17 上司ですか?
真夜中過ぎ。弓木に弁当を押し付けて戻ってきた五十嵐は、
捜査会議の後、清水に弓木への伝言を頼み、一人刑事課の自席で一冊の捜査資料を見つめていた。
それは、もう解決した事件。犯人は今も刑務所の中にいる。
だけどその犯人を捕まえるために、弓木の大切な人が亡くなり、弓木自身も警察を辞めた。
誰もいない部屋に、ページをめくる音だけが響く。
「何を見ているんですか?」
入り口からの高圧的な声に、五十嵐は視線だけを向ける。
「これはこれは、指揮官殿ではないですか。本部に詰めてなくていいんですか?」
小馬鹿にした言い方の五十嵐に、指揮官殿と呼ばれた人物、今回の捜査本部を指揮している本庁の管理官、山北裕二、四十五歳は、一瞬嫌そうに顔を顰める。
「効率の良い仕事をするには、少しの休息が必要。あなたが、昔言っていたことだ」
五十嵐が嫌そうに顔を顰める。
「そうですね」
資料を閉じる音が、部屋に響く。
「その資料、あなたの相棒だった刑事が辞職した事件、ですか」
山北が嘲笑うように言った。
五十嵐は殺意を込めて、山北を睨みつける。
「辞職、せざるを得なかった、ですよ。あいつは、刑事を辞めたくて辞表を出したんじゃない。警察に絶望したんだ」
「ふん。それで今は探偵、ですか。だけどそのおかげで、あなたはその地位を手に入れたのでしょう?彼が辞めてくれてよか……」
山北の言葉を遮るように、五十嵐はバンッと、デスクを殴った。
「あんたに、何がわかる……っ!」
五十嵐の怒りを込めた視線を、山北は冷めた目で見下ろす。
「本当のことでしょう?」
「っ!」
「そろそろ休憩は終わりです。捜査に戻ってください」
腕時計を確認して、山北は言って部屋を出て行った。
「くそっ!」
弓木が警察を辞めたことを、よかったと思ったことは一度も無い。だけど、刑事課長になれたのは探偵になった弓木のおかげだったのは図星で、返す言葉が見つからなかった。
奥歯を噛み締めた五十嵐は、デスクに置いてある写真立てを泣きそうな顔で見つめる。
写真立てには、二人の男性が笑顔で肩を組んだ写真が入っていた。
それは、警察学校を卒業した頃の、弓木と五十嵐の姿だった。
サブタイトル考えるの難しいです……