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降格中尉

 シャウトが大口を開けながら、右手に握った大剣をレファンヌに振り上げた。俺は木箱に入っていた酒瓶を大声男に投げつける。


「ぐがあぁっ!?」


 酒瓶は見事シャウトの頭部に命中して砕けた。シャウトは邪魔立てしたおれに気づき、首を忙しく動かせレファンヌと俺を交互に見た。


「あっははは。アンタどっちを攻撃するか迷ってんの?戦場で逡巡するような奴が、よく今迄生き残ってこれたわね」


 レファンヌは笑い声を上げた。巨漢を目の前にしても恐れ一つ見せていない。なんて神経の太い女だ。


「ぬううぅっ!度重なる侮辱の言葉!偉大なるハーガット軍への不敬罪と見なす!女ぁっ!覚悟しろ!」


 シャウトが叫んだと同時に、俺は片耳を抑えながら再び酒瓶を投じた。今度は大声男の頰に当たり、シャウトの顔は酒まみれになった。


「その蒸留酒の匂い。かなり度数が高い酒ね」


 レファンヌは横目でシャウトを見ながら悠然と歩く。そして宿屋の入り口にかけられていたランプの中から蝋燭を取り出す。


 金髪の悪魔は迷う事無く、蝋燭をシャウトに放り投げた。途端に大声男の頭が燃え出した。


「ぐががぁぁっ!?」


 シャウトが剣を放り投げ、苦痛の大声を上げ地面に転がり始めた。さ、酒に火が燃え移ったのか!?


 シャウトは四往復目で動きを止め、顔中火傷を負いながら立ち上がった。


「ぬうぅっ!許さんぞ女!少年!死霊共!小奴らを殺ってしまえ!!」


 シャウトが死霊達に号令する。百体近い死霊達は一斉に動き出す。


「あれ?あれれ?私の剣は何処だ?」


 シャウトが激しく首を振り自分の剣を探している。俺は大声男が転がっている間に、奴の剣を拝借していた。


 俺はレファンヌの前に立ち、大剣ごと死霊に体当りした。シャウトの大剣は重すぎて、俺の力では振り回す事など出来ないからだ。


「何よキント。私を守る気?」


 背後からレファンヌの意地が悪い声がする。仕方無いだろう!俺は男なんだから、女を盾に出来るか!


「レファンヌ!死霊達を蒸発させたあの呪文をかけてくれ!」


「無理ね」


「え?」


「私は日没の後は、呪文が一切使えないの」


 な、なんだそれ!?呪文が使えない?どう言う事だ?あの腕に巻かれた鎖と関係あるのか?


 俺が仕留めた死霊から、大剣を抜くのに手間取っていると、別の死霊がレファンヌに襲い掛かった。ま、まずい!!


 次の瞬間、死霊の眉間に何かが突き刺さった。レファンヌが手に持つ銀製の杖だ。彼女の杖の先は鋭利な刃物になっている。


 レファンヌはそれを死霊に突き刺した。素早く刃を死霊の頭から抜き二体目、三体目の死霊を一撃で倒して行く。


 ······華麗だ。彼女の動きは俊敏で無駄が無い。あの細い身体。決して腕力がある訳じゃない。


 特筆すべきはあの体重移動だ。銀の杖を回し、遠心力と自分の体重を杖の刃に乗せて繰り出している。


 その一撃は、見事に死霊の頭部を貫いていた。


「ぬううっ!女相手に何を手間取っているか死霊共ぉっ!!」


 いや。お前が一番手間取っていただろう。俺はレファンヌが包囲されないように、大剣をひたすら身体ごと死霊に当てる。


「ちょっと馬鹿大声男。アンタ達この街を殲滅して死体を死霊にするつもりなんでしょ?ハーガットの姿が見えないけど?」


 レファンヌが六体目の死霊を串刺しにしながらシャウトに質問する。そうだ。死体を死霊に変えられるのはハーガットだけの筈だ。


「馬鹿者がぁっ!!偉大なるハーガット様がこんなチンケな街に、いちいちご足労される筈が無かろう!」


 シャウトはレファンヌを怒鳴り散らすと、自分の右腕を見せた。その太い手首にブレスレットの用な物がついていた。


「この魔法石のブレスレットは、一度だけ死体を死霊に変えられるハーガット様特製の道具だ。俺の様な将来有望な部隊長に配布されるエリートの証拠品だぞ!!」


 くそっ。本当にうるさいなコイツの声は!けど納得だ。ハーガットが不在でも、各地の街を滅ぼして、あのブレスレットを使って死体を死霊に変えていたのか。


「キント。アンタあの大声馬鹿男から、あのブレスレットを取って来なさい」


「え?お前一人で死霊達を相手にするのか?呪文も使えないんだろ!?」


「うるさいわね。私を心配するなんて百年早いのよ。さっさと行きなさい」


 レファンヌはそう言い捨てると、宿屋の入口に向かって歩いて行く。あの女、宿屋に籠城するつもりか?


 俺は重い大剣を死霊達に投げつけ、レファンヌが倒した死霊の死体を見る。死体が離した手頃な剣を拾い、俺は駆け出した。


 走りながら宿屋の入口を見ると、レファンヌが何なら入口の下に置いてある小さな木樽を持ち上げた。


「ぎゃあぁぁっ!!」


 死霊達が突然苦痛の声を上げていく。レファンヌは木樽に入っている液体を手ですくい死霊達にかけていた。


 俺の視界の先に、百体近い死霊達がのたうち回る光景が映っていた。




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