第10話 イベント開始
中間テストも無事に終わり、アイリはゲームにログインしていた。今日はゲーム初の大型イベントが開催されるからだ。
はじまりの街の噴水広場前で数多くの人たちが集まる中、このゲームのマスコットキャラクター『ちびドラ』が上空を飛び回る。
「今日は集まっていただき、ありがとうドラ。なが~く話すと、早く始めろといわれそうだから、さっそくルール説明に入るドラ」
まずは予選。
魔物のいない特殊な森の中でのプレイヤーによるバトルロワイヤル。
戦いになれていないプレイヤーでも残り32人になるまで逃げ切ることができれば、本選に出場が可能だ。
タイムオーバーになっても32人以上生存した場合は、キル数が多いプレイヤーから順に32名になる。
本戦は1on1の真っ向からの対戦。さまざまなスキルと技を使って勝ち上がろう!
「それではゲームスタートドラ!」
広場に集まっていたプレイヤーたちが、普段のパーティーを組ませないようにランダムな場所に飛ばされる。
「さてと、どうしようかな……」
「いきなりプレイヤー発見、幸先が良いぜ」
強面なドワーフのオジサンが持っている大斧を軽々と持ち上げ、突進してくる。
「メンタルブレイク!」
「!?」
「動きを止めてから、シャドーミラージュ!シャドーアタック!」
ポイズンショットとカースが合計6ヒットした彼が耐えられるわけもなく、その肉体を消滅させていく。
その様子を影から盗見していた男性5人が、一斉に襲いかかる!
「1対1は無理でも」
「徒党を組めば!」
「ポイズンミスト!」
「毒の霧!?しかも周りがはゃ」
「毒消し使ってもまたかか……」
足を止めて毒状態を消そうとした2人が脱落。
「せめて、貴様だけでも道連れに……!!」
「シャドーダイブ!」
「消えた!? 奴はどこに……ぐふっ!!」
影の中に隠れたアイリを見つけることができず、毒のスリップダメージで倒れてしまう。
木の影からにょきりと現れたアイリはポーションを飲んで一息入れる。
「いきなりだもん、ビックリした。補填で貰った【呪毒】のスキルが無かったら危なかったよ」
【呪毒】:呪い・毒の効果を上げる
「それにしても、木の影も利用できるんだね。ということは……シャドーミラージュ!」
木々の影にむけてシャドーミラージュをすると、目の前に無数の分身体ができる。
「すごーい。だったら、こうすれば……ポイズンミスト!!」
無数の分身体がポイズンミストを放ち、森の中を毒の霧で覆い隠していく。魔物が居ない静かな樹海は一転して腐海になった。
「なんだ、これ?」
何も知らずに歩いていたエルフのプレイヤーが突如流れてきた毒の霧に触れると、急激にHPが減り始め倒れてしまう。それを近くで見たプレイヤーが我先にと毒の霧から逃れようと逃げ始める。それを追うのは影から影へと伝って移動していく分身体。自分の背後に一撃を喰らったプレイヤーは毒になり、倒れる。
「やられてたまるか!ファイアーボール!!」
分身体を倒す魔法使い。だが、倒したと同時に毒状態になるのをみて驚く。
「こ、攻撃を受けてないのになんでええええ!?」
毒に関する魔法の話は聞いてなかったこともあり、魔法使いの彼は毒を消す手段を用意しておらず、あえなく退場する。
あっちこっちで阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら、逃げまどう一般プレイヤーたち。冷静さを欠いている彼らを上位プレイヤーは絶好の狩場と言わんばかりに倒していく。
「Arthur、このあたりが魔法の範囲外みたい」
「Merlinがそういうなら間違いない。あれの原理がわかるかい?」
「分身が毒の霧を吐きながらエリア内を移動。プレイヤーから離れすぎたら駄目なのか分身体はエリアの奥まではいけないみたい。事態の中心部に行けば、この騒動を起こした犯人が分かるかも。どうする?」
「あってはみたいけど、今は生き残ることが先決だ」
「良くも悪くもエリアの中心部で毒を巻き散らかしているから、外周部で待っていたら簡単に倒せるものね」
「弱っている獲物を横取りするのは騎士らしくないが、これも戦い方の一つだと思ってくれ!」
言い訳をしながら、プレイヤーたちを倒していくArthur。
他にも、彼と同じく思考をしているプレイヤーも多数おり、彼らの活躍で次から次へとプレイヤーたちの数を減らしていく。
「きっとこれはアイリはんの魔法の仕業やな」
「リュウ、知っているの?」
「さすがにイベント前に言いふらすのはやめたけど、範囲魔法でモンスターを倒すの見たんや」
「またとんでもない魔法を隠していたわね」
「とにかく分身体が見えたら逃げる。攻撃は当たらんようにする。それが鉄則や」
「ここまで逃げたら分身体は追ってこないみたいね」
「反撃開始や」
くるりと反転し、リュウとユーリが逃げてくるプレイヤーに攻撃を仕掛ける。
「あの魔族かてえぞ!」
「盾の二刀流なめたらあかんで!シールドアタック!」
「なんで、こっちの攻撃が当たらないんだよ」
「動きが単調だからね!ソニックスラッシュ!」
2人の攻撃で吹き飛ばされ、追いついてきた毒の霧まで吹き飛ばされ、そのHPを無くす。もはや地形ギミックの一環と思って戦っていた。
そして、BEST32が決まった瞬間、試合終了のブザーが森の中に響き渡る。
「本選出場、やったね!」
アイリは上空にいるちびドラに勝利のVサインを決めるのであった。