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草原の決戦

 ハーガットとの再戦を決意してから一週間が過ぎた。その間ハーガット軍はガレント国の国境を破り、領内奥深く侵入していた。


 十万を超える死霊の大軍にガレント軍は為す術も無く撤退を繰り返していた。だが、これはガレント軍の戦略的撤退だった。


 ガレント軍は損害を出さずにハーガット軍を誘うように移動していた。その進路付近の村や街には既に避難命令が成され、ハーガット軍は無人のガレント領内を行軍していた。


 ガレント国王都から西に三十キロ離れた位置に、広大な草原があった。ガレント国ドルト大将は決戦の地をそこに設定した。


 俺は草原を見渡せる高台から、その光景を眺めていた。ガレント国の兵力は同盟国と合わせて四万五千。ドルト大将を陣頭に堂々たる布陣を敷いていた。


 そのガレント連合軍の右翼につくように、メルサルの配下一万が布陣していた。人間と魔族が共通の敵の為に手を組む。


 事態が事態とは言え、長年争ってきた人間と魔族の歴史の中でも稀有な事柄ではないかと俺は思った。


「······カミングさんは大丈夫でしょうか」


 俺の後ろから、マコムの心配そうな声が聞こえた。密偵としてハーガット軍に潜入しているカミングは、今回の戦いの際もハーガット陣営に赴いていた。


 カミングはロッドメン一族の情報をハーガット軍に流していた。そして同じ様に、ハーガット軍の情報をロッドメン一族に伝える。


 二重密偵として、カミングはハーガット軍から信用を得ているようだった。だがそれは、いつ真実が露呈するかも分からない危険な任務だった。


 俺は再びハーガット陣営に向かう時のカミングとの会話を思い出していた。


「全く。ロッドメン一族とハーガット軍。両陣営を行き来していると分からなくなるよ」


 ため息混じりに優男は呟いていた。俺は何が分からなくなるのかとカミングに質問した。


「······自分がどちらの陣営の人間かって事がさ。二重密偵なんて任務をしていると、有りがちな事らしいけどね」


 カミングは苦笑して風の呪文で飛び立って行った。俺はこの時のカミングとの会話を特段、気に止めていなかった。


 だが、俺は後にこの時のカミングの言葉を後に思い返す事となるのだった。


「······来たぞ。ハーガット軍だ」


 ノホットが愛嬌のある両目を細めながら、緊張を含んだ声を出した。生気の無い、虚ろな表情の死霊達が、刻一刻と草原を埋め尽くして行く。


 空を見ると、太陽は真上にから強い陽射しを放っていた。その光を浴びても、改良された死霊達は何事もなかった様に活動している。


 十万の死霊の大軍は、陣形も組まずただ固まっていた。その後方に、全身黒い衣服と鎧に身を包んだ二万の兵士達が控えていた。


 そして、その黒い軍団の後ろからは······


「なんだあ?ありゃあ」


 十法将の一人、ビンセントが乱暴な口調で口を開く。この赤髪の若者が見た物は、異様な建造物だった。


 それは、巨大な階段の様な建物だった。階段の踊り場には、巨大な円卓状の台が設置されている。


 それはまるで、剣闘士が戦う舞台の様だった。その円卓の台が段ごとに三つ。そして建物の下には車輪が幾つもつけられ、死霊達が縄を引き建造物は動いていた。


 遠目から見ると、最上階の円卓の台には黒い人影が見えた。


 その時、高台に集まっていた俺達ハーガット強襲部隊の前に伝令が届いた。ガレント軍兵士は俺達に驚くべき内容を伝える。


「······ハーガットからの戦書ですって!?」


 メルダが顔をしかめ声を発した。ハーガットがこちらに送って来た戦書には、こう書かれていた。


〔親愛なるロッドメン一族の生き残り達よ。彼我の戦力差によってそなた達の残された手段は、余を直接倒す事しか他無い。


 そこで余はそなた達の決死の決意に相応しい舞台を用意した。二つの階段を登り切り、最上階で待つ余の元へ来るが良い。


 各階の二つの円卓の戦場では、余の配下がそなた達を待ち構えている。注意事項を伝えて置こう。必ず一階から進む事。そしてそちらの人数は八人のみ。以上だ。余の生涯の最高傑作になる劇になるよう期待している 〕


 ノホットが狂気王の文面を読み終えると、ビンセントが声を荒げた。


「あのクソ野郎が!!馬鹿正直に言いなりなる事はねぇ!!直接最上階に取り付けばいい話だ!!」


「そう出来ないようにハーガットは何らかの罠を敷いているわ。奴の挑発通り、一階から行くのが最善よ」


 ビンセントの勢いを止めるように、レファンヌが冷静な口調で状況分析をする。


「人数は八人か。まるでここにいる俺達を計算していたかの様だな」


 アークレイが階段状の建造物を眺めながら呟く。この高台には俺。レファンヌ。マコム。アークレイ。メルサル。ノホット。メルダ。ビンセントの八人が揃っていた。


 この八人が、ハーガット暗殺に選ばれた者達だった。


「······いいわ。わざわざハーガットからこちらの思惑に乗って来た。正面から乗り込み、奴に後悔させてやるわ」


 メルダが最上階にいる黒い人影を睨みながら声を発した。俺は、今度こそハーガットを仕留めると強く決意していた。


 

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