第144話 太陽を撃ち落とす者たち(後編)
キングたちはアイリの突拍子のない推理をおとなしく聞き、その可能性について考え始める。残り空白地域は地下を含めてだいぶ減っており、他のプレイヤーの探索情報も含めれば残る箇所に聖杯がある可能性はかなり低い。
「確かにアイリの意見は一考する価値はあるな」
「おいおい、マジかよ。いくら何でも飛躍しすぎだろ」
「ならば、逆に聞くが、聖杯はどこに隠されていると思う?」
「それはだな……」
さしものライチョウも黙り込んでしまう。未だ聖杯を見つけるヒントさえ見つかっていない以上、ここで探索の手法を大きく変えるのは悪くない考えだ。
「だが、どうやって宇宙に行く気だ? 東京にロケットはないだろう」
「ロケットはない。ならば、俺たちのスキル・魔法・技を組み合わせて疑似的にロケットを再現するしかない」
「そんなことできるのか?」
「忘れていないか。これはTRPGに近いゲームだ。現実ではできなくともそれらしい組み合わせをそれらしい理屈で実行すれば宇宙に上がれる可能性はある」
「それでその『それらしい理屈』は思いついたのか?」
「無論だ。まだまだ粗削りでクモの糸をたどるような可能性だが、たった一つの策は思いついた。作戦実行はそうだな、作戦の詳細な検討もある……日本時間22時、羽田空港で行うとしよう。この作戦の肝になるプレイヤーには詳細な作戦を知らせる」
「了解だ」
キングの指示書を見て、こんなことができるのかと不安に駆られるプレイヤーもいる中、作戦実行に向けて走っていく。すべてはこのイベントの完全クリアのために。
最低限のプレイヤーでガウェインを足止めしている中、数多のプレイヤーが滑走路に集結している。
「口寄せの術 火の鳥!リュウをつかんで」
「……ワイ、背中に乗りたいんやけど」
「すまない、僕たちでいっぱいなんだ」
火の鳥の上にはユーリ、アイリ、Arthur、ミミとぎゅうぎゅうに詰まっている。リュウが居られるのは足先くらいだ。
「それに作戦上の都合上、下面にいないと」
「わかっとるんやけどなあ……」
「その分、がんばってリュウお兄ちゃんを回復します」
「だいたいフレンドリーファイアやからダメージは受けへんけど、何かあったらよろしゅう」
「はい!」
周りにいるプレイヤーがアイリとリュウにしこたまバフを乗せ終わると、タイタンと合体したライチョウとドーピング薬をがぶ飲みしたキッドやLIZなどのパワー自慢のプレイヤーが定位置に着く。
「さてと、最初の一発は俺たちの出番だな」
「いくぜ、おっさん!」
「ブースター最大出力!1発限りのタイタニックインパクト!」
「ガイアクラッシャー!!」
「行くわよ、ギガントインパクト!」
「アイギス!」
アイギスのバリアに向けて近接職の渾身の一撃が叩きこまれ、空高く打ち上げられる。続いては空を飛べない魔導士や弓使いが空高く打ち上げられたリュウに向かって標準を定める。
「最大火力のトールハンマー!」
「狙い打つ必要もねえ。フルバーストショットだ!」
Aoiやエースをはじめ、プレイヤーたちの最大火力を受け止めたリュウは一部の反撃を跳ね返し、その反動でさらに加速しながら空高く打ちあがる。この様子はガウェインからも見える光景だ。
「ここで撃ち落とせば!エクスカリバー・ガラディーン!」
「させるかよ!」
GawainやLancelotが己の身を盾にしながら、その攻撃をそらす。足止め部隊は壊滅したが、リュウたちはガウェインの攻撃範囲からどんどんと離れていく。そして、上空で待機していたマサトやChrisたちがリュウたちの真下に着く。
「アルテミスアロー!」
「プロミネンスバーン!」
そのほか、にゃんにゃんクラブのテイムモンスターたちが攻撃を加えてリュウたちをさらに打ち上げていく。だが、大気圏から脱出するにはまだ速度が足りない。次は僕の番だとArthurが火の鳥から飛び降りて、聖剣を引き抜く。
「行くぞ、カリバァァァン!」
「来たで、反撃や!」
リュウによるカリバーンの反撃も組み合わさり、さらに速度を上げて飛翔していく。ぐんぐんと高度を上げ、リュウたちはついに宇宙へと飛び出る。
「真空は潜水スキルである程度無視できる。宇宙線は予想通り毒扱いみたい。すごい勢いでHPが減っている」
「わたしと鳥さんで回復しているうちに!」
「わかった。まずはアビスシャドー!【連続魔法】【高速詠唱】アビスシャドー!」
モルガンがやったように、宇宙に無数に分裂したアイリがロンゴミニアドを構える。周りが毒だらけであるならばロンゴミニアドは最大火力を叩き出せる。そして、地球にいる数多くの仲間からもらったバフを乗せたこの一撃はおそらく、このゲームで最大の数値を叩きだすに違いない。
「行くよ、儀典・星を貫く魔槍!!」
