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聖女の護衛者

 ハーガット軍の夜襲は終わった。ロコモ大尉は残兵を率いて去って行った。それを追撃しようと口にした者は居なかった。


 宿屋に併設された食堂で、一つのテーブルを奇妙な者達が囲んでいた。三人の人間。一人の魔族。そして半分死霊の俺だ。


「キント。マコム。あんた達とはここでお別れよ。私は一人で行くわ」


 遠慮も呵責も遠回しな物言いも一切せずに、レファンヌはハッキリと宣言した。レファンヌの目的地は狂気王ハーガットの居城だ。


 理由は自分の心の中に土足で入り込んだ狂気王への報復。レファンヌは静かな怒りを内包するも表情に迷いは無かった。


「金髪のお嬢さん。まあ落ち着けよ。それではハーガットの挑発にまんまと乗る格好になるぞ」


 レファンヌの向かいに座る勇者アークレイが彼女の気勢をなだめるように言葉をかける。


「同感だ。奴は私の漆黒の鞭を防ぐ程の実力者だ。勇気だけでは命を落とすぞ」


 魔王メルサルが両腕を組みながら冷静に呟く。勇気アークレイと魔王メルサル。そう言えばなんでこの二人ここに座っているんだ?


「勇者と魔王とやら。あんた達下手な演技はもう止めたらどう?大方ロッドメン一族の長老に依頼されたんでしょう」


 レファンヌはアークレイとメルサルを睨みつけた。演技?依頼?な、なんの事だ?レファンヌの言葉に、アークレイは鋭く舌打ちした。


「露見したのは貴様の責任だアークレイ。貴様の稚拙な演技が原因だ」


 メルサルが不愉快そうにアークレイを見据える。当の本人アークレイは知らぬ存ぜんと言う表情だ。


「俺は生来の正直者だからな。嘘や偽りは苦手なんだ」


 アークレイはわざとらしく首を振り恐縮して見せた。こ、こいつ。やっぱりこんな奴が勇者なんて信じられないぞ。


「ど、どう言う事だよレファンヌ?全く訳が分からないぞ」


 俺が最もな疑問をレファンヌに問いかける。マコムも俺と同様に混乱している様子······と思ったが、マコムは何故かメルサルに見惚れているように見えた。ど、どうしたマコ厶?


「ロッドメン一族の長老は底知れぬ人脈を持っているのよ。忌々しいジジィだけどね。この勇者と魔王の二人も、どこかで長老と知り合ったのよ」


 レファンヌの説明に、メルサルは小さいため息をついた。


「······その通りだ。人間の聖女よ。私とアークレイはロッドメン一族の長老に借りがある身だ。これから起こるハーガット軍との決戦に於いて、君の護衛を頼まれた」


 メルサルは品のある綺麗な声で説明し始めた。メルサルとアークレイがこの街に来たのも、メルサルの鞭をアークレイが弾き軌道を変えてハーガットを狙ったのも、意図的な事だったらしい。


「だがまあ。敵の親玉がこの街に現れるとは思いもしなかったがな」


 アークレイは笑いながら酒瓶を直接口につけ飲んだ。メルサルとは対照的に粗野で品が無い奴だ。


「護衛なんて不要よ。ハーガットは私は一人で片付けるわ」


 レファンヌは話は終わっとばかりに席を立ち上がった。そして俺達に一瞥もせずに部屋に戻って行った。


 席に残った俺達に重い沈黙が流れた。俺は意を決して勇者と魔王に質問した。俺はレファンヌがロッドメン一族から半ば追放されたと思っていた。


 魔力を制限されたあの腕の鎖がその証拠だ。なのに、長老は何故レファンヌに護衛を派遣したんだ?


 しかもそれが勇者と魔王だなんて。マコムを見ると相変わらずメルサルに見惚れていた。ほ、本当にどうしたんだマコム?


「あ、あのメルサルさんは、本当に男の人なんですか?そんなお綺麗なのに」


 マコムが頬を赤くして魔王に質問する。メルサルは深くもないため息をついた。きっと今迄同じ質問を幾度と無く受けて来たのだろう。


「人間の少女よ。私は男だ。付け加えさせて貰うと、この好色男に多大な迷惑を被っているのは演技では無く事実だ」


 メルサルはアークレイを睨みつける。


「赤毛の嬢ちゃん。ついでに言うと、俺がメルサルを口説いているのも演技じゃない。本気だぜ」


 アークレイの軽い口調でマコムに片目を閉じて見せた。その様子に、メルサルの目つきは更に険しくなる。

 

「話が脱線したな。人間の少年よ。金髪の聖女の事だったな」


 メルサルは咳払いをした後、静かに口を開く。


「······ロッドメン一族の先祖は、魔法と言う物をこの世に創り出した者達だ。だが、どんな偉大な国家も英雄も一族も、栄枯盛衰からは逃れられない」


 マコムの熱い視線を受けるメルサルが、言葉を続ける。どんな時代も隆盛を誇ったロッドメン一族にも、様々な事情で不遇の代があったと言う。


 ある時代は人材不足から。ある時代は一族同士の内紛から。またある時代は国家を相手にして戦争を起こした消耗から。


 ロッドメン一族に存亡の危機が訪れた時、それを救う希望があった。それが「聖女」と言う存在だった。


 


 


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