開戦
崩れた瓦礫を乗り越え、ハーガット軍の兵士達が突撃して来た。その数は見当もつかない。後から次々と湧いて出て来る。
「陽が出ている以上、死霊は使えない。後は生身の兵士を使わざるお得ない」
グレソルはそう言うと、兵士達に向けて手にした杖を向けた。すると、突撃俺達の足元が揺れ始めた。な、なんだこれは?
地面に亀裂が入り、それは直ぐに陥没に変わった。ハーガット軍の兵士達は崩壊した地面に足元をすくわれる。
「ほう。地下振動の呪文か。大した威力だ」
メルサルが前髪を掻き上げながらグレソルの呪文を評した。そして、間髪入れずメルダも杖を振るう。
メルダの杖から光の玉が兵士達に向かって飛んでいく。光が拡散した瞬間、均衡を崩した兵士達の中心で爆発が起きた。
「開戦だ!!ハーガットの首を取れ!!」
グレソルが杖を高くかざし、高らかに宣言する。すると、後方にいた冒険者達が雄叫びを上げて崩れた壁に向かって駆け出す。
メルダの爆裂の呪文により、崩れた壁を埋めていた兵士達が吹き飛び、一瞬の空白が生まれた。
冒険者達はその間隙を縫って壁の中に突入して行く。ハーガット軍の兵士達も直ぐに応戦し、街の中はたちまち乱戦模様になる。
「そんな!街の中で戦闘を行ったら、住民達に被害が出ます!」
マコムが悲痛な声を出す。グレソルはマコムのその言葉に失笑する。
「物事を相対的に考えるんだな。ここでハーガットを仕留めないと、どれ程の犠牲者がこれから出るのか。奴をここで倒せるのなら、この戦闘で発生する被害など軽微な物だ」
グレソルのその言葉に、俺は不快感を覚えた。コイツは秀才そうに見えるが、性格は冷たく利己的だ。俺はそう断定した。
「レファンヌ。グレソル。ハーガットの首は私が貰うわ。貴方達には渡さない」
メルダはそう言うと、風の呪文で市街地に飛び立って行った。グレソルも後に続き、十人法将、その他のロッドメン一族も戦闘に加わって行く。
「レファンヌ!俺達も行こう!風の呪文なら城に直ぐに行ける!」
俺はレファンヌに叫んだ。俺は一刻も早くアミルダを探したかった。
「落ち着きなさいキント。好んで虎口に入った連中の行く末を見届けてからでも遅くは無いわ」
そう言ったレファンヌの目は、どこか警戒心を持った色をしていた。俺はいても立ってもいられず、一人で崩れた壁に向かって走り出した。
「待っていろアミルダ!俺が必ず助け出すからな!」
街の中は想像以上に混戦模様だった。数百人のロッドメン一族に対して、ハーガット軍はその数十倍の兵力で襲いかかる。
だが、数百人のその一人一人が尋常では無い力を奮っていた。ある冒険者は二刀の長剣を操り、兵士の首を二人同時に切り落とす。
長槍を操る冒険者は、高速の連撃で次々と兵士の胸に大穴を空けて行く。戦斧を振るう冒険者は、兵士の兜ごと頭を粉砕して倒す。
そこに十法将を中心としたロッドメン一族が火炎。爆裂。風の刃。吹雪の呪文を駆使して兵士達をなぎ倒して行く。
数百人のロッドメン勢が、数千人のハーガット軍を圧倒していた。怒号と叫び声。剣と剣が重なる音。
吹き飛ぶ人体の腕や足。噴水の様にそこら中に流れ落ちる血。人間らしい感覚と言って良いのか。俺は血の匂いに鼻が曲がりそうなった。
だが妙だった。街の中は住民らしき姿が見当たらない。既に避難したのだろうか?どちらにせよ、罪も無い住民達が巻き沿いにならないに越した事は無い。
俺は戦場を走りながら城を目指した。すると、広い大通りに出た所で俺は奇妙な物を目にした。
それは、大きな木製の円盤だった。その円盤は石の脚に支えられていた。その中心地に人影が見えた。
その人影が視認出来る距離に迫った時、俺ははっきりと相手の顔を見た。黒いマント。金髪の長い髪。細見の身体と細い頬。見間違い様が無い。奴の顔だった。
「······ハーガットォッ!!」
俺は円盤に掛けられた階段を猛然と駆け上がり、奴の目の前に立った。同時に複数の着地音を俺は耳にした。
ハーガットを方位するように十法達が木製の円盤の上に降り立った。
「予の荘厳たる劇場へようこそ。半身死霊の少年よ。そしてロッドメン一族よ。予は心からそなたらを歓迎する」
ハーガットは優雅な笑みを絶やさず、俺達を見回した。
「狂気王。ここが貴様の墓場だ。遺言なら今の内に言っておくが良い」
グレソルが杖をハーガットに向け、自信に溢れた最後通告を言い渡す。
「······追い詰められた名君。絶対絶命の危機。素晴らしい場面だ。予の劇の序曲としては申し分ない」
ハーガットは何時もの訳が分からない事を口にする。
「意味分かんねえ事をほざいてんじゃねえぞおっさん!!さっさと観念しやがれ!!」
すると十法将の一人が叫んだ。赤い短髪に鋭い目つき。まだ十代に見えるその顔には荒々しい表情を見せていた。
「出演者が待ち切れぬ様だな。それは予も同様だ。ふふふ。では第一幕を始めるとしよう」
ハーガットがそう言うと、木製の床の一部が沈み始めた。その数を数えると十箇所。地下に消えた床の一部は、暫くすると再び地上に上がって来た。
その床には人が立っていた。それは黒い鎧を身に着けた十人の騎士だった。その表情は、生気の欠けた虚ろな死者の物だった。




