馬車に揺られるわけにはいかないでしょう。多分、馬車からの風景がロード時間をごまかすための演出かな」


「ユーリちゃん、そんなこと言って……風情ないよ」


「ごめん、ごめん。それにしてもはじまりの街より露店が多い。商人の街って感じね」


「そりゃあそうだろう。ここは魔法都市アレキサンド、魔界都市パンデモニウム、円卓闘技場コロセウム、こうざ……黄金都市ゴルドランにそれぞれに近い。しかも、コロセウムに行けば王都ログレスは目と鼻の先にある。だから、ここにはいろんな都市の物産が一堂に集まるってわけだ」


「この国の重要拠点ってわけね」


「その分、金目の物を狙うコソ泥、人の匂いにつられてくるモンスターも多い。そうなると、ギルドだけではにっちもさっちもいかなくなって、しまいには冒険者独自で自分たちのギルドを造り上げた。これが今のクランの原点ってわけさ」


「昔は治安悪かったんだね」


「今も昔も変わんねえよ。強い光があるところには深い闇がある。かの太陽王でも照らせないくらいのな」


「その太陽王ってどんな人なんですか?」


「そうそう、人魔大戦って言われても公式さ……調べても人と魔王が戦った最大の戦いとして書かれてなくて……」


「俺が生まれる少し前に起こった戦争だ。詳しいことは知らん。マーサから聞いた話で良いなら話すぜ」


「聞かせて」


「大戦が起きた理由は今となっては分からんが、魔王と当時の王が戦い王側が犠牲を払いながらも勝利を収めた。太陽王はその時の王に仕えていた高名な騎士だったそうだ。だが、王側に魔王シンパの騎士が居たらしく、魔王との戦いの後に王に反旗を翻した騎士たちによる内乱が勃発。その騎士と王は相打ちに倒れ、最後まで生き残った太陽王がこの国を治めることになった。この魔王を討伐するまでを人魔大戦と称する者もいれば、その後の内乱を含めて人魔大戦と呼ぶ者もいる。このあたりはお偉いさんが勝手にやってくれって感じだ」


「王様がやられるほどの戦いで生き残るって相当な手練れか臆病者かよね」


「太陽王があっちこっちでドラゴンとかの強力なモンスターを戦っているのをみているから、前者だな」


「「ドラゴン!?」」


「そう、ドラゴン。ここでは見かけないが、ゴルドランからさらに奥の山脈地域に行けば竜の渓谷ってのがある。そこにはドラゴンがうようよと生息しているが、中には弱くて渓谷から追い出されるドラゴンもいる。そいつらが人里を襲い、暴れるわけさ」


「でも、弱いんじゃないの?」


「ドラゴンの中では弱いが、俺たちにとっては魔法も剣も効きにくい難敵。だからこそ、ドラゴン討伐した者たちにはドラゴンスレイヤーという最高の名誉が与えられるのさ」


「ドラゴンスレイヤーか……なんかカッコいいね!」


「うん。ドラゴン討伐イベがあったら、絶対行こう!」


「ははは。お前らがドラゴンを討伐するなんてあと10年はかかるぜ。さてと、ここがこの街のギルドだ。この爺さんに話しかければ、クランの登録ができる」


 白ひげのお爺さんに話しかけて、登録書に名前を書いていく。すると、とある箇所でぴたっと手が止まる。


「クラン名はどうしようか」


「私は何でもいいよ。デフォルトの噴水広場連合でも」


「う~ん、噴水、ファウンテン、スプリング……春、桜。連合、軍隊…………決めた。【桜花】で」


「そのワードで思いつくの特攻兵器の方なんだけど……」


「ははは、思いついちゃったんだからしょうがないよね」


「はたから見れば、そっちを連想する人の方が少ないだろうし、それでいいんじゃない」


「じゃあ、これで登録と」


 クラン【桜花】を設立しました。


「クランを設立した皆様にホーム購入のご案内を差し上げております」


「ホーム?」


 受付のお爺さんから、案内の紙を受け取り、じっくりと読む。そこにはこう書かれていた。


 1 フィールドからホームに一発で帰れるボタンが解放される

 2 ホーム内では鍛冶工房や植物の栽培ができる畑等が付属されている

 3 ホーム内では招待したプレイヤー以外立ち入りできず、安全にセーブやログアウトをすることも可能

 4 アイテムの倉庫があり、設定次第ではクランメンバーと自由に出し入れ可能


「帰還機能と倉庫機能は便利よね。私たちが素材アイテムを持っていてもしょうがないけど、LIZさんみたいな生産職がいれば、即アイテムを作ってくれるわけでしょ」


「持っていく手間が省けるってことだね」


「しかも、互いのログイン時間を合わせる必要もない。社会人のLIZさんと学生の私たちだと、ゲームする時間帯が違うし、今後そういった人をクランに入れるなら、できれば欲しい機能ね。えっ~と、ホームの購入金額は……安くても100万G!?」


「なにしろ、家屋付きですから。それくらいは頂かないと」


「しかも、すでに1軒購入済み……【Noble Knights】多分、Arthurのクランかな。ねえ、アイリ、お金ある?」


「余裕」


「俺から奪った金だがな」


「……よくそれで仲良くなれたわね」


 ユーリは呆れた顔で、ギルドから引き出したお金の入った袋をおじいさんに渡すのを眺める。そして、アイリがお爺さんから鍵を受け取るとカバンの大切な物の中に入ると同時にホームボタンが解禁される。


「ホーム行く前に、ユーリちゃんをクランに入れてと……」


「招待きた。これで……OKと」


 ユーリがクラン【桜花】に入りました


「リュウくんたちも誘っておいて……よし、ホームへGO!」


 NPCは連れていけないので、オカシラだけがギルドに取り残される。置いていかれた彼を冷めた目で見る人たちの視線がいたく、ちょっとバツが悪そうな顔をしながら適当な依頼を受けるのであった。

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