永遠不滅の言葉
「馬鹿な!?半身死霊とは言え、脳を傷付けれた者が何故動けるのだ?これは。この奇跡は!?今正に幕を下ろそうとしている余の劇に対する芸術の神の天啓か!?まだ劇を続行しろと芸術の神が言っているのか!?」
ハーガットが驚愕したように。否。発狂したように叫ぶ。俺とレファンヌは、そんな狂人の言葉を無視し、奴に間合いに肉薄する。
『ラークシャサ。俺に力を貸してくれるか?』
俺は命の恩人である神喰いの戦士に、心の中で語りかける。
『······乗りかかった船だ。仕方あるまい。だが、蓄えた血肉はお前の脳を修復する為に使い、あと僅かしか残っていない。剣の力を使う機会は一度だ。心して使え』
ラークシャサの返答に、俺は心から感謝した。
「十分だ!さあ行こうラークシャサ!!」
俺の右手に握る剣の黒い刀身が、紅い光に包まれる。その光は、今までのどの光より強く煌めいていた。
「ハーガット!!」
俺はこれ迄の思いを全て込め、ラークシャサを振り抜いた。その時、ハーガットの身体を黒い光の壁が三重に包み込む。
ラークシャサから放たれた紅い暴風は、その三重の壁をなぎ払って行く。
「あり得ん!?我が三重に張り巡らされた障壁を破壊するだと!?その力は、その剣の力は何だ半身死霊の少年よ!?」
絶叫するハーガットの前に、銀の杖を構えたレファンヌが仁王立ちする。
「あの世で学習するのね。生憎だけど、アンタの生涯は今ここで幕を閉じるわ」
肩に深手を負い。黒い雨で金髪の髪は所々焦げていた。だが、傷だらけの金髪の聖女は、ここに来ても何も変わらなかった。
レファンヌは、どんな時もレファンヌだった。
「幕よ。狂気王。燃え尽きなさい」
レファンヌが銀の杖を振り上げた。その瞬間、巨大な火柱がハーガットを襲う。近くに居た俺は、その熱気の凄まじさに目を開けていられなかった。
火柱は空に向かう様に伸びて行く。こ、これが全ての力を取り戻したレファンヌの実力なのか!?
その時、空からの黒い雨以外の何かが降ってきた。それは、黒い刃の様に俺には見えた。
黒い刃はレファンヌの頭上に真っ直ぐに落ちて来る。
「危ない!!レファンヌ!!」
俺はレファンヌの胸を右手で押した。レファンヌは後方に倒れ、黒い刃は俺の背中に突き刺さった。
「キント!!」
レファンヌが直ぐ様俺に駆け寄る。刃は俺の背中から胸を貫通し、床に突き刺さっていた。
俺は槍に串刺しにされたような格好になり、見動きが出来なかった。背中から全身に激痛が広がり、俺は口から血を吐いた。
「······大丈夫だよレファンヌ。言っただろう?俺はレファンヌの盾だって」
俺は顔を歪ませ、精一杯の笑顔をレファンヌに見せた。
「······一つ分からないわキント。何故アンタの涙で私の左腕の鎖が解けたか。以前は同じ事をしても解けなかったのに」
レファンヌはとても神妙な顔つきだった。以前のレファンヌなら、力を取り戻した事のみを喜び、原因などどうでも良かっただろう。
俺は、メグラル長老がレファンヌに遺したもう一つの伝言を伝えた。
「······私に愛情を持つ者の涙······?」
レファンヌは両目を見開いた。それは、俺が初めて見る彼女の無防備な顔だった。
「レファンヌ。俺はレファンヌを大切だと思っている。俺だけじゃないよ。レファンヌを生んでくれた両親。メグラル長老。マコム達だってそうだ。レファンヌは独りじゃない。レファンヌだってまた誰かを大切に思えるよ。きっと。いや。必ずだ」
俺は細切れする息を吐きながら、この金髪の聖女に一番伝えたい事を口にした。レファンヌは目を伏せていた。そして美しくも凛々しい顔を俺に向ける。
「······ここで待っていなさいキント。直ぐに決着をつけてくるわ」
レファンヌはそう言うと、炎の柱に向かって歩いて行く。燃え盛る炎の中から、黒い人影が現れた。
それは、全身が焼けただれたハーガットだった。
「······素晴らしい幕だ金髪の聖女よ!!最後は、黒き槍を持って終幕としよう!我が最高の禁術を持って!この黒き雨粒を全て黒き槍に変えて!!」
裂傷だらけの口元を歪ませ、ハーガットは絶叫する。俺に突き刺さったこの黒い刃は、雨粒を変化させたのか!?
こ、この黒い雨粒を全て黒い刃に変えるだって!?そんな事をしたら、マコム達やドルト将軍達も全員死んでしまう!!
グシャッ。
······何かが俺の耳に聞こえた。それは、聞き覚えのある鈍い音だった。
グシャッ。
二度目のその音に、俺は顔を上げて音の聞こえた方角を見た。そこには、ハーガットの顔に凶器ブーツを埋め込むレファンヌの姿が在った。
グシャッ。
三度目の音が響いた。頭から倒れたハーガットの顔面に、三度目のブーツをレファンヌが叩き込む。
「······有史以来。永遠不滅の言葉がこの世界にはあるわ。ハーガット。それがアンタに分かるかしら?」
レファンヌはブーツの底を狂気王に埋めながら、静かな声色で問いかける。
「······永遠不滅の言葉だと?何だそれは?教えてくれ金髪の聖女よ。いや教えるのだ。余にその言葉を!!」
ブーツの下から発せられたハーガットの質問に、レファンヌは瞳を揺らしながら答えた。
「······愛は何物よりも勝る。爺からの受け売りだけどね」
「······愛だと?愛が勝るだと?全て······」
「炸裂のブーツ!!」
狂気王の言葉は最後まで発せられ無かった。レファンヌのブーツの下で爆発が起き、ハーガットの頭は光の中で粉々に四散して行った。
「······地獄で好きなだけ芸術とらの探求をするといいわ」
頭部を失った狂気王の身体を一瞥し、レファンヌは振り返って歩き出す。
······倒した。ついに。ついに狂気王を倒したのか?嬉しさと安堵の余り、俺は身体全体の力が抜ける様な気分だった。
こちらにゆっくりと歩いて来るレファンヌは、俺に向かって微笑んでいた。
······異変はその時に起きた。地に伏せるハーガットの身体が溶け出し、黒い液体に変わって行く。
それは、まるで黒い沼の様だった。そして黒い沼の中から数えきれない触手が飛び出して来た。
それは、狂気王が全てを道連れにする為の最後の罠だった。