無数のロンゴミニアドが一つとなって巨大化したそれは太陽に擬態した聖杯の中心に向けて放たれ、そして打ち抜いた瞬間、太陽に黒いシミができていく。それを地上から見た者たちは皆既日食のようにも見える。
「太陽が消えていく……」
ガウェインから太陽による3倍補正がなくなり、ステータスが本来の想定された数値へと戻っていく。そして、作戦の成功を喜んでいるもつかの間、残り時間が半日程度しか残されていないプレイヤーたちはガウェインへと矛先を向ける。
「まだです。私にはまだエクスカリバーがある!」
最後の拠り所となったエクスカリバーとガラディーンの二刀流を振るいながら、プレイヤーたちを迎撃していく。
「背後が隙だらけだぜ!」
ジョーカーが切り付け、ガウェインにダメージを与えていく。多勢に無勢。味方のいない、文字通り裸の王様になった彼がいくら強かろうと隙は生じてしまう。ダメージを食らいながらも制限時間まで持ちこたえようと、必死にあらがっていくガウェイン。そして、現実世界で朝を迎えると同時に太陽を堕とした英雄たちが戻ってくる。
「残り時間5時間ちょっと!【吸血鬼化】で一気に行くよ!アビスシャドーからのヒュドラブレス!」
アイリがお得意の分身を出して、ガウェインに毒を浴びさせようとする。【ヒュドラ毒】の確率次第ではあるが、【アスタロトの加護】の効果も組み合わさり、ガウェインへの毒の付与が成功する。
「よし、成功!続いてデッドリーブレス!」
「その毒は焼き尽くす!ガラディーン!」
アイリが放った多数のデッドリーブレスをガラディーンで相殺する。だが、聖剣解放直後に起こる高着時間による隙は背後に回った彼女たちの仲間に攻撃をするチャンスを与えていた。
「トールハンマー!」
「迅雷の太刀!」
「プロミネンスバーン!」
「ギガントインパクト!」
彼女たちの攻撃を食らい、大ダメージを食らうガウェイン。それでもHPはまだ半分以上残っている。あとしばらくの辛抱だと言い聞かせて目の前のプレイヤーたちを葬って、攻撃の手を緩めさせようとする。だが、時間がたつにつれて、時間が足りないプレイヤーたちもその攻撃の激しさは増していく。
「残り3時間!」
「まだ行くよ!ヒュドラーー」
「させるか!エクスカリバー・ガラディーン!」
「おっと、ワイを忘れたら困るで!【鋼鉄化】」
エクスカリバー・ガラディーンを真正面から耐えようとするリュウ。これが日中であればモードレッド戦と同じく吹き飛んでいたかもしれないが、太陽を落としたことで常時夜状態。今のガウェインであれば、防御特化のリュウならば耐えきることができる。
そして、リュウが守り切ったアイリからヒュドラが放たれ、再びガウェインに襲い掛かる。残り時間が刻々と迫ってくる中、残り1時間を過ぎる。毒のスタックが順調にたまっていくも、ガウェインを倒すにはもう一撃、高火力の魔法をぶつける必要がある。
「タイタニックインパクトはさっき使ったからもうねえぞ」
「俺とマサトのおっさんの精霊魔法もな」
「おっさんではありません!」
「ってことは、残るは――」
「私と」「僕たちだけのようだ」
残ったArthurとアイリの必殺技は使用後の実質行動不可のデメリットが大きくトドメでしか使用できない。逆に言えば制限時間ギリギリで使うのであれば、そのデメリットを踏み倒せるといってもいい。残り時間を気にしつつ、プレイヤー一丸となってガウェインのHPを削っていく。
「残り時間1分!アイリ!」
「行くよ、これが私たちの最後の一撃!」
「僕たちの2年間の歩みを乗せる!」
「その一撃、跳ね退ければ――俺が勝つ!約束された勝利の焔聖剣!」
「「儀典・選択した勝利の魔槍!」」
プレイヤー全員の思いを乗せたロンゴミニアドがカリバーンの斬撃を受けて超加速していく。ガウェインのエクスカリバーガラディーンがぶつかり合うも、所詮は偽のロンゴミニアドとエクスカリバーには劣るカリバーンの合体技。モルガンのロンゴミニアド・ディープインパクトと比べても火力は劣る。残り時間を見ても約束された勝利を確信した時、ガウェインのエクスカリバーにヒビが入る。
「なに!?」
「「いけええええええ!!」」
ピシピシと音を立てて崩れていくエクスカリバー。それはモルガンが与えたダメージが今になって響いたのかもしれないが、かつての使い手であったアーサーがエクスカリバーに宿っていて部下の愚行を止めようとその身を砕いたようにも見える。
「アーサー王よ、私は……」
手にした聖剣を手放し、ロンゴミニアド・カリバーンに飲み込まれていく。そして、11時59分58秒、イベント終了のブザーがマップ全域に鳴り響く。
次回、最終回
新作(https://ncode.syosetu.com/n2732hz/)も投稿しますので、こちらも応援お願いします