第9話 フレンドと発掘
ゲームの後、愛理はログイン不可時間を利用して、悠里と一緒に遅めの昼食と勉強を教えていた。ゲーマーの彼女の性格をよく知っているので、このまま放っていたら宿題を忘れるに違いないと思ったからだ。
「はあ~、ようやく宿題終わった」
「もうこんな時間。早く帰らないと」
「ちっちっちっ、むしろこれからが本番でしょう。せっかく持たせてきたゲームが無駄になるじゃない」
「結構重いんだよ、これ」
紙袋に入れたずっしりとした感触を感じながら、ゴーグルを取り出す。
「パジャマは私のを貸してあげる。おばさんには私から言っておくから」
「しょうがないな」
「最近は物騒だからねえ。ゲームでもPKとかあるし」
「PK? サッカーでもするの?」
「プレイヤーキル。他のゲームだとマップ上でプレイヤーを倒すとアイテムがドロップするから、プレイヤー同士が戦って殺し合う。これはまだマシな方で、中には日常のストレスを発散するためとかで弱い者いじめをする悪質なプレイヤーもいるから、PK行為自体嫌っているプレイヤーが多いの」
「そんな人たちもいるんだ。気を付けないと」
「まあ、このゲームだとアイテムドロップしないし、NPCからの好感度が大幅に下がるから、PKする旨味もない。よほどの快楽PK犯でもない限りはそういうことをしないんじゃないかな」
「そうなんだね」
「それにやりすぎると運営からBAN、アカウントを消されるからね。お風呂入ったら、ゲームしよう」
そして、入浴タイムも終わり、二人がゴーグルを装着してゲームの世界へとログインする。
「ユーリちゃん、今日は何しようか」
「そうね……おっ、この時間にログインしている。私のフレンドの紹介でもしようかな」
「じゃあ、私も……ログインしているみたい」
「ひとりずつ見せ合いっこで。ギルド前に集合……と」
それぞれのフレンドに個人チャットをうつと、二人ともOKと返事がくる。
ギルドの近くで待っていると、シスター姿の小さな女の子がひょこひょこ歩いてきて、ユーリにお辞儀する。そして、彼女から遅れること数分、リュウが到着する。
「二人そろったし、自己紹介しようか。まずは言い出しっぺの私から。私はユーリ、盗賊をやっているわ」
「ミミです。まだレベル低いけど、僧侶をやってひましゅ……」
「恥ずかしからんでええで。失敗はよくあることや。ワイはリュウ。職業は戦士、つーかタンクやな」
「最後は私だね。私はアイリ。見ての通り魔法使いだよ」
「うん。職業バランスも良くて結構。最大6人まで組めるけど、今日はこの4人で平原の奥にある『はじめての鉱山』に潜ろう」
「確か、ピッケルとか持っていると生産用アイテムを採取できるんやったな。買いにいくから、少し時間ええか」
「そこは心配しなくても大丈夫。私たちもヘッドライトとか買わないといけないから」
「生産ってなに?」
「いろんなアイテムを使って武器とかアイテムを作ること。鉱山で手に入るのは武器や防具、フィールドだとアイテム関連の素材が落ちやすいかな」
「時間と手間がかかる分、店売りの武器よりも強力や。それにドワーフを選んでいると、生産に関するスキルを覚えやすいから、自分で作るのもアリやで」
「すごい。そんなのがあったんだね」
「アイリは金にモノを言わせれるけど、こっちは金策もかねて素材をコツコツと集めないとすぐに資金切れ。それに鉱山には高価な宝石がごくごく低確率で出るらしいから、金策に走った上位プレイヤーもいる。トラブルだけはおこさないように」
「はい、ユーリお姉ちゃん。気を付けます」
「よし!本当は行くついでに洞窟のクエストを受けてみたかったけど、さっき見たら売り切れ。装備を整えてからすぐレッツゴー!」
「「「おー!」」」
雑貨店でアイテムを整えた一行は、元気よく鉱山へと向かっていく。先頭にいるアイリとユーリのレベル差と平原にいるモンスターのレベル差に開きがありすぎるせいか、近寄ってこない。そのため、鉱山の入り口まですんなりと行くことができた。
「攻略組の人によると、この中にいるモンスターのレベルは8~10。リュウ、森の中には入ったことはある?」
「他パテの話でもええなら、ゴブリンを倒したことあるで」
「ゴブリンってことはレベル6~7のモンスターなら大丈夫ってことだね。それよりちょっと痛いから気を付けて」
「まかせとき。一応、敏捷捨てて防御に振っとるさかい、ダメージは小さいはずや」
「油断大敵。ミミちゃんはタンク……リュウの回復お願い」
「リュウお兄ちゃんの回復頑張ります」
「私は?」
「後方支援。昨日のダンジョンと同じで防御が高いモンスターが多いみたいだから、毒とかのスリップダメージが有効そう」
「うん。私、頑張るね!」
「でも、シャドーダイブはいつでも使えるようにMPの管理は気を付けて。それじゃあ、生産アイテム掘り当てに行くよ!!」
ユーリの号令と共に洞窟の中へと入っていく。雑貨店で買ったヘッドライトをつけながらしばらく歩いていくと、どこからともなく飛んできた石がアイリの頭部に直撃し、HPを減らす。
「敵モンスター、でもどこに?」
「こういうときはワイの出番や。スキル【注目】!」
リュウがヘイトを稼ぐスキルを使い、こちらへとのこのこと現れる岩に擬態できるロックリザード。正体が割れたなら、恐れるものは無い。
「ソニックスラッシュ!」
「ポイズンショット!」
リュウに気を取られているユーリが忍び寄り、鋭い刃でロックリザードに傷をつけ、アイリが傷口から毒を注入。もがき苦しんでいるロックリザードをリュウが持っていた盾で、さながら猟奇殺人の現場かと思うほど何度も殴りつけて倒していく。
「ふう……硬すぎやろ」
「今日はあまり深いところまで潜らないほうがよさそうね。ミミちゃんとリュウのレベリングしながら、採掘ポイントに向かいましょう」
「はーい」
次はロックゴーレム。昨日戦ったものよりレベルは高いが、うすのろな動きは相変わらず。
(昨日は私が引きつけていたけど……)
「こっちにこいや!」
一発殴るとロックゴーレムが怒りだし、リュウと殴り合いをする。防御に振っているとはいえ、ゴーレムの攻撃を受けるたびにHPが目に見えて減っていく。
「リュウお兄ちゃんにヒール!」
だが、減った分だけ回復しようとミミが懸命にヒールをかけていく。
「カース!」
「ソニックスラッシュ!」
2人の猛攻にさらされながらもリュウへの攻撃をやめない。もう意固地になっているかのようにさえ見えるほどだ。
「ここまでタゲを取ってくれるとこっちは周りの警戒だけで済むのが楽。ヒールヘイト、攻撃によるヘイトがあるのによく自分だけにヘイトを向けられるわね」
「ワイのスキル【チンピラ】はヘイトを増大させる効果があるんや。対人では役に立たないけど、ダンジョン攻略には有能……ただNPCに嫌われる1点を除けばな!!」
途方に暮れていたときを思い出しながら、カウンター気味にゴーレムを殴ると、ようやく倒れてくれた。そしてさらに奥へと進み、行き止まりになっている場所にたどり着く。そこには何人かのプレイヤーがあちこちでピッケルを振るっていた。
「ここが採取ポイントよ」
「なんか水晶みたいなのが生えている」
「この水晶にピッケルを振るうと……」
石ころを手に入れました
「こんな風にアイテムが手に入るってわけ。宝石は換金アイテムだけど、この階層だと出ないかな」
「よし、じゃんじゃん掘りまくろう」
カンカンと掘っていくも、そのほとんどが石ころと落胆していた。とはいえ、鉄鉱石のような生産アイテムも混ざっており、鍛冶を利用するには十分な量を発掘した。
「アイテム欄が石でいっぱい」
「ほとんど使い道無いけどね。さてと、そろそろ帰りますか」
「あの……すみません」
申し訳なさそうな細い声で話しかけてきたのは一人の大人の女性。重たそうなハンマーを軽々と背負っているところを見るにドワーフなのかもしれない。
「何かありましたか?」
「実はパーティーからはぐれちゃったみたいで……外までエスコートしてくれませんか?」
「別に構いませんよ。別パテだとヒールがかけられないので、一度、そのパーティーから抜けてこちらのパーティーに入っても構いませんか?」
「わかりました。えっ~と……」
「リーダーがユーリになっているパーティーです」
「わかりました……これかな」
LIZがパーティーに入りました。
「LIZさん、お願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
一行が出口に向かって歩いていき、道中で何度かモンスターと遭遇するも無事にたどり着く。LIZ本人のレベルも低く、ここで放り出すわけにもいかず、はじまりの街まで一緒に帰ってきた。
「ありがとう。まだ子供なのに強いわねぇ」
「大人も子供も関係ないのがゲームの良いところ。それに強くても弱くても楽しめたら勝ちってことで」
「そうねよ。それにしても、私を置いて行った連中にきつく文句を言っておかないと!」
個人チャットで話しかけているLIZ。後は本人たちの問題だけだと思っていたユーリは今日の目的である鍛冶をしようとNPCの下へと向かおうとしたとき、後ろからLIZの喚き声とユーリの服にしがみつこうとする。
「私、パーティーから追放されましたぁああああああ!!これじゃあ、生産ができない!!たちゅけてえええええ!」
「何があったんですか!」
「私よりも強い生産職が見つかったとか言われて見放されました。どうせ社会人ですよ。ログインできるのは夜だけだもん。レベルが低くなるの当然じゃない!」
「LIZさん、落ち着てください」
「ぐすん……」
「ここであったのも何かの縁。時間帯があえばの話やけど、今後もワイらと一緒にパーティーを組まへんか?」
「いいの? 私、弱いわよ」
「生産職は生産職らしい場所で戦ってもらわないとね」
「ユーリちゃんだけが私の信じられる仲間よ!」
「ははは、私たちもいるんだけどな……」
アイリのつぶやきも聞こえぬまま、ユーリを逃さないようにぎゅっと抱きしめる。そして、落ち着いてきたところで、LIZはお礼としてユーリたちの鍛冶をしてくれることとなった。
「鍛冶と言っても装備の強化と装備の作成の2種類があるわ。まずは装備の作成からやりましょう」
ユーリから生産アイテムを受け取ったLIZは炉の中にそれらを放り込んでドロドロに溶かして、液状のものを型に流し込む。そして、冷却して剣の形になったところでハンマーでたたいて、整えていく。
「剣を叩くとき、ぴかっと光ったタイミングでたたくとうまくいく。タイミングがピタリとだったら最高品質のものができるわ。私がレベルが低いから最高品質と言ってもそこまでだけど」
トンテンカンと叩いていき、冷却すると黒光りする小さな短剣ができた。
初心の短剣+2(攻撃+4)
「攻撃の補正が2も高い。1個上の普通シリーズの補正値が+5だから、それと同等よ」
「喜んでもらってうれしいわ。あと装備の強化だと素材次第になるけど、補正値だけでなく、特殊能力がついたりすることもあるみたい」
「じゃあ、これとかって使えますか?」
「毒針、しかもこんなにたくさん……これで効果が付くかは分からないけど、試してみましょう」
「お願いします」
LIZがトンテンカンと心地いリズムでたたいていくと、紫色の毒々しい短剣ができる。
ポイズンダガー(攻撃+10、ごく低確率で毒状態付与)
「毒付与!これは良いモノだよ」
「よかったね、アイリ」
「うん!」
その後もリュウの盾やミミの杖が強化されていく。各々、満足できる性能だったらしく大喜びだ。
「喜んで結構。本当なら料金を取らないといけないけど、助けてもらった恩もあるから今回は無し」
「良いんですか?」
「良いの。それにあんな陰気な奴らより、こうやって素直に喜んでくれた貴方たちならサービスしたくなるわ」
LIZにお礼を言って別れを告げた後、現実では深夜ということもあり、アイリたちは少し早めにログアウトするのであった。




