降格コンビ。赤髪コンビ
ハーガットに仕組まれた決闘は、ニ対ニの戦いから幕を開けた。こちらから先陣を切るのは赤毛の少女マコム。
そして十法将の生き残り、赤髪短髪のビンセントだ。そのビンセントは自分の横に並ぶマコムを横目で鋭く睨む。
「おいガキ。足手まといだけは勘弁しろよ」
「は、はい。分かりました。ビンセントさん」
ビンセントの乱暴な口調に、マコムは困った様に答える。
「あ、あの。一つだけいいですか?ビンセントさん」
右手に握った杖を構えたビンセントは、マコムの問いかけに面倒そうに顔を向ける。
「私の名前はマコムです。ガキではありません」
マコムの訂正に赤髪短髪の若者は舌打ちし、一歩前に進み出た。
「退がってろガキ!!俺の呪文の巻き添えになりたくなかったらな!!」
ビンセントは叫びながら杖を振るった。その瞬間、シャウトとモツイットの立っていた場所で爆発が発生する。
巨大な爆音と共に、爆風がこの円卓の闘技場を包み込む。その一撃は、二人の降格騎士を四散させるには十分な威力だった。
「······前の戦いの時もそうだったわ。ハーガットが用意した闘技場の床は、私達が幾ら強力な呪文を放っても傷一つ付かなかった」
肩までの金色の髪を爆風に揺らしながら、メルダが先の戦いを述懐するように呟いた。
「ハーガットが予め床に魔法障壁の呪文を施したと見えるな。そう言えばメルダ。俺はその場に居なかったが、聞く所によると前回の戦いでは床の下から死霊が出て来たらしいな」
ノホットが面長な顔を爆風から片手で遮り、メルダに話しかける。
「······床の下。そうだわ!ビンセント!!敵は床の下に逃げれるわ!!油断しないで!」
メルダが僚友に叫び忠告する。爆風が消え去った時、シャウトとモツイットの姿は消えていた。
そしてメルダの推測は的中する。マコムとビンセントの背後の床の一部が開き、中からシャウトとモツイットが踊り出て来た。
「ふはははっ!!有能かつ優秀な騎士は、正々堂々と床の下から現れるのだぁっ!!ほれ喰らえ!後ろから不意打ちどーん!!」
シャウト二等兵は鼓膜を圧迫する馬鹿みたいな大声を発し、手にした大剣をマコムに振り下ろす。
マコムは凄まじい反応速度でその一撃を愛用の戦斧で防ぐ。一方、ビンセントはモツイットの高速の突きを必死に避ける。
「ほう?魔法使いなど接近すれば容易く倒せると思ったが、意外と素早く回避するではないか」
モツイット大尉は兜の中から声を出す。それは、獲物を狩る者の冷静な声色だった。
「うるせぇ!卑怯な真似しやがって!テメェ等、力任せの連中なんざ幾らでも料理出来るんだよ!」
ビンセントは頬の火傷に流れる汗を飛ばし、杖を前方に向けた。すると、モツイット大尉の剣の鋒が見えない壁に弾かれる。あれは、物理障壁の呪文か!
ビンセントはその隙に後方に退がり距離を取る。魔法使いにとって敵との距離の長さは、勝率に比例すると俺は学んでいた。
だが、赤髪短髪の十法将の勝算は崩れる事となった。それは、罠と言うには余りにも卑怯な手段だった。
ビンセントが軸足を置いた床が、突然消えた。床の一部が開いたのだ。ビンセントは床の下に落下する事は回避したが、バランスを崩し倒れた。
その間隙を塗ってモツイット大尉がビンセントに猛然と迫る。甲冑を身に着けて大柄な癖に、なんて速さだ!!
