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毒毒影分身は最強です~状態異常特化の私はVRMMOを楽しむ~  作者: ゼクスユイ


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第118話 器用貧乏

 PVPイベントが終わった翌日、Aoiは元気なくテーブルに突っ伏していた。新しい魔法を覚えようとしていたアイリだったが、何か思い悩んでいるような様子の彼女をほっておくことができなかった。


「どうしたの、Aoiちゃん」


「はあ~、昨日のイベントで活躍してないの私だけでしょう」


「それを言うなら、私なんてほとんど城に籠っていただけよ」


「LIZさんは生産職だから活躍の場が違うじゃないですか。戦闘職なのにほとんど敵を倒していないし、アイリちゃんを守り切れなかったし、巻き添えで死んだ……役立ってない」


「そんなことないよ」


「そんなことあるの!」


 Aoiが力強くテーブルをバンと叩く。一気に空気が悪くなり、気まずい雰囲気となるクランホーム。はっと冷静になったAoiはうつむきながら立ち上がる。


「ごめん……一人にさせて」


「Aoi……」


 親友のChrisも連れて行かずにクランホームから出ていくAoi。彼女が向かった先はChrisから聞いたことのある竜の渓谷。オーディンの存在が明らかになり、フレキを召喚する魔法を覚えた以上、ここに何かある可能性は高いだろうと考えていた。


「……Chrisと一緒に行くつもりだったのになんで一人で来ちゃったんだろう」


 一人で何でもできる万能職と聞こえはいいが、器用貧乏でしかない赤魔導士。だったら転職すればいいと思うかもしれないが、Chrisとの思い出が詰まっているこの職業はそう簡単には手放せずにいた。ワイバーンに乗ってユグドラシルへと向かっていると、パトロールしていたフランと出くわす。


「ん? 今日はChrisと一緒じゃないのか?」


「フランさん、ご無沙汰しています」


「畏まらなくていいって言っているだろう。Chrisの友なら私の友も同然だ」


 こちらの暗い空気を照らすような笑顔を見せながら、強制的にパーティーに入ってくる彼女をみて、Aoiは少しばかり気が楽になった気がした。


「で? なんでChrisと一緒じゃないんだ。喧嘩でもしたか。それなら私が喧嘩のやり方の一つや二つ……」


「そうじゃないから!」


「だったらなんでだ。私に話してみろ。親しい間柄だと逆に話せないものってのもあるだろう」


「それはそうだけど……」


 NPCに話したところで何も解決しないとはいえ、彼女の言っていることは正しい。クランを作った時のリーダーとしての重圧、クラン統合の際に聞いた罵倒、周りとのコンプレックス……今まであったことを全て話した。


「――ということがあったんです」


 彼女の中にあったもやもやとした暗い感情をすべて吐き出したことで、心はずいぶんと軽くなっていった。


「どうだ、少しは落ち着いたか」


「……そうね。すっきりとした気分」


「あれだけ吐き出せばな。ところで、何しに来たんだ? 私に会いに来たってわけではないのだろう?」


「そうよ、ユグドラシルって北欧神話に出てくる木だから、オーディンと何か関係あるんじゃないかって思って調査に来たの」


「ああ、アイツか。昔はよく来ていたが、最近はめっきり見かけないな」


「そう……」


「落ち込むなって。せっかくここまで来たんだ。ユグドラシルの中でゆっくりと休むといい。それにじっちゃんなら何かしら知っているかもしれない」


「そうさせてもらうわ」


 フランの誘いもあり、里の中に入っていくAoi。相も変わらずただ広い空間のユグドラシルの中をワイバーンに乗って飛んでいく。部屋に入っていくと、長老のドラゴンが寝そべってくつろいでいた。


「珍しい客じゃな」


「聞きたいことがありまして……」


「話すがよい」


「オーディンが行きそうな場所ってわかりますか?」


「ワシにもわからんのう」


「そうですか、失礼しました」


「話はまだ終わっとらんぞ」


「えっ?」


「行方は分からんが、その昔、グングニルで自身の体ごと貫いたことがあってのう」


「オーディンの逸話の中でも有名な首つりの話ですね」


 北欧神話に出てくるオーディンはユグドラシルで首を吊り、グングニルのやりで自分の体を貫き、9日間の苦痛を耐える修行をしたことでルーン文字の解読方法を得ることができたといわれている。ゲーム世界でも同様のことをしていたらしいが、長老によればその先があるようだ。


「その修行の際、ユグドラシルに傷がついてのう。その部分が長い年月をかけてちょっとした空洞ができておる。オーディンがそこにいるかはわからんが、調べる価値はあるじゃろう」


