16 隠してました?
隠し事ってバレますよね。
捜査本部に戻った清水は、急いで刑事課課長、五十嵐の姿を探す。
五十嵐は部屋の後ろで、他の刑事と話し込んでいた。
「課長!」
控えめだが語気を荒げた清水は、五十嵐に突進していく。
清水に気づいた五十嵐は、訝しげな顔を清水に向ける。
「なんだ?そんなにあわてて」
「あの、そのっ」
ちらちらと、五十嵐が先ほどまで話していた刑事に視線を向ける清水に、五十嵐はため息を吐き、話していた刑事に言った。
「悪い、その話はまた後で」
「わかりました」
五十嵐に一礼して、刑事は書類を手にして部屋を出て行った。
「で?なんだ?」
「課長は、被害者の女性が妊娠していたこと、知っていたんですか!?」
「……」
真剣な表情の清水に、真っ直ぐ視線を合わせ、五十嵐は頷いた。
「ああ。俺が伏せたからな」
「っ!?何故ですかっ」
五十嵐は視線を逸らし、部屋で指揮を取っている人物を盗み見た。
「俺は、もう誰も失いたくないんだよ」
「え?」
清水は眉間にシワを寄せて、五十嵐を見つめる。
「清水」
「はい」
「その情報を誰にも気づかれずに、弓木に伝えてくれ」
五十嵐の横顔をしばらく見つめて、清水は弓木探偵事務所に向かうため、会議室を出て行った。
部屋を出て行く清水の後ろ姿が弓木の後ろ姿と重なって見えて、五十嵐は引き止めそうになった。
奥歯を噛み締め、衝動をやり過ごした五十嵐は、頭を軽く振って気持ちを切り替えた。
ありがとうございました。