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地獄絵図

 王都の城下町では、ロッドメン一族数百人とハーガット軍数千の兵士が戦っていた。数に劣るロッドメン一族は、その強力な魔力を駆使し多勢のハーガット軍と互角の戦いを続けていた。


 その城下町の地中から、次々と死霊が土を掻き分け姿を現した。その数は最早計測不能だった。まるでこの城下町の住民全てが死霊に姿を変えたのかと思わせる程に。


「······この数の死霊は?」


 これまで万事余裕を失わなかったグレソルが、初めて動揺した声を発した。


「この王都の住民達だ。全てを死霊に変えるのは流石に予でも骨を折ったものだ」


 まるで自分の功労を讃えるように、ハーガットは感慨深げに呟く。新たに現れた死霊達も太陽の下で動いている。


 それは、ハーガットが進めていた死霊の改良が完成していた事を意味していた。


「······住民全て?ハーガット。お前は一体何万の人間の命を奪ったの?」


 メルダが蒼白な表情でハーガットを見る。ハーガットはその質問を待っていたかの様に笑みを浮かべる。


「毒だ。ロッドメン一族よ。王都の全ての井戸に毒を流した。七割はその毒で処理出来たが、三割の住民は毒に気付き水を飲もうとしなかった。ここからが予が苦労を重ねた所だ。王都から外に出られる様、門は全て封鎖した。水を口に出来ぬ住民達がいつまで生存出来るか?予の興味はいつしかそこに移ったのだ。力ずくで王都の外に脱しようとした住民達は例外無く毒を塗った矢で······」


「止めろっ!!」


 吐き気を覚える大量殺人の方法を嬉々として語る狂気王にグレソルは叫んだ。


「······ハーガット。貴様は呼び名の通り狂っている。俺は一族の後継者の為では無く、この世界全ての為に貴様を討つ!!」


 グレソルは杖を頭上に掲げた。すると、杖の先から眩い光りが空に伸びて行く。それは、長大な光の柱だった。


 その時、地上から一人の冒険者が鎖を投じた。その鎖はハーガットの隣に浮遊していたロイエンスの身体に巻き付く。


 あの鎖は、さっきウィザードキラーと呼ばれた武器を封じた「束縛の鎖」か!?


「光と爆炎を合わせた呪文だ。俺の魔力の全てを注いだこの光の柱に押し潰されるがいい」


 グレソルは一辺の迷いも無く、杖を操り光の柱をハーガットに叩きつける。光が弾けると同時に、炎の爆発が発生する。


 爆風はこの舞台に立つ物全てを吹き飛ばす勢いだった。十法将に雇われた冒険者達は床に武器を突き刺し必死に踏み止まる。


 煙が風に流された時、俺の視界には全身に傷を負ったハーガットとロイエンス映った。


「······予の魔法障壁を破るとはな。流石ロッドメン一族。その名に恥じぬ力だ」


 ハーガットが口元の血を拭い、煙を吸ったのか咳払いをした。そして手にした杖を振る。


 その瞬間、俺の眼前には黒い闇が広がって行った。周囲の街の風景や空は消え去り、どこを見回しても、床以外は黒一色に覆われていた。


 な、なんだ?何が起こったんだ!?


「予の禁術の中でも、これは奥の手の部類に種別される。予にこの術を使わせた事を誇るがいい。ロッドメン一族達よ」


 ハーガットに倣うように、十法将達が次々と床に降り立つ。だが、グレソル達の表情は曇っていた。


「······なんだ?風の呪文が使えなくなっただと?」


 グレソルが自分の両手を訝しそうに見る。


「それだけじゃないわ!魔力が練れない。この黒い空間が原因なの?」


 メルダが杖を何度も振るが、杖は沈黙するように変化を見せない。


「その通りだ。この空間の中では誰一人として魔力を行使出来ない。無論。私を含めてだ。魔力が残り少ない予にとっては、捨て身と言っていい、窮余の一策だ」


 ハーガットは大袈裟に手のひらを額に当てる。コイツは、何処までふざけた奴なんだ!?


「······なる程な。確かに焦りの余り判断を見誤ったようだな。あれを見ろ狂気王!!」


 グレソルが舞台の中央である主戦場を指差す。十法将に雇われた冒険者達が、その数を半数に減らしながも見事に数倍の死霊騎士達を倒していた。


「······なんと。死霊騎士達を全滅させるだと?」


 ハーガットが驚愕した様にその光景を見る。生き残った冒険者達は傷だらけになりながらも、ハーガットとロイエンスに向かって行く。


「魔力の使えぬ貴様など、ただのか細い中年男だ。今度こそ自分の罪を後悔しながら死ぬがいい」


 グレソルは勝利宣言に等しい言葉を狂気王に叩きつけた。その瞬間、舞台の床の一部に亀裂が入り吹き飛んだ。


 床に出来た穴から、死霊の騎士が次々と登って来る。その数は、三百体に達した。


「······そんな!一体コイツ等何人いるのよ!?」


 メルダが悲鳴混じりに叫んだ。十法将と冒険者達は完全に死霊騎士に囲まれた。更に穴からは、二人の黒い甲冑を纏った男達が出て来る。


「全く。魔力が使えんと床の昇降機が使えんのは難儀するな。そう思わんか?べロス」


「同感だヒズケイト。ハーガット様の三忠臣が人力で床から登場とは冴えんな」


 ぼやきながら床の上に立つ二人の男は、共に大柄だった。ヒズケイトと呼ばれた男は蛇を模した装飾の鎧を身に着け、べロスと呼ばれた男は三つ頭の龍の装飾が施された鎧を着けていた。


 ヒズケイトはハリネズミの様に逆だった黒髪。べロスは肩までの波打つ茶色の髪。共に精悍な顔つきは、三十代半ばに見えた。ロイエンスの言っていた、ハーガットの三人の腹臣か!?


「満身創痍の冒険者十数人。魔力が使えぬロッドメン一族が九人。それを囲む死霊騎士が三百体。俺達が登場する必要があったのか?べロスよ」


「愚痴を溢すな同僚。ハーガット様の催される劇には必要な筋書きだ。それにしても直ぐに決着がつきそうだな。やはり俺達が来る必要はなかったなヒズケイト」


 二人の腹心はぼやきながら死霊騎士に包囲された十法将達を眺めていた。俺はグレソル達に加勢するよりも、ハーガットを直接叩く事を選択し、駆け出そうとした。


「待ちなさいキント。」


 聞き覚えのある横柄な声に俺は振り返る。そこには、金髪の聖女候補が立っていた。

 


 

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