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狂戦士

「レファンヌ!!」


 俺は叫んだ。ミデットはレファンヌの脇腹に刺した剣をゆっくりと抜いた。レファンヌは呆然としながら崩れ落ちる。


 俺はアミルダに背を向けてミデットに向けて走り出した。横目を動かすと、ラグラントとロリシアの死霊は、それぞれメルサルとアークレイに斬りかかっていた。


「くそっ!間に合え!!」


 俺はラークシャサの飛ぶ刃を使う為、三匹の蛇に心臓を喰わせようとした。その時、側面から鋭い斬撃が振り下ろされる。


 俺は寸前でその一撃を受け流した。俺を襲ってきたのはハーガット三忠臣の一人、ヒズケイトだった。


「悪く思うな少年。俺には俺の責務がある。全く世の中はままならん事ばかりだ」


 ヒズケイトは二刀流だった。両手から繰り出される高速の斬撃に、俺は手も足も出ない。


 一方、マコムはアミルダに足止めされ、俺と同様に防戦一方に陥る。その時グレソル達が包囲されていた方角で爆音が聞こえた。


 グレソル達は使用可能になった呪文で、冒険者達と共に死霊の騎士に反撃していた。


「······なぜ?ミデット。貴方は生き返ったんじゃないの?」


 レファンヌが血塗れになりながらも、尚も右手をミデットに伸ばす。今のレファンヌは普通じゃない。ミデットが死霊かどうかも判断出来ない程に冷静さを失っている!


「······レファンヌ。僕の居る世界へおいで。そこは安らかで、一切の苦痛から開放される場所だ」


 ミデットは両手で剣の柄を握り、自分にすがるように手を差し伸ばすレファンヌの頭に鋒を向ける。


「やめろおぉっ!!」


 俺はラークシャサを発動させ、三匹の蛇に心臓を喰わせる。紅く輝いた刀身を、俺はミデットに向けようとした。


「させんぞ少年!!」


 ヒズケイトがそれを両刀で止めようとする。その時、ヒズケイトの二本の剣が白銀色の光に包まれた。


 それは、アークレイが見せた光の剣と同じ輝きだった。どうして?勇者しか使えない光の剣を何故ハーガットの腹心が使える!?


 ラークシャサとヒズケイトの両刀がぶつかり合い、落雷が落ちたような閃光が炸裂した。俺とヒズケイトは互いに衝撃で飛ばされた。


「······それがロイエンスの左腕を奪った剣か。なる程。恐ろしい力だな少年」


 ヒズケイトが汗を流しながら笑みを浮かべる。奴の両刀を握る両腕は、裂傷により血だらけになっていた。


「素晴らしい終幕だ!!聖女は信じた愛すべき相手に命を奪われる!!勇者アークレイも!魔王メルサルも!もっとだ!もっと絶望した表情を予に見せてくれ!!これが真の劇だ!!生きる者達が絶望する魂の叫び!!予が望んだのはこれなのだ!!」


