12 考察します?
よろしくお願いします。
大人しくなった清水を横目で見て、弓木は心のなかでため息を吐いた。
だけど大人しくなったのは、実は清水だけではなかったのを、弓木は気づかなかった。
八重垣と健哉も、弓木の怒りに当てられ、肝を冷やしていた。
弓木に気づかれないように八重垣と健哉は顔を見合わせ、頷いた。
決して弓木を怒らせてはならない、と。
「じゃあまず、死因についてだけど」
「はい。資料を見る限り複数箇所刺されての失血死となっていますが、気になるのは血中に睡眠薬の成分も、アルコールも検出できていない、ということでしょうか」
八重垣は手元の資料を見ながら、言った。
「うん。そうだね」
弓木と同じ意見だったのが誇らしくて、八重垣はニマリと笑みを浮かべそうな口元を、考えている振りをして手で隠す。
弓木は、清水から受け取った資料から、二枚写真を取り出してデスクに置いた。
「これは……」
「今回の事件で遺体となった、二人の写真だよ」
健哉と八重垣は、写真をじっくりと見つめる。
そこには、衣服を真っ赤に染め、床にうつ伏せに倒れている男性と、湯船で首から血を流している女性が写っていた。
写真から、男性は大柄で筋肉質。女性は華奢な身体だった。
「例え男性が油断していたとしても、こんな包丁で刺されたら抵抗するだろう?」
弓木はもう一枚写真を取り出し、デスクに置く。
「凶器、ですか」
「そう。どこにでもある、包丁だ」
刃渡り十八センチほどの包丁が、写真に写っていた。
「そうですね。だけどあの部屋には……」
健哉がパソコンを操作して、さっき撮ってきた写真をモニターに表示させる。
「どの部屋にも争った後がない」
「どういうことでしょうか?」
弓木は首を傾げた八重垣から、視線を応接セットのソファに座る清水へと移した。
「清水刑事」
「はいっ!――っごほん。なんですか?」
声をかけられると思っていなかったのか、清水は弓木の声に目に見えて驚いた。
それを誤魔化すように咳払いをして、平静を装う。
一瞬呆れたような顔をして清水を見たが、弓木は作り笑いで清水に聞いた。
「血中に薬剤成分なし、アルコール成分なし、部屋に争った後なしのこの報告を、捜査本部はどうみているのでしょうか?」
「あ、ああ、そのことですか。それは……。ん?これ一般人に言ってもいいのか?」
語尾で自問しだした清水に、弓木は冷ややかな笑みを浮かべる。
弓木の冷笑を見て、清水は青ざめ話し出す。
「捜査本部では、検出できない薬剤を使用したのではないか、と薬剤の洗い出しをしています!」
「……。そうですか。ありがとうございます」
死体検案書を見ながら、弓木は考える。
首を絞められた形跡もなし、注射痕もなし、スタンガンを押し当てられたような火傷もなし。
心臓発作を起こした訳でもなく、持病もなかった。
「一体、どうやって……」
大柄の男を華奢な女性が、抵抗もさせずに複数箇所刺して殺す。
弓木の思考は、答えを見いだせずにいた。
独学だと限界が……