9 見張りですか?
弓木さんが捜査します。
事件のあった線路沿いの二階建てハイツには、少なくなったとはいえ、数人の野次馬がいた。
現場となった部屋の入り口には、黄色のテープで封鎖され、制服警官が一人、門番のように立っていた。
「さて、どうしようか」
弓木は野次馬の中から、問題の部屋を見上げる。
タイミングよく、部屋から不憫な刑事、清水が出てきた。
「あ、清水刑事」
健哉が眉間にシワを寄せて、言った。
「今回の窓口はあの刑事だから、あんまり邪険にしないであげてね」
弓木が苦笑して、健哉の背中に手を添える。
「はい」
渋々、という感じで、健哉が頷くと、清水も弓木達に気がついた。
八重垣も、健哉も、知っている。
弓木が警察が嫌いなのを。だけど、それ以上に、事件を放っておけない性分なのだということを。
そして、そんな弓木を二人は、とても好ましく思っている。
「おはようございます」
弓木たちの元まで来て、清水は頭を下げずに挨拶を口にする。
「おはようございます。清水刑事。現場を調べていたのですか?」
清水の態度に文句を言おうとした八重垣を、弓木は清水に気づかれないように制した。
「あなたをお待ちしてました。上司からの命令なので」
「そうですか。それは有り難い」
だけど弓木自身も気の長い方ではない。
清水の、弓木の後ろにいる二人を無視したような言葉に冷笑を浮かべ、清水を見る。
「こちらへどうぞ」
清水はそれに気づかず、三人を現場まで誘導する。
野次馬から微かなざわめきを背に、弓木達はハイツの階段を上り、部屋の入り口に立った。
「鑑識作業は終わっていますが、あまり物を動かさないようお願いします」
「誰に、言っているんだ……」
「え?」
弓木のつぶやきに、清水は首を傾げたが、弓木は作り笑いでやり過ごす。
「さて、始めようか」
「はい!」
弓木はすぐに部屋に入らず、玄関口から部屋全体を見る。
玄関から真っ直ぐ廊下が突き当たりのリビングまで続いている。
玄関から見て、廊下の右側に風呂場とトイレ、左側に、寝室だろうか、部屋がもう一つある。
廊下の床には、死体があったのか、白いテープで人型が象られていた。
床に水気はなかったが、一応靴下にビニールカバーを掛けて、一歩廊下に足を乗せる。
「ここに男性の死体があったんですね」
八重垣が白いテープの場所を、凝視する。
「そうみたいだね。八重垣くん、写真をお願いするよ」
「はい」
八重垣は斜めがけしていた鞄から、デジカメを取り出し、シャッターを押す。
「写真なら、鑑識が取っているので、先日渡した資料にもあったはずですが?」
清水の言葉に、弓木は清水に視線を向けて、作り笑いを浮かべる。
「確かにありましたが、こちらでも撮っておきたいんですよ」
デジカメのシャッター音を聞きながら、清水は眉間にシワを寄せた。
そして腕を組んで、三人の行動に目を光らせる。
清水のキャラが揺れている……