 ハーガットが狂気地味た表情で絶叫する。完全に戦意喪失していたメルサルとアークレイは目の前の死霊になす術も無く、自分の身を守るのがやっとだった。


 両腕に重症を負ってもヒズケイトは俺を阻んで来る。俺は身体の負担から一旦ラークシャサを解除した。


「きゃあっ!!」 


 その時、少女の悲鳴が俺の耳に聞こえた。マコムがアミルダの一撃を受け、額を斬られた。


「マ、マコム!!」


 俺の声はマコムに届かなかった。額に巻かれていた布は二つに裂かれ、マコムはそのまま背中から倒れそうになる。


 俺は次に起こった光景に絶句した。仰向けになり背中から倒れると思われたマコムは、その体制のまま片手で重い戦斧を一閃した。


 その斬撃の速度は俺の目で追えなかった。アミルダは凄まじい反応でマコムの戦斧を大剣で止めたが、その身体は剣ごと吹き飛ばされた。


 呆然とした俺は赤毛の少女を見た。額に巻かれていた布を失ったマコムは、俺の知っているマコムでは無かった。


 眉間に浮き出た血管。焦点を失った赤い瞳。そして、そばかすの下にある小さな口が獣のような咆哮を発した。


「ウルァァアアッ!!」


 マコムが地を蹴りハーガットに向かって行く。それは重い戦斧を持つ者の足の速さでは無かった。


「ハーガット様の元へは行かせんぞ!怪力の少女よ!!」


 新たに三忠臣の一人、べロスが猛追しマコムの背後に迫る。そしてべロスは大剣を地を這うように低く振り、マコムの足首を狙った。


 その刹那、鈍い音が響いた。マコムは後ろを振り返り、戦斧を振り下ろしべロスの大剣を地面に叩きつけた。


 そしてマコムは戦斧の柄をべロスの顔面に突き刺した。


「ぐぼぉっ!?」


 べロスは口から血を吐きながら後方に飛ばされた。その瞬間、マコムは突然地面に倒れた。


 いや。あれは見えない力で倒された?ハーガットの隣のロイエンスが、右手に持った杖をマコムに向けていた。


「ハーガット様!あの赤毛の娘は危険です。私が地下重力の呪文で抑えている間に退避を!」


 ロイエンスの進言を、ハーガットはまるで聞いていなかった。


「······戒めの聖包で怒りを鎮めらし一族。おお。あの赤毛の娘は、狂戦士一族の者ではないか!!」


 ハーガットが歓喜の声を揚げた時、マコムはロイエンスの地下重力の圧力を打ち破り立ち上がった。


「馬鹿な!私の地下重力の勢力下で立ち上がるだと!?」


「素晴らしい!!狂戦士一族の出演は予の想像の外だった。まだ間に合うか?佳境に入ったこの終幕の筋書きに修正は可能か?いや。可能かどうかでは無い。行うのだ。新たな出演者が終幕を彩り、より鮮やかな最終幕への序章となるのだ!!」


 白衣の悪魔と狂気王の叫び声が重なった時、マコムの左右には、べロスといつの間にか俺の前から消えたヒズケイトが立っていた。


 べロスとヒズケイトは同時にマコムに斬りかかる。マコムは戦斧を縦横に振り回しそれに対抗する。


「ヒズケイト!べロス!その赤毛の少女を今すぐ殺してはならん!まだ予の最終幕の構想は完成しておらんのだ!」


 ハーガットは腹心の二人に必死に呼びかける。その二人は、マコムの攻勢を死に物狂いで凌いでいた。それは、一撃で確実に死に至る死神の鎌だった。


「ハーガット殿!この少女は普通では無い!一旦退避される事をお勧めする!死んでは劇も糞も無いでしょう!」


「同感だ!!ハーガット様!生きてこその劇鑑賞ですぞ!お逃げ下され!!」


 ヒズケイトとべロスの懸命な進言に、ハーガットは冷静さを取り戻した。


「うむ。お主等忠臣の言は最もだ。では私自らがその狂戦士を捕らえよう」


 ハーガットが杖を振った瞬間、地下重力の呪文が唱えられた。マコムは再び見えない力で地面に叩きつけられる。だがそれは、狂気王の腹心であるヒズケイトとべロスも同様だった。


「······俺達も巻き沿いか!全身の骨が軋むぞ。おいべロス。俺達はどうなるんだ?」


「喋るなヒズケイト。舌を噛むぞ。最終幕とやらに俺達の出演予定が記されている事に望みを託すんだな」


 巨大な圧力の前に、ヒズケイトとべロスは一歩も動けず苦痛の表情を浮かべる。だが、その圧力下の中で、ただ一人立ち上がる者がいた。


「オオォガルァァッ!!」


 マコムが再び咆哮した瞬間、目に見えない圧力が砕け散り、赤毛の狂戦士はハーガットに向かって駆け出した。


 そのマコムの姿に、ハーガットは細い両目驚愕したように見開いていた。

 


 

 

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