第13話 本戦3回戦
アイリとステージ上で対峙しているのは剣士の金髪のお兄さん。年はアイリよりもやや上、大学生くらいといったところか。
「お手柔らかに頼むよ、アイリちゃん」
「こちらこそお願いします、Arthurさん」
試合開始のブザーが鳴り響くと同時に、雷を纏いながらArthurが突進を仕掛けてくる。
「紫電一閃!」
「シャドーダイブ!」
「その技は見させてもらっている、つむじ風!」
撒いていた種ごとアイリの身体が巻き上げられ、地面にたたきつけられる。その衝撃のせいか、種はきれいに消滅し、ステージ上には影となるものがプレイヤーしかない。それでも無いよりかはマシだと、2つの分身体を作り始める。
「カース、ポイズンショット、メンタルブレイク!」
「確かに分身との連携攻撃は強力だね。だが、対処方法が無いわけではない。スキル【連撃】!飛翔斬!!」
サブ武器の剣に切り替えたArthurは前後から襲い掛かる毒と呪いの球をスキルと技を組み合わせて、直接触れないように叩き落す。そして、万が一、武器から状態異常がつかないように手に持っていた剣をメイン武器の剣に切り替える。
「だったら、ポイズンミスト!」
「その技が一番甘いよ、旋風!」
風を巻き起こしたArthurが毒の霧を吹き飛ばしていく。
(今まで使っていた魔法もスキルもまるで通用しない……これがNo.1プレイヤーの実力!)
小手先の一手も通用しない相手に窮地に立たされる。残りMPもシャドーダイブが1発撃てる程度。どうせ負けるくらいならと開き直って、Arthurのが動くのを待つ。
「その表情、まだ諦めていないようだね。だったら僕が一番信用している技を使わせてもらう」
「来る……スキル【ギャンブラー】!」
「紫電一閃!」
「シャドーダイブ!」
「その技は既に見切っている!!疾風斬!」
背後から襲い掛かるアイリ。くるりと身体を翻してそれに向けて切りかかると、アイリが霧散する。
「偽物!? なら本物は……!」
「はああああああ!!」
アイリはArthurの背後にある影に隠れたのではない。自分の横にいた分身体という影に隠れていた。完全に意表を突かれたArthurは背後から短剣を握りしめられたアイリの攻撃をまともに喰らう!
「貴方は速いし。スキルも強い。ということは耐久面は低いはずです!」
HPゲージが半分を切っても、その勢いがおさまることを知らない。このイベント中、おそらく最初にArthurに大ダメージを与えるのがパーティーメンバーでもプロゲーマーですらないただの少女になると誰が予想しただろうか。
「スキル【外道】と組み合わせてのコンボ攻撃!これなら!」
「ああ、確かに見事だ。スキルと魔法の組み合わせなら僕より上かもしれない……でも、勝つのは僕だ!!スキル【不屈】!」
【不屈】:HP満タン時から即死級のダメージを受けた時、低確率で発動。HP1で耐える。1日1回。
一発逆転の手段をHP1で耐えられ、MPも尽きたアイリに、Arthurの攻撃を回避する手段は残されていなかった。そして、試合終了のブザーが鳴る。Arthurの勝利を告げて。
「今日は僕の運がよかった。その靴で毒にならなかったことも、試合の順番も含めてね」
「あっ、バレていたんですね」
ポイズンシューズ:攻撃を回避した際、ごく低確率で毒を付与
3連休最終日にLIZに作ってもらった紫色の靴。これを装備しておくと、分身体への攻撃も回避した扱いになっているため、相手に毒状態を付与できる。
運が悪ければ、Arthurがポイズンショットなどを切り払った時に分身体への攻撃判定となって、毒状態になってもおかしくはなかった。そうなれば、不屈が発動できずに試合に負けていたのはArthurだったかもしれない。
「装備の強化は一通り試していたからね。僕としてはキラービーの羽根を合成したほうが素早さが上がって好みだ」
「なるほど……よかったら、私とフレンドになりませんか?」
「構わないよ。今度は僕たちと一緒に戦ってもらいたいくらいだ」
Arthurとフレンドになりました
「ありがとうございます」
Arthurとフレンド登録したアイリは友達のユーリのもとに駆け寄り、その後のイベントを観戦する。優勝したのは下馬評通り、Arthur。その優勝までに致命傷となるほどのダメージを受けたのはアイリ一人だけだった。
そして、表彰式。Arthurの健闘を称え、太陽王と呼ばれる2本の剣を携えた騎士が彼にトロフィーを手渡す。兜をかぶっているため、素顔はわからないが、声の感じや立ち居振る舞いから若い男性のように見える。
「君たちの実力、そしてギルドを通じて君たちの誠実さをこの目に焼き付けさせてもらった。今の君たちなら、この世界でも生きていけると確信している。よって、交易都市ロマニアへの通行を許可する。これに伴い、各周辺都市にも君たちを歓迎するよう伝達しておこう」
太陽王の宣言と共に、アップデートの案内が届く。そこにはレベルキャップ並びにクランシステムの開放、そして、7月末に大型レイド【邪龍降臨】の開催、8月上旬に大型アップデートの案内が届く。
「これって……」
「まだ知らない街へ行って、みんなが、ううん、みんなで強くなるってことだね」
「始まりの街だけでも色々と回るところあるのに!?」
「梅雨のシーズンは家でゲーム三昧ですなぁ」
「勉強も忘れずにね」
「わかってるって。補習でレイドに出れないなんて私が困る」
イベントが終わってレベルアップした2人は今後のアップデートに思いを寄せながら、ログアウトするのであった。
アイリ Lv14
種族:エルフ
職業:魔法使い
HP28/28
MP96/76(+20)
攻撃:3(+4)
防御:3(+15)
知力:9(+15)
敏捷:5(+10)
運:5
残りスキルポイント:15
装備品
メイン武器:旅人の杖(知力+10)
サブ武器:ポイズンダガー(攻撃+8、ごく低確率で毒状態付与)
頭:旅人の三角帽子(防御+5、知力+5)
服:旅人のロープ(防御+10)
脚:ポイズンシューズ(敏捷+10、回避時にごく低確率で毒状態付与)
首:耐毒のネックレス
右手:魔力の指輪(最大MP+10)
左手:魔力の指輪(最大MP+10)
所持スキル
【状態異常耐性(中)】【状態異常成功確率アップ(小)】【闇魔法Lv1】【外道】【ギャンブラー】【富豪】【精神攻撃Lv1】【時間耐性(小)】【精神耐性(中)】【影操作】【急成長Lv1】【ジャイアントキリング】【呪毒】(【毒耐性(小)】)
所持魔法
【シャドーミラージュLv1】消費MP16
【シャドーアタックLv1】消費MP2
【カースLv1】消費MP4
【ポイズンショットLv1】消費MP4
【ポイズンミスト】消費MP12
【メンタルブレイク】消費MP8
【シャドーダイブ】消費MP24
【デッドリーブレスLv1】消費MP24