19 また調べますか?
よろしくお願いします。
弓木探偵事務所の応接セットに弓木と清水刑事は対面で座る。テーブルには二つの湯気が立ち昇るコーヒーカップが置かれている。
弓木は、サーブしてくれた八重垣にお礼を言って、コーヒーカップに手を伸ばして一口飲む。
「うん。美味しいね」
「ありがとうございます」
弓木の言葉に、八重垣は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「さて、清水刑事はどんな情報を持ってきてくれたんでしょうか?」
清水は、コーヒーカップをじっと見つめる。
「毒なんていれてませんよ」
八重垣が心外だと言うように言った。
「弓木探偵、あなたと課長はどういう知り合いなんですか?あなたは、課長の抱えているものを、知っているんですか?」
「……さあ?なんのことでしょうか?」
作り笑いを浮かべ、弓木はコーヒーを飲む。
清水は視線を弓木に向け、膝に置いた両手を握りしめる。
「課長は、意図的に情報を捜査本部に挙げず、秘匿していました。そんなこと初めてで、あなたが昔から課長の知り合いなら何か知っているかと思って…」
コーヒーカップをソーサーに戻して、弓木は真っ直ぐ清水の視線を受け止めた。
「知りませんね。五十嵐課長とは仕事の付き合いだけですから」
肩の力を抜いて、清水は俯いた。
「そう、ですか。すみません、変なことを言って」
「いいえ。お気になさらず。今日はそれだけですか?」
「あ、いえ、情報を伝えてくれと課長に言われまして」
気持ちを切り替えて、清水はスーツの内ポケットから折りたたんだ紙を取り出して、弓木に手渡す。
「被害者の女性が妊娠していました。DNA鑑定の結果がまだ出ていないので、父親が誰かはまだわかっていません」
弓木は、手渡された紙を見つめ、眉を顰めた。
「こちらでも調べてみます」
「何かわかりましたら連絡ください。では失礼しました」
清水はそう言って事務所を出て行った。
ゆっくり閉まるドアを見つめ、弓木は眉間にシワを寄せる。
「…情報を隠匿すると処分対象になる可能性があるのは知っているだろう。何をしてるんだ、洋介…」
誰にも聞こえない声量で、弓木は呟いて上着の内ポケットから手帳を取り出して、最後のページを見る。
そこには、五十嵐のデスクに置いてある写真と同じものが挟まっていた。
「弓木さん?」
健哉の声に、弓木は物思いから戻り、先ほど清水から受け取った紙を健哉に渡した。
「被害者の女性の周辺をもう少し、調べてみよう」
「はい」
渡された紙を見て、健哉と八重垣は頷いた。
ありがとうございました。