モツイットが無防備なビンセントに必殺の一撃を繰り出す。だが、それは寸前でマコムの戦斧によって防がれた。
モツイットはマコムから距離を取った。大声男シャウトも急いてこちらにやって来る。
「大丈夫ですか?ビンセントさん!」
「チッ。余計な事をすんじゃねえぞガキが!!」
病み上がりとは思えない動きを見せるマコムに、ビンセントは乱暴に返答する。そんな赤髪短髪の若者に、マコムは頬を赤く染めて叫んだ。
「ビンセントさん!!あの二人の敵は強敵です!しかも床から自由に出入り出来ます。私達も協力しないと勝てません!!」
赤毛の少女に一喝され、ビンセントは一瞬放心したような表情になった。そして我に返った赤髪短髪の若者は、肩にかかった真紅のマントを片手で払いながら立ち上がる。
「······チッ。ガキに説教されるとはな。おい赤毛。俺がこの戦いを勝たせてやる。俺の言う通りに動け。いいな」
ビンセント言い様には高圧的だったが、マコムはその内容に共闘の活路を見出した。
「ビンセントさん。私の名前は赤毛じゃなくてマコムです。それで、どんな作戦ですか?」
マコムの質問に、ビンセントは好戦的な笑みを浮かべた。
「モグラ叩きだ。野郎どもが床に隠れたいのなら付き合ってやるぜ」
言うと同時にビンセントは杖を振るった。すると、無形の圧力がシャウトとモツイットを床に押し付ける。
こ、これは地下重力の呪文か。シャウトとモツイットは苦痛の声を上げ、堪らず床を開かせその下に消えた。
ビンセントは杖を回し、円卓の闘技場全てに地下重力の呪文をかけているように見えた。
「レファンヌ。ビンセントはシャウト達を床の下に閉じ込めるつもりなのか?」
俺は横に立つ金髪の聖女に問いかけた。
「それだけじゃ戦いに勝てないわ。本人の言った通り、モグラが出て来た所を狙うつもりよ」
レファンヌの返答を俺は訝しげに思った。闘技場全体に圧力がかかっていては、シャウト達は床の下から出たくでも出られない筈だ。
「言動は品行方正とは対極。でも、ビンセントは呪文の繊細さは十法将随一よ」
「ああそうだな。闘技場全体にかけた地下重力の呪文に、圧力がかからない隙間を作るなんて俺達には無理な芸当だ」
メルダとノホットがビンセントの意図を理解しているような会話をしている。二人にはビンセントが何をしようとしているのか分かっているのか?
すると、闘技場の中央の床下から突然モツイットが姿を現した。何故重力下で動けるんだ!?
だが、モツイットの目の前のには戦斧を振り上げているマコムが待ち構えていた。
「ぐわあぁっ!?」
マコムの一撃を受け、モツイットの身体は吹き飛ばされた。そのモツイットが出てきた床下から、続いてシャウトが上がって来た。
「ふはははっ!!良く分からんがこの場所だけは重力がかからず自由に出入り出来るぞ!さては呪文に失敗したな未熟者め!さあ、私の出世街道の為に貴様らをコテンパンにしてや······」
シャウトの言葉はそこで途切れた。マコムの振り下ろされた戦斧の一撃で、シャウトは床下に再び転落して行った。
俺はようやくビンセントの作戦が理解出来た。闘技場全体にかけた地下重力の呪文に隙間を作った。
モツイットとシャウトは選択の余地無くその隙間から地上に出るしかなかった。その隙間にマコムを配置し、二人が出て来た所を叩く。
モグラ叩きとは良く言った物だと俺は感心してしまった。
「上出来だ赤毛。褒めてやるぜ」
ビンセントは両手を腰に当て、大仰にマコムを讃えた。
「ビンセントさんの作戦のお陰です。でも。私の名前はマコムです。いい加減に覚えて下さい」
マコムの抗議を鬱陶しいそうに無視して歩くビンセントに、マコムは後ろから食い下がる。
赤髪と赤毛のコンビによって、俺達は緒戦に勝利したようだった。