「ありがとうございます」


 ユグドラシルの上部にある空洞の場所を教えてもらったAoiはさっそく、フランと一緒にそこへと向かっていく。本来ならば、空を飛ぶモンスターと遭遇するはずだが、フランがにらみを利かせているおかげで遠巻きに見ても襲ってくる様子はない。

 フランが外で見張りをするといって、一人にさせることから何かイベントでもあるのかと思いつつ人一人がようやく入れるサイズの穴をくぐると、そこには戦闘するのに十分な広さと一人の男性が瞑想していた。


「来たか」


「オーディン……ですよね」


「……悪いな、今の俺はハールだ。オーディンとして天界に戻るのは当分先だ」


「当分先ってことはいつかは戻ってくるってことですよね」


「まあな。まずは人類を救う。俺が天界に戻るのはそのあとだ。ルシフェルたちにはそう伝えてくれ」


「わかりました」


「あともう一つ。せっかく同じ赤魔導士が来たんだ。ポセイドンを倒したその実力見せてもらおうか」


「でも、それは私だけの力じゃないし……」


「言われてみればその通りだ。ルーンよ、彼の者と絆深めし者を呼び出せ!」


「うわっ!?」


「はいを選んだけどなに!?」


「Aoi、ここは?」


 アイリ、ユーリ、Chrisの3人がオーディンのルーンによって飛ばされてAoiのもとにやってくる。事情をいまいち飲み込めないが、明らかにボス戦の雰囲気を漂わせる場所だけに武器を構える。


「少々人数が足りないが、実力を見る分には十分だろう。久しぶりに戦士として戦わせてもらう。ルーンよ!」


「【ウェポンチェンジ(盾)】!」


 まずはオーディンが小手調べと言わんばかりで赤いルーン文字で炎を飛ばしてくるのをAoiが防ぐ。


「今度は私たちの番、ヒュドラブレス!」


「多重手裏剣!」


 本命である神性特攻の毒に回避対策の弾幕、魔法攻撃と物理攻撃。両方とも無力化するのは困難な二人の攻撃に対し、白いルーン文字が浮かび上がって透明な障壁を作り出す。すると、魔法攻撃である毒は浄化され、手裏剣だけが通り抜ける。そして、手にした槍をくるくると回転させて手裏剣を弾き飛ばす。


「私たちの攻撃を防いだ!?」


「その程度の攻撃は効かん。ドラウプニル!」


 黄金の腕輪を身に着けたオーディンがAoiが構えている盾を殴りつけようとする。


「レッドエンチャントガード!」


「ルーンよ!」


 茶色のルーン文字が光りだし、オーディンの腕を強化してAoiの盾を殴りつけるとひびが入る。


「防御バフをかけたのにこれだけの威力……」


「なぜ、攻撃を防ぐ?」


「えっ?」


「俺と同じ赤魔導士ならば避けるという選択肢があったはずだ」


「それは……」


「答えが出ぬようでは器用貧乏のままだ!」


「レッドエンチャントスピード!」


 足元に浮かび上がった青いルーン文字を見て、Aoiがその場から離れた瞬間氷の塊がそこに現れる。もし、あの場にとどまっていたら氷漬けにされていたかもしれないほどの巨塊だ。


「物理しか効かないなら、ダークウェポン!」


「乱舞の太刀!」


「誰が魔法しか無効できないって言った」


 紫色のルーン文字が輝くと黒いバリアが表れて二人の攻撃をはじき返していく。弾き飛ばされたユーリを回復役に徹しているChrisがポーションを使って癒す。


「魔法も物理も聞かない相手って厄介にもほどあるでしょ」


「うん。【連続魔法】を使ってもダメージが与えられないなら意味がないよ」


「でもさっきはバリアを通過した手裏剣を弾き飛ばしていました。もしかすると同時に2つのバリアは晴れないのでは?」


「OK、Chris。その手で行こう!」


 Aoiが前に出て予備の盾を構えながら突っ込んでいく。そんな彼女の様子を見たオーディンが舌打ちしながら、ルーンの炎でAoiを足止めする。


「烈火の太刀!」


「わざわざ攻撃を受ける筋合いはないな」


「アイリ、今!」


「カースインフェルノ!」


 黒いバリアに阻まれている間にカースインフェルノがオーディンに襲い掛かる。いくら彼の槍さばきがすごかろうが、あたり全体を焼き尽くすほどの炎を防ぐことはできない。それを防ぐには白いバリアを張らざるを得ないが、そのときは対応力の高いユーリの刃が彼の喉元に届く。


「悪くない攻撃だが、俺には届かん」


「白いバリア!?」


「同時展開とかあり!?」


「俺のルーンは異なる属性であれば同時に発動できる」


 またしても二人の攻撃が無力化される。手加減でもしているのか攻撃自体は激しくないものの、鉄壁の二重障壁を突破することができない。


「私が時間稼いでいる間に作戦を――」


「そんな猶予を与えると思ったか!」


 複数のルーン文字が浮かび上がり、頭上から降り注ぐ氷柱、正面からくる炎の竜巻と電撃、Aoi一人では自身を守るが精いっぱいで仲間を守り切れないほどの攻撃が襲い掛かり、アイリ、ユーリ、Chrisが深いダメージを追ってしまう。


「みんな!」


「これでお前一人だ」


「うっ……」


「仲間はもういない。覚悟を決めな」


(覚悟って何よ。アイリちゃんもユーリちゃんもトッププレイヤーなのに手も足も出なかったのよ。私が勝てるはずがないじゃない)


「Aoi、頑張ってください」


「ちょっと麻痺食らっているから」


「解けたら助けに行くよ」


(さっきの攻撃見たらわかるでしょう。今の私たちに勝てるわけないのに……)


「どうやら仲間は折れていないようだ。それでお前は諦めるのか。その程度の覚悟であれば一生器用貧乏のままだ」


「ああ、もう!みんな好き勝手言って!」


「Aoi……?」


「ああ、もうヤケよヤケ!相手が万能の神様だろうとやってやろうじゃないの!【ゲリ&フレキ召喚】!レッドエンチャントスピード!【ウェポンチェンジ(槍)】」


「……ふっ、ずいぶんと遅かったな」


 待ちわびていたかのような笑みを浮かべながらオーディンは物理無効の黒いバリアを張る。黒いバリアに阻まれる2匹の狼の爪とAoiの槍。


「だったら【ウェポンチェンジ(杖)】!レッドエンチャントインテリジェンス、ギガサンダー!」


「その程度では二重障壁を破ることはできない」


 一層目を突き破った雷が二層目の白いバリアで防がれる。先ほどと同じ光景だというのに彼女の瞳にはあきらめた様子はない。


「【ウェポンチェンジ(剣)】、レッドエンチャントパワー、サンダースラッシュ!」


 二層目を剣で突き刺し、貫通した穴を広げるかのように雷を纏った剣で切り裂いていく。ようやくとらえたオーディンに向かってAoiが突撃する。


「二重障壁を破ったお礼だ。受け取ってくれよ、グングニル!」


 それはポセイドン戦で見せた一撃必殺の槍がAoiに向かって襲い掛かる。レッドエンチャントガードをかけて耐えようとするも、避けられない死が待っている。だが、それでも彼女は勝つことをあきらめない。


「ゲリ、フレキ!」


「おいおい、元の飼い主に嚙みつくのかよ。こいつらをどうにかする前に……と」


 Aoiの腹にグングニルが刺さる瞬間、彼女の体にルーン文字が刻まれる。そして、グングニルが突き刺さった彼女はユグドラシルの内壁に縫い付けられるも、ルーンによってHPが1だけ残る。


「Aoi!」


「安心しろ、死んではいない」


 ChrisがポーションでAoiを回復させているのをみながら、オーディンは引っこ抜かれたグングニルをしまう。これ以上、戦うつもりはないという彼なりの意思表示なのだが、アイリとユーリはまだ臨戦態勢だ。


「安心したまえ。俺に攻撃する意思はない」


「本当に?」


「本当だ。それにユグドラシルでグングニルに貫かれることは彼女にとっても大切なことだ」


「あいたたた……」


「大丈夫、Aoiちゃん?」


「大丈夫よ、腹下した時くらいの痛みだったから」


「エジプトで給水塔にたたきつけられた人みたいになっていたけど、それくらいの痛みで済むんだ」


「そのときは時計を壊さないとね」


「ボケるくらいの余裕があるなら大丈夫しょ」


「まあね。注意画面が出て何事かと思ったけど、おかげで新しいスキルも覚えたから結果オーライ」


「そいつは重畳。こいつは赤魔導士専用のスキルだ、大事に使ってくれよ」


 Aoiはスキル【ルーン魔術】を覚えた

 習得魔法に変化があるため、一部の習得した技・魔法をスキルポイントに変換します

(変換したスキルポイントはステータスに振ることはできません)


「魔法は覚えなおしになったけど、あまり使わなくなった下級魔法を中級や上級に変えれると考えれば悪くないかも」


「よかったね、Aoiちゃん」


「うん!ここまで来たら赤魔導士、極めてやるわよ!」

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