第108話 三大天使降臨(Part3)
ミカエルが向かった先は浮島がある方面から大きく外れ、眼下には海が広がり、MAP上でも何もない場所。よほどの物好きでもない限り、誰も来ないであろう目的地にたどり着くと、スピアで何もないはずの空間を貫く。すると、空間にひびが入り、亀裂が生じる。その中へと入っていくミカエルの後を追いかけ、アイリたちも入っていく。
「大きな神殿!」
「ルシフェルが居たのと同じくらいかな」
「庭とか含めたらそれよりかはもっと広いわ」
「この女の人の像がアテナっていう神様なんか」
「様をつけろ。それにアテナ様の美貌は石像ごときで表現できん」
「それは楽しみやな」
「鼻の下のばしたらあかんで」
「誰がのばすかい。2次元と3次元の区別くらい出来とるわい」
「そう言ってられるのも今の内だけだ」
「どういうことや?」
ミカエルと一緒に神殿の奥の部屋の中へと足を踏み入れると、そこには若き乙女の神、アテナの姿があった。その美しすぎる美貌の前に【桜花】一行は言葉を失ってしまうほどだ。
「ミカエル、顔を上げなさい」
「はっ!」
「貴方はどんな理由があれ、勝負に負けました。敗者がたどる末路はご存じですね」
アテナが懐からミカエルに向けて短刀とさやを投げ捨てる。美術品ともいえるような美しさ、そして、大理石の床にさくりと刺さる切れ味をもつ刃を見て、一行は嫌な予感をする。
「いやいや、いくらなんでもたった1度負けたくらいで自害はないやろ!」
「うん、そうだよ」
「あら? 私がいつ自害しろと言ったかしら」
「そうだ。一度、この剣を抜いてみるといい」
「抜けと言われても、こんな短剣簡単に……んんんん!? なんや、これ!」
「関西人のノリはいらないわよ。これくらい簡た……なに、これ。地球を引っ張ているみたい」
「わたしも触ってみたいです」
「私も」
【桜花】のメンバーが引っこ抜こうとしても、あまりの重さにピクリとも動かない。さやならばと思ったが、こちらも同じだ。そんな短剣をミカエルがふんと力を込めて引き抜き、投げ捨てられたさやに収める。
「驚いたかしら。その短剣は300kgの黒鉄を魔法で凝縮したの。さやも併せたら500kgくらいかしら。それをもって神殿回り100周ね。あまりお客様を待たせないように」
アテナに命じられたようにミカエルは神殿の外を走り始める。500kgの重りは彼女でも相当重たいらしく、汗が噴き出ている。
「ただの重しを短剣にする必要あるの……」
「趣味よ!」
「趣味なんだ。でも、ギリシャ神話で鍛冶といえばヘパイストスのイメージがあるんだけどなぁ」
「あの人の鍛冶スキルは目を張るものがあったので、時々ですが、彼に依頼したり、習うこともありましたよ。彼が作ったオリジナルには及ばないとはいえアイギスの盾が破られるとは思いはしませんでしたが」
「オリジナルのアイギスの盾ってそれ以上なの!?」
「わたしの【神の奇跡】でパワーアップしたLIZお姉さんでも壊せていたかわかりません」
「そうね。あのステータスアップは異常なくらいまであったから、偽物でも普通状態だとシールドブレイクしても壊せなかったでしょうね」
「そう考えると、オリジナルやなくてよかったちゅう話やな」
「ふふふ、レシピはありますが直に教えてもらった私ですら再現不可能。彼女の盾の修理もありますし、劣化コピーになると思いますが、そこの鍛冶師にアイギスの盾のレシピを教えてあげますよ。力無き者を看病してくれた貴方たちなら、この力を正しく扱えるはずです」
LIZは【アイギスの盾(偽)】のレシピを手に入れた
「手に入ったのは良いけど、素材の数が膨大だわ。新素材も集めるとなると、次のイベントまでにつくれるのは1個くらいじゃないかしら」
「せやったら、ワイが装備したいわ」
「構わないわよ。私が持つより、リュウくんが持った方が活躍できるでしょう」
「ありがとうな。その分、素材集めがんばるで」
「雲海のうろこを集めに今度は南に――」
「その前に!エレシュキガルさんの依頼が先だよ」
「あっ……忘れていた」
「もう。ユーリちゃんは目移りしやすいんだから」
「貴方たちがいるなら冥界も良い意味で騒がしくなりそうね。南に行くのであれば、私の頼みも聞いてくれるかしら」
アテナからの依頼というクエストが表示され、受注するかどうかのボタンが現れる。どうやら、このクエストはクランメンバー全員が参加するレイドイベント方式のようだ。どんな依頼だろうと、断る理由もなく、リーダーであるアイリは「はい」を選ぶ。
「よかったわ。実は南にはポセイドンと臣下のガブリエルがいるのだけど、人間への扱いがひどくて見るに堪えないのよ」
「ルシフェルさんの首輪よりもですか?」
「私刑に使えるのは問題だけど、まだ可愛げはある。でも、こっちは死人も出始めているし、早々に止めないと被害は増える一方だわ」
「でも、ポセイドンと言えばアテナさんと同じギリシャ神話の神。アテナさんなら止められそうだけど……」
「大神ゼウスから私たち2柱に過度の相互干渉を控えるよう命を受けているの。だから、こうして協力者であるミカエルを遣わせているのよ」
「ギリシャ神話のトップから言われたなら、仕方ないか……」
「というわけで、私が頼みたいのは奴隷になっている人の救出よ」
「ポセイドンの討伐じゃないの?」
「今の貴方たちでは到底太刀打ちできません。主神クラスの手助けがあれば話は別ですが」
「主神か……同じ神同士ネルガルに頼んでみるっているのはどう?」
「良いね。ネルガルさんなら助けてくれた人を保護してくれそうだし」
「今のネルガルだと力不足よ」
「どうしてですか?」
「あの人、本来は死を司る太陽の神、たとえポセイドンと言えども無傷とはいかない。でも、今は生を与えるために神としての権能のほとんどを封印し、堕天使まで堕落させることで、その性質を反転させているのよ」
「つまり、ものすごく弱体化していると」
「そういうこと。私たちを派遣したゼウスは仲裁するつもりはないし、ルシフェルに任せっきりにしているオーディンはどこへ行ったのやら……困ったものね」
アテナから色々と情報を聞き出しているユーリは、メインストーリーに関わりそうな神話上の人物を出しすぎではないかと思うほどだ。それとも、今は高難易度エリアとなっている場所を通常レベルまで下げるギミックがあるのかと勘繰りしてしまう。そんなとき、罰のランニングを終えたミカエルが戻ってくる。
「心配するな。そのときには私も一緒に戦う。相手がポセイドンであろうと、我が槍で貫くだけだ」
「……ミカエル、ここに偶然もう1本剣あるから、それをもってもう100周しなさい」
「戦に備えて鍛錬しろということですね、承知しました!」
アテナから剣を受け取ると元気よく外へと飛び出していく。それはもう鉄砲玉という表現が正しいくらいに。そんな彼女を見たアテナは軽く頭を押さえる。
「ちょっとあの子、素直なんだけどオツムが弱いのが玉に瑕なのよ。というわけで、あなたたちが救出作戦を始めると同時にこちらもミカエルを送ります」
心強い援軍を得たところで、アイリたちはエレシュキガルからの依頼を果たすために一度浮島へと戻っていく。
どっさりと溜まった天界の土をエレシュキガルに渡して、畑の土に撒いていくとしなびれた苗が青々した元気なものへと変わっていく。
「土を入れ替えるって聞いていたから、てっきり土を全部どかしてから入れ替えると思っていた」
「私も」
「ただ撒いているように見えるかもしれないけど、汚染された冥界の土は別の場所に飛ばしながら飛ばしていたわ。なんたって、冥界の女主人。冥界にあるものなら私の手中にあるも同然」
「すごい」
「ほめても何も出ないわよ。これで最低限の兵糧は何とかなりそうね。でも、戦をするにはまだ不十分。地上・魔界・天界に関係なく食料や武器があるなら、こっちに売ってくれないかしら。報酬は弾むわ」
「ダンジョンで手に入れた他職の装備品でも売ろうかな。アイリは?」
「う~ん、ダンジョンにあまり入ってないから余剰な装備品ってないんだよね。だから、果物でも渡そうかな」
エレシュキガルに自分のもつアイテムの一部を渡すと、通常の売却価格に加えて冥界ポイントがたまる。どうやら、たまったポイントと引き換えにスキル書を含む各種アイテムと交換できるようだ。スキル所までのポイントはまだ遠いので、より一層探索を頑張らないと思いながらも、アイリはログアウトする。すべてはこの期末テストを乗り越えてからだ。




