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生者と死者

 四人の同族対決は、メルダの杖から放たれた炎の火柱で始まった。火柱は意思を持つかのようにグレソルに向かって行く。


 だが、それはマリガルの魔法障壁によって防がれた。今度はグレソルが杖をメルダに向けて巨大な火球を飛ばした。


 唸りを上げて迫る火の塊を、ノホットが魔法障壁で阻む。互いの攻撃魔法を互いに魔法障壁で防ぐ。


 魔法使い同士の戦いは、容易に決着が着きそうにも無かった。


「こりゃあ。互いに魔法力が尽きるまでの根比べになりそうだな」


 アークレイが逞しい両腕を組みながら戦況を解説する。戦場の四人は全員魔法使い。互いに距離を保ちながら魔法の応酬となると、アークレイの言う通りになるのか?


「どうかな。仕掛ける方法は幾らでもあるぞ」


 美貌の魔王メルサルが波打つ黒髪を掻き上げ呟いた。戦局が変化したのは、正にその時だった。


「······メルダ。杖の角度が少し高いぞ。まだその癖が直らないのか」


 死霊のグレソルが突然口を開いた。その言葉を聞いたメルダは、途端に動揺した表情になる。


「······どうして死霊が私の癖なんかを!?」


 先の戦いでハーガットは、レファンヌ達の過去の記憶を禁術で俺達に見せた。グレソル個人の記憶を死霊の口から喋らせるなんて造作も無い事なのだろう。


「メルダ!死霊の言葉に耳を貸すな!こちらを揺さぶる作戦だ!」


 ノホットが僚友に叫んだ。すると、今度は死霊のマリガルが口を開く。


「······ノホット。君とはかつて一族の未来について語り合ったな。長老達が物事を決めるのでは無く、一族全員が合議制で決める。その移行へ少しは近づいたかな?」


 メルダに続き、ノホットにも心に乱れが生じた。メルダとノホットの連携は綻びが出始め、徐々にグレソルとマリガルに追い詰められて行く。


「レファンヌ!ノホットとメルダが動揺している!何か手は無いのか?」


 俺はレファンヌに策を問い質した。だが、金髪の聖女は戦況を厳しい目で見つめたままだ。


「······相手が死霊と分かっていても冷静では居られない。それがハーガットの手よ。自身でそれをねじ伏せるしか方法は無いわ」


 レファンヌは自分の経験から導き出した答えがそれだった。ノホットとメルダは後退を続け、ついに闘技場の端に追いやられた。


「······ノホット。このままじゃ二人共にやられるわ。私が人火球の呪文で突入する。後はお願い」


 メルダは覚悟を決めた様に両目を鋭くし、ノホットに後事を託すように言葉を発した。


「馬鹿を言うなメルダ。突破口なら俺が開く。今のロッドメン一族がお前迄失う訳には行かないのは分かっているだろう?」


 ノホットは面長の顔をしかめ、メルダの前に立つ。だが、メルダは金髪の髪を揺らし素早く駆け出した。


「メ、メルダ!?」


 ノホットが長い腕を伸ばし僚友に向けたが、メルダは全身に炎を纏いマリガルとグレソルに向かって行く。


「レファンヌ!あのメルダの人火球って、何の呪文なんだ!?」


 俺は慌ててレファンヌにメルダの意図を質問する。


「その名の通りよキント。己が身を火球にして敵に突撃する。遠距離攻撃を是とする魔法使いにとって、人火球は捨て身の攻撃よ」


 す、捨て身の攻撃?メルダとノホットはそこ迄追い詰められているって言うのか?


「グレソル!私を止められる物ならやってごらんなさい!!」


 小柄な身体に巨大な火球を覆わせ、メルダは叫びながらグレソルとマリガルの至近に達しようとした。


 だが、グレソルとマリガルは同時に魔法障壁を張り、メルダの突進を寸前で止める。


「魔法障壁が何よ!!」


 メルダの絶叫に呼応する様に、火球が更に大きくなる。一歩。そしてまた一歩とメルダが前進する。


 こ、これはメルダがグレソルとマリガルの魔法障壁を押し込んでいるのか!?俺はその時、先の戦いでマリガルによって致命傷を負ったメグラル長老の事を思い出した。


「メルダ!!気をつけろ!!マリガル達死霊はハーガットに改良されている!!全身から武器が飛び出して来るぞ!!」


 俺の叫び声と同時に、マリガルとグレソルの左腕に異変が生じた。二人の左腕は蛇の様に伸び、その手は薄刃に変化する。


 二つの刃がメルダを切り刻もうとした瞬間、メルダの前にノホットが立ち塞がった。


「ノホット!?」


 メルダの悲鳴のような声が響く。ノホットの左肩と右脇腹に、二つの薄刃が深く突き刺さった。


 ノホットの長身を包む白い法衣が鮮血に染まって行く。ノホットは面長の顔を苦痛に歪ませながらもマリガルを見据える。


「······マリガル。お前と語り合った一族の在るべき未来はまだ実現出来そうにも無い。いつか俺がお前の居る世界に行った時、改めて経過を報告する。だがらそれまで、お前は居るべき場所へ戻れ」


 ノホットは静かに言葉を終えた瞬間、両手で肩と脇に刺さった薄刃を掴んだ。その瞬間、薄刃は凍りついた。


 氷結は薄刃からマリガルとグレソルの伸びた腕を伝い凍らせて行く。その凄まじい勢いはマリガルとグレソルの足元をも凍てつかせた。


 ノホットは自らの傷口から氷結をマリガルとグレソルに浴びせ、身動きを完全に止めた。


「今だメルダ!やれぇっ!!」


 ノホットがシャウトに匹敵する大声で怒鳴る。マリガルとグレソルが薄刃の攻撃を行った瞬間、二人が張った魔法障壁は消えていた。


 半身が凍りついたマリガルとグレソルにメルダが猛然と迫る。


「······グレソル。貴方はいつも自信家で他人の指摘ばかりしていた。でもね。貴方は気づいていたかしら?」


 メルダが呟きながらマリガルとグレソルに体当たりする。巨大な火球に晒された二人の死霊は、その身を覆った氷が蒸発すると同時に身体も炎上していく。


「······グレソル。人の癖を指摘する時。貴方は何時も右の眉が上がっていたの。知らなかったでしょう?」


 メルダの人火球が起こした上昇気流に、完全に燃え尽きたマリガルとグレソルの灰が空高く舞って行く。


 メルダはそれを見上げながら、暫く動かなかった。




